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男の子は決闘が好き。俺は嫌い

 王都セイクリアにて。俺とリュカを出迎えたのは騎士の格好をした男であった。


 どうやら彼はこの国王子らしい。


「ふんっ、このみそぼらしい村人共が勇者? 何かの冗談だろ」


 出会ってそうそうこんな事を言いやがった。顔がちょっとイケメンで金持ってるからって、まじムカつくよな。


「僕はリュカって言います。よろしく」


 見ろよ。どんなん態度を取られても俺と違って温和で礼儀正しいリュカの姿をさ。


 これが世界を救う勇者の姿だよ。反省しろよ王子。


「ハーゲンだ」


「よろしくハゲ」


「ハーゲンだっ!! 貴様、わざと間違えてるだろ!! そもそも、お前は何だ」


 俺の事を指差してくる。まあ、あっちからしたら勇者と親しいってだけで、何でついて来てるのかわからん人だよな。


 門番も何だこいつみたいな目つきで見てきたもん。俺が門番だったら同じ事思うから仕方ねえ。


 ちょっくら挨拶でもしてやるか。


「勇者の友達って所だな」


「勇者の金魚のフンって所か」


 俺の言葉を聞いたハーゲンは俺に興味をなくしてしまったようだ。俺もお前に差して興味ねえからいいや。


 俺はリュカとハーゲンの話に耳を傾ける。どうやら信託の巫女とやらが、女神イリステラからの信託を受けてリュカを勇者に選んだらしい。


 王子はリュカを勇者と認めてないのか、やたらとリュカ突っかかってくる。


 王様が待ってる玉座に移動するまでの間、すげーうざかった。


 リュカが我慢しているので俺も我慢した。命拾いしたな。俺は何も出来んけど。


 玉座につくなり王様の説明が始まった。


「おおっ、勇者様よくぞ参られました。統一王が世界を統一して平和になった世界ですが、平和を脅かす者が現れました。『魔力』の王、通称魔王と呼ばれる存在である。魔王のせいで魔物という存在もはびこるようになってしまった。どうか、平和な世界の為にも勇者様には魔王を倒していただきたい」


「はいっ、勇者になるのが僕の夢でした。是非やらせてください」


 凄いぜ、王様って言ったらこんな感じでお願いしてくるよなって感じの事を言ってきやがった。


 前世で見たゲームの王様を思い出すなぁ。まさか、本当にこんな事を言うとは思わなかったよ。


 それで、統一王とか変な言葉が出てきたな。こいつの名前はこの世界で暮らしているとよく聞く。


 名前の通り世界を統一して平和をもたらした人物らしい。まるで神話の話みたいだろ? 実際、伝承みたいな伝わり方してるみたいだしな。


 ちなみに、何とこの統一王は生きているらしい。俺もそこまで興味はないのでこの程度しか情報はない。


 とりあえず俺は何となく場の様子をうかがいながら、とんとん拍子で進む話の流れに喜びを感じていた。


「お待ちください父上。この者が勇者というのも信じがたい話です」


 ハゲ、やめなさいハゲ。いい感じに話がまとまってたでしょ。


 絶対面倒な事言い出すだろ。お前は勇者君のライバルポジをとろうとしてるだろ、そうだろ。


「しかし、信託の巫女様が女神イリステラから信託を受けて、おっしゃられた事だからの」


「ならっ、私に是非勇者との決闘をさせてください。私以下の戦力の勇者などいらないでしょう」


 俺は驚愕してしまったよ。


 ハゲさん、普通に考えてください。ちょっと前まで農村で普通に畑仕事ばかりしていた少年を相手に、騎士の修行をしてきた人間が負けた方が間違えなく恥をさらす事になると思いますよ。


 絶対、恥かきますよ!! 俺の心の叫びも虚しく。周りは勇者と騎士団長との勝負で盛り上がっている。


 リュカもやる気に満ち溢れているようだ。ああ見えて、負けず嫌いな所があるからな。


「今さら怖気づいても遅いぞ」


「ううん、受けて立つよ!!」


 闘志を散らしながら、二人は王城の広場へと向かって行ったようだ。王様もそちらへ移動するようなので、俺は声をかける事にした。


「すんません、信託の巫女様というのはどちらに」


「おぉ、今なら部屋にいると思うが巫女様に会いに行くのか。君は勇者の幼馴染と聞いておるが、勝敗が気にならないのかい」


「ははっ、勝敗が最初から決まっている勝負をわざわざ見る必要ありますか」


 この勝負の勝敗なんて最初から決まっている。リュカが負けるはずないのだ。


 俺は努力など一切していないが、リュカが努力している姿は見ている。背が低く、ショタ顔していながら負けず嫌いで努力家。


 俺がリュカに勇者になると言い続けて村の誰一人として信じていなかった中。リュカだけが信じて修行してきたのだ。


 王都の騎士団長に通用するのかは知らないが、あのリュカが負ける姿が想像できない。


 という事で、俺は自分の気になる事を優先させてもらうぜ。王様に場所だけ聞いて、俺は一人信託の巫女がいる場所に行く事に決めた。


「よしっ、勇者と騎士団長との戦いを見に行っているおかげで誰もいないな」


 とりあえず、物陰に隠れて俺は女神イリステラとの通話を試みる事にした。


 何だかんだで十数年この世界にいたが、このスマホは間違えなくオーバーテクノロジーである。


 魔導機械というのがあるらしいが、それも特定の場所で研究しているとかだ。


 一般には出回るわけもなく、ましてや通話できる小型の端末なんて出来るはずもない。


 まあ、このスマホ。職業ガチャか女神様との通話しかできないわけだが。


『はいっ、貴方の愛しの女神イリステラよ』


「きっしょ!! 切るわ」


『えっ、切っちゃうの。嘘よね。もー、そうやっておどか……』


 ここいらで腹が立ったので本当に通話を切ってやった。すると、女神様からの熱いラブコールでスマホが震えるので仕方なく出てやった。


『本当に切るやつがいるかーーーー!!』


「これに懲りたら気色悪い物言いはやめるんだな。俺とお前は利害関係の一致で、手を組んでいるにすぎん」


 女神イリステラが勇者に魔王を倒させたら、何でも願いを叶えてくれるというからこちとら頑張ってるのだ。


 そうじゃなかったら、誰がこんなめんどくさい事するか。


『連れないわね。それでいったい何のようなわけ。アンタから通話してくるなんて珍しいじゃない』


「いや、お前にしては上手くやったなと思ってさ。でも、今度からは俺にも連絡が欲しいって話だ」


 いい手腕だったと褒めてやろう。


 女神イリステラの信託としてリュカを勇者に任命するなんてな。これで、無理なくリュカを勇者として旅立たせる事ができるってわけだ。


 基本的に何もしない系自称女神のイリステラにしては、いい判断だったと思うぜ。


 俺はいい事をした時にはちゃんと相手を褒めるぞ。


『えっ、何の話?』


「いや、だからお前の信託という形でリュカを勇者にしたって話だろ」


 何だ、いつもと反応が違うな。俺が少しでも褒めたら、そうでしょそうでしょ流石私ねぐらいのテンションで、もっと褒めなさいと言ってくる感じなのだが。


『何それ、アタシ知らないわよ。こわっ』


「いや、お前じゃないんかい!? えっ、じゃあなんだ。お前じゃない奴が女神イリステラの名前を語って、リュカを勇者にしたって事なのか。何の意味があるんだそれは?」


 いや、リュカは勇者になる為に努力していたのは知ってはいるが、それは村の中でしか知られていないはずだ。


 リュカは別に親が元賢者でとかそういった事もない。一応は領主の息子だがそれだけだ。


 リュカ自身が何か特殊な力を持っているわけでもない。女神イリステラがリュカを勇者に任命する以外に、一体誰に何の得があるというのだろうか。


『だ、だって、今の私は力を失っていて地上への信託なんてとてもじゃないけどできないわよ。アンタとの通話だって結構厳しいんだからね。感謝しなさい、女神とこんなに喋れるなんてアンタは幸せ者よ』


「夜に友達に電話をかけるみたいに毎日かけてきてうざいと思っていたんだ。丁度良かったな。もう夜に通話してくんなよ」


 そう、この女神様は暇なのか夜になると一日の報告と称して通話してくるのだ。どうやら、あの真っ白な女神空間から出られなくて寂しいようだ。


「てか、前々から聞きたかったんだが何でリュカが勇者なんだ?」


『それはね運命的にリュカ君には勇者になって貰わないと私が困るのよ。そんな事はどうでもいいわ。それよりも誰よ、私の名前を使った不届き者は!!』


 俺は言い出せなかった。その不届き者は女神様よりもよっぽど俺に協力的ではないのかと思ってしまうからだ。


 結局、女神イリステラは口だけ命令してくるだけの役立たずという事である。


「信託の巫女とか言ってたな。丁度良かった。俺も気になってはいたから会いに行く所だったんだ」


『そうなの、じゃあまた夜に通話するからその時に教えてねー』


 このスマホ着信拒否にはできないのだろうか。俺は女神との通話を済ませて、改めて信託の巫女がいるという部屋まで向かうのであった。

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