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やっぱ脳まで筋肉で出来てる奴は駄目だな

 俺とエクレアは近くの座れそうな岩の上まで移動して元六魔将の一人である、グランの話を聞く事にした。こいつの言葉を借りるなら、リュカとリーンがピンチってわけだ。どういう状況なのかを知りたいしな。


「それで、今はどんな状況なんだ?」


「話すとちょいと長くなっちまうが……」


「いいよ、お前が話したい内容で話してくれ」


 もう、急いでも仕方がないだろう。それよりも、できるだけいらなさそうな情報でも回収する方が先決だろう。グランは見た目からして、あんまり話し上手に見えなさそうだし、こっちでいらない情報の選別をした方がいい。


「オレ達は六魔将の噂を聞いて討伐しようと、リーン国内の東の町まで移動したわけだ。大賢者が、水の宝玉の件をアリマさんに任せっきりにしてしまったので、魔王軍の六魔将ぐらいは討伐しておきますかってな具合だったわけだ」


「いや、そんなついでに魔王軍の六魔将を倒す流れなのか」


 流石は賢者の総元締めである大賢者様だ。やはり、賢者のおかしな性格は一番トップである大賢者リーンのせいもあるのではないかと思えてきたわ。


「いや、恐ろしい限りだぜ。当然だが、勇者も人々を脅かす存在は早めに倒しておこうって事になって、討伐まで向かったわけだが、そこで待ち構えていたのは狡猾のオルトだったってわけだ」


「オルトだったってわけだとか言われても、俺達からすれば狡猾のオルトって誰だよって感じなんだよ」


 そもそも、六魔将全員に言える事ではあるが、自分でダサい二つ名を名乗るはよした方がいいと思う。オルトに関して言えば、狡猾って自分で言うか? 狡猾は長所じゃねえぞ。


「おおっと、すまねえな。俺は面識があるから、知ってる前提で話してしまったぜ。オルトは催眠魔術の使い手なんだ。難しい話はオレにはよくわかんねえが、生き物の深層心理に魔術を使って入り込むとかなんとか」


 ついに催眠ときたか、魔術ってのは俺が思っている以上に何でもありなんだな。俺はエクレアの方を見る。


「何ですか?」


 なんかさ、エクレアってすげー催眠とか簡単にかかりそうなイメージなんだよな。催眠だけじゃなくて、状態異常系全般全てに耐性がない感じだ。


「お前、催眠にかかるのだけはよしてくれよ」


「何を言ってるんですか、女神イリステラの敬愛なる信徒であるこの私が催眠なんかにかかるわけがないでしょう。ええ、断言しても構いませんよ。催眠なんかには絶対に負けません!!」


 すげー、不安だ。そのセリフは次の数秒後には負けてるやつのセリフなんだよなあ。とりあえず、エクレアが催眠にかかりやすいかは置いておくとしよう。


「大丈夫だ。オルトの催眠には目を見ないと発動しないっていう弱点があるんだ。つまり、オルトを視認せずに動けば問題ないってこったあ」


「なるほど、それは安心ですね。敵の足元の動きと影だけを見ていれば、相手の動きを見るのは簡単ですしね」


「何言ってんだこいつら、何で当たり前のように敵を見ずに戦う前提で話が進んでるんだ。脳まで筋肉で出来上がってんのか、脳筋野郎共が」


 普通の生き物は戦いの最中で、敵から目を離したら一瞬で負けちまうんだよなあ。影だけ見て、相手の行動が読めるなんて心眼か何かをお持ちなのかな。お生憎だが、俺は普通の人間なので敵を見ずに戦うなんて無理だかんな。


「なるほど、間違えて見てしまうかもしれないとアリマは不安に思っているわけですね。そういう時は目隠しをして戦えばいいんですよ!! 音だけを聞いて、敵にカウンターを仕掛けるだけで勝てます」


「名案ですみたいな顔してんじゃねえよ、ドンドンやられる可能性が上がってるだけなんだよ」


「嬢ちゃん、それはだな」


 おおっ、流石の脳筋トカゲのグランも目を隠して戦う事には反対のご様子だ。いいぞ、言ってやれ。目隠しして戦うのはおかしいって言ってやれ。おらっ、言え。


「めっちゃ天才じゃねえか!! オレでも、思いつかなかったぜ。なるほどな、目隠しをしやーいいわけだ。これで、オルト対策はバッチリだな」


「バッチリ? お前の中ではそうなんだろうな、お前らの中だけでなぁ!!」


 脳がわたあめみたいにスカスカな二人の会話には俺はついて行けそうにないよ。もういいや、催眠の事に関してはどうでもよくなってきた。それよりも、なんで催眠ごときでリュカとリーンがピンチになるのだろうか。


「結局、どうしてリュカとリーンがピンチなのかがわかんねえんだけど。まさか、リュカとリーンが催眠にかかって敵となったとでも言うんじゃねえだろうな」


「いやいや、それはないな。勇者は状態異常が効かない、女神の加護なる力があるみたいだし。大賢者リーンは保護魔術を使って防いでいたしな」


「なら、狡猾のグランとかいう奴が純粋に強いのか」


「オルトは俺よりも弱いぐらいだから強くはないな」


 なるほど、パワータイプではなく。その名の通り、テクニカルタイプって事ね。だが、今聞いている感じだとリュカとリーンがピンチになる要素が皆無なんだけど。本当に負けたんですか?


「言ってることが違うじゃねえか。なら、なんでピンチになってるんだよ」


「それはだな。東の町の住民を人質にされちまってんだ。勇者も大賢者もオルトに手が出せねえんだよ!! 卑劣な奴だぜ全く。戦いってのはよ、真正面から殴り合ってこそ楽しめるってのによ」


「なんて卑劣なやつなんでしょう!! 私も許せません、力のない人々を人質にとってこちらから手を出せないようにするなんて、最低です!!」


 俺は無言を貫いていた。そう、俺が思っていた事を口に出すことが出来なかったからだ。だって、普通じゃね? 勝てそうにない相手に絡めてを使って戦うのは普通の事なのではないだろうか。


 勝った方が官軍というのは歴史も証明してくれているし、そんな方法で負ける方が悪いのではないだろうか。


 まあ、人質ってのはスマートなやり方じゃねえとは思うけどな。したきゃすればいい、そんな感じしか感じなかったのだが、俺の目の前の二人はいない狡猾のオルトをボロクソに言って盛り上がっている。


「アリマもそう思いますよね!!」


「えっ、ああ、そうだな。人質なんて最低な行為だよな、俺も許せねえよ!!」


 俺はとりあえず場の空気に合わせておいた。流石にこの空気で普通じゃねなんて言う気持ちにもならなかったからな。


「おおっ、兄ちゃんもわかってくれたか。それでな、人質を取られた勇者と大賢者は民を犠牲にするわけにはいかないって、オルトに捕まっちまったってわけさ。くぅ、どこまでも男だぜ」


 話の流れは大体掴んだな。とりあえず言える事はリュカらしいと言えばらしいな。あいつは勇者になる事を夢見ていたからな。民を見捨てるなんていう、勇者らしからぬ行為はリュカには到底無理だろう。


「それで、俺を探していたってのは」


「勇者がな、アリマなら何とかしてくれるから探して欲しいって頼んできたからな。俺はアンタを探していたんだよ。思ったより弱っちそうで驚いたがな」


「弱っちそうで悪かったな」


 否定はしないけどな、弱っちいのは間違いないし。リュカが助けを求めてきた以上、親友である俺が何とかしてやらないとな。適材適所って奴だ、相手が催眠とか少しテクニカルな相手なら俺の出番も出てくるだろう。リュカがやりにくい相手は俺が相手するべきだな。

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