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生活魔術とかいう喉から手が出る程欲しい物

 アリシアは杖を振ると勝手にポッドとカップが動き出して、紅茶を入れた。


「へえー、この魔術便利だな。俺もこういう魔術使いたかったな」


 俺が自動で紅茶を作る魔術を褒めるとわかりやすくアリシアが嬉しそうにしていた。わかりやす!! こいつ、思ったよりもわかりやすいぞ。


「これは私が今開発している魔術なの。生活魔術って言うんだけどね。魔力があれば呪文の詠唱なしでも使えるから、庶民でも使えるのよ」


「へえー、攻撃魔術よりかは百倍いいな」


「そうなのよ!! でもね、ここの馬鹿共はやれ、火力だの強さだのを求めてばかりなの。馬鹿馬鹿しい、この時代に攻撃魔術を作っても仕方がないでしょうにって言いたかったんだけど、魔王とかいうのが出てきてしまったのよね」


 アリシアの言う事は一理ある。実際に魔王が現れなければ、平和な時代だっただろう。そうなれば、攻撃魔術よりも人々の生活を豊かにする魔術の方が喜ばれる世界になっていたのではないだろうか。


「まあ、どうせ。どんな魔術を作っても母さんの功績には叶わないでしょうけどね」


「リーンさん、嫌いなのか?」


「……ええ、嫌いよ。大っ嫌い!! 私よりも何倍も優れた魔術師で、私よりも強くて、その癖実力をひけらかしたりしない。私の自慢の母親」


 精神が屈折している。捻れまくって、取り返しがつかないくらいには捻れている。嫌いではないのだろうが。どうして、娘さんがこんなんになるまで放っておいたんですか、リーンさん!?


「さっきのは忘れて、私もわかってる。平和な時代だったとしても母さんの功績を超える事なんてできないし、私は一生大賢者リーン・ポートメントの娘だって、比べられる続けるって」


「まあ、嫌だわな。親と自分を比べられるなんてさ」


「私が賢者という役職についているのも大賢者の娘だからって、理由が大きいだろうしね」


 俺はカウンセラーじゃねえんだけどな。自分に自信がなくて、親の七光だと思っているんだな。それで、イライラしてしまうと。しゃあねえな、まともに話す為にも、もうちょい雑談してやるかな。俺って優しいよな。


「ふーん、俺には賢者の事とかよくわからんが生活魔術に関してはそこまで卑下するもんでもねえんじゃねえかなって思うよ」


「で、でも、みんな母さんが作った攻撃魔術を褒めてて、私の作った生活魔術なんて使えないだの言われてるし」


「そうか? 俺はどっちが覚えたい魔術かって言われたら生活魔術を取るぞ」


「えっ?」


 驚いた表情を浮かべるアリシア。いや、普通に考えて日常で攻撃魔術とか使わんだろ。使わねえもんいらねえよ。俺が魔術を覚えたかったのは空とか浮ければ楽やなって思ったからだし。


「お前さ、毎日水を飲んだりする時にコップとかカップに水を何回入れるんだよ。数えるのが面倒なくらい入れたりするだろ? その面倒さをお前の魔術なら解決してくれんだろ、そっち選ぶわ。それに比べて、攻撃魔術なんて覚えても魔物に効くかどうかなんてわかんねえしな。日常で、ぜってえ使わねえし」


「そっか、そういう考え方もできるんだ。でも、賢者の(やかた)のみんなはどうして評価してくれないんだろう」


 ああ、こいつ魔術とか開発できるぐらいには賢いんだが、世渡り的なのが上手くないんだな。それは、生活魔術が悪いわけじゃねんだよな。


「この生活魔術っさ、俺が思うに魔術を知らない一般人に受けがいいだろ。賢者の(やかた)にいる魔術師はみんな魔術師だからこそ、便利よりも根本の魔術の強さにしか興味ねえんだろ」


 ゲームで言うところのガチ勢とカジュアル勢の違いだろ。そもそも、売りたい相手が違うんだよ。


「だから、学校とか作って庶民でも魔術が使えるように広めればいいんじゃねえかな。そうすりゃ生活魔術の方が評価が高くなるんじゃねえかな」


「盲点だった。貴重な意見、感謝するわ。でも、学校っていうのは?」


 あっ!! しまった、またやっちまった。学校がないのははぐれ村の時にわかってた事じゃねえか。ま、まあ、説明してもいいよな。学校くらい別に。


「学校っていうのは、一人が講師として立って不特定多数に物を教える場所の事だよ。この場合は、お前が一般人にも魔術を教えてやって、魔術を理解できるものを増やしてやればいいんじゃねえか」


「なるほど、学校。いいわね、それ。ちょうど、魔術を使えない人間にも魔術をもっと多くの人間に覚えて欲しいと思っていたのよね」


「ほおー、よかったな。それで、俺の方の話をさせてもらってもいいか?」


「そうね。私の話ばかり聞いてもらっても申し訳ないし、どうぞ」


 アリシアの心に余裕が戻ってきたな。本来はこういう感じの人物だったんだろうな。それが、余裕がなくてピリピリしてたんだなって。


「さっき、言った通りだ。水の宝玉が欲しい、条件があってもいいからくれないか?」


「水の宝玉ってこれよね」


 そう言うとアリシアは指をパチンと鳴らした。その瞬間、空間に穴が開いて、中から青い玉が飛び出してきた。


 すいませーん。この賢者親子、すげえ簡単に瞬間移動したり異空間から物を取り出したりするんですけど、それって魔術師なら当たり前なのか? 絶対、違うよな。


「これって、そんなに価値があるものだったんだ。んっ? どうしたの?」


「いや、その空間」


「ああ、なんて事はないわよ。生活魔術の応用でちょっと物がしまえる空間ってだけよ。入る容量も決まってるし、たいしたもんじゃないわ」


 容量が決まってるとしても、外である程度物が入るタンスがあったら絶対に便利だろ。そういうのをもっと全面的に押していけばいいのではないだろうか。


「そうね、貴方になら渡してもいいかなって思うんだけど、条件があるわ」



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