たまには可愛い所もあるんだな
海賊になって、初めての夜。シルドラがエクレアがいるって事で個室を用意してくれたらしい。いくら相手がエクレアでも女性と男性は分けた方がいいよな。
「んで、俺はどこで寝ればいいんだ?」
「お前もここだ。昼間に起きた事を考えると、お前が一緒の部屋の方がいいだろう。というか俺から頼む。一緒の部屋で寝てくれ、もう俺の海賊船を壊されたら、たまったもんじゃねえよ」
まあ、昼間にエクレアにセクハラしようとしたシルドラの部下が壁に埋められていたもんな。つまり、壁がぶっ壊れているわけだし、壁でまだマシだったが次はどうなるかなんて考えたくもねえもんな。
「だが、断る!! 俺はな、宿の部屋を取る時も二部屋ちゃんと分けて取ってるんだよ。男女だし、よくねえかなって思ってさ」
そのせいで無駄にお金がかかったとも言えるが、しかし恋慕の関係でもない男女が同じ部屋というのはよくない事だろう。そこら辺は一線を超えてはいけないと思っているからな、ヘタレって思った奴は後で廊下な。
「前々から思っていたのですが、私はアリマと同じ部屋でも構いませんよ」
「ド淫乱が、聖女のせいは性の文字か? そこは、男と同じ部屋なんて絶対に駄目ですっていう所だろうが」
「ド淫乱!?!? わ、私だって誰とでも同じ部屋を許可するわけじゃありません。アリマならいいってだけです」
エクレアは照れたようにそう言った。いやいや、駄目ですよ。男はね、簡単に勘違いしちゃう生き物なんすよ。よかったな、俺がそう簡単に騙されない人間でな。
「はいはい、ごちそうさん。同じ部屋でいいって事でいいな。アリマ、これも仕事って事でよろしく頼むよ」
そう言って、何とも言えない状況でシルドラが呆れ顔で逃げて行った。あいつ、この状況で俺を置いていきやがった!! クソ、何この状況。エクレアは照れくさそうにこっちをチラチラしてるし。
「んで、ベッドは一つね。まあ、二人用の部屋じゃなくて一人用の小部屋みてえなもんだしな」
部屋を見ると、特にベッド以外は小さな机があるくらいの部屋だ。二人で寝ろって言われても、俺が地べたで寝るスペースもねえんだが。
「あれだな、見張りってだけなら。扉の前にいればいいだろ。俺は扉の前で寝るよ」
我ながらいい提案である。少し寝にくいとは思うが、もう仕方がないだろう。俺が出て行こうとすると。腕が凄い力で握られた。おーい、腕が内部出血しそうなぐらい痛いんすけど。
「大丈夫ですよ!! ほらっ、ベッドがまあまあ大きいですし、二人で寝れちゃいますよ」
「健全な男女は同じベッドで寝ないんだよ」
「でもでも、廊下で寝るのは疲れが残ってしまいますよ。明日から動く事を考えると、きちんと寝ておいた方がいいと思いますよ」
ここら辺は素で言ってるんだろうな。だって、恥ずかしそうにもしてねえし。はぁ、俺が抵抗しても腕が引きちぎられそうだし、こいつが寝たら脱出しればいいか。
という事で、半分諦め気味で俺はエクレアと同じベッドで横になる。何故か、エクレアと同じ向きで寝る事に。
「寝にくいから、反対向けや」
「私はいつもこっち向きで寝てるんですよ」
「じゃあ、俺が反対向くわ。わかった、無言で腕を掴んで抵抗の意思を見せるはよせ!!」
何で、お前と面と向かって寝なきゃなんねえんだよ。何かずっと笑顔だし。はぁ、俺と一緒に寝るのの、何がそんなに嬉しいんかねえ。特に喋るわけでもねえのにな。
んっ、なんか変だな。いつもと様子が違うような気がする。俺の腕を掴んでいるエクレアの手が震えているのだ。
「お前、何だ。まさか、昼にシルドラの部下に襲われた時に怖いと思ったのか」
俺はいつものように茶化すように言ったつもりだったのだが、図星だったようだ。エクレアはビクッと体を震わせていた。シルドラいる手前我慢していたようだ。
「ふーん、でも相手は普通の人間だろ。何も怖がる事はねえんじゃねえか。お前の相手になんねえだろ」
こういう事は盗賊に囲まれた時にも一度あった事だ。その時はエクレアの様子は何ともなかったのだが。何故、今回は怯えた様子なのだろうか。それがわからない。
「いえ、その、自分でもよくわからないのですが。ドラキュラに襲われてから、なんか囲まれると不安感が出てしまって」
「そういう事か」
「アリマは原因がわかるんですか?」
「それって、トラウマになってるんじゃね」
俺もエクレアが強いから忘れていたが、エクレアがいくら強くても、不安になる事もあるし怖がる事もあるだろう。
特にドラキュラとの一戦で、自分より強い相手がいるかもしれないっていうのが身に染みたんだろうな。それが、体に現れているようだ。
「へえ、そういう可愛らしい所もあるんだな」
「か、かわ、可愛い、可愛らしい!?」
「すまん、俺が悪かった。照れ隠しなのかなんなのか知らんが腕の力を落としてくれ、俺の腕潰れるって、てかいい加減離せや!!」
照れて赤くなった表情とは裏腹に、俺のガッチリと掴まれた腕は今にも破裂しそうだよ。血の海になるからさ。
「す、すいません」
俺の腕を離してくれた。そうか、やけに今日は俺の腕を掴んでくるなと思っていたが、俺が部屋を出て行こうとするのがエクレアの無意識で止めていたんだな。
つまり、こいつを安心させねえと俺は永遠に寝れないか、永遠に寝るかの二択ってわけだな。
「どーすりゃいい。俺に何かして欲しい事あるか?」
「えっ、アリマが私の為に何かしてくれるなんて珍しい」
「あぁ!! じゃあ、何もしねえぞ!!」
「わかりました!! えーと、じゃあ。その、手を握ってくれますか」
「そんな事か、はいよ」
そう言われたので、エクレアの手を握った。何だかんだで自分の意思でエクレアに触れたのはこれが初めてな気がした。少しすると震えは止まったようだ。
「今日はちゃんとそこにいてくださいね」
「はいはい」
子供寝かしつける気分になった。だが、エクレアお前は理解しているのか。俺だって、そいつらと同じ男なんだぜ。俺に襲われるかもって考えねえのかな。
と思ったけど、壁に穴が一つ増えるだけで終わるだけか。そしたら、次の日にシルドラに怒られちまうもんな。そんな事を考えているとエクレアの方から寝息が聞こえてくる。
「やっと寝たか、んじゃな」
俺はエクレアとの約束を早速破った。いやだってさ、今度は俺が寝れないのよ。女性特有の甘酸っぱい匂いがして、気になって寝れないんよ。という事で、悪いな。俺は外で寝る。
手を離そうとしたら、エクレアが強く握ってきた。俺がベッドから出ようとしているのがバレたのかと顔を見ると寝息を立てたままだ。つまり、無意識ってわけ。
「てか、待て。凄い力何だけど!? 俺の手が潰れるんだけど!!」
騒いでも全然起きねえし、何だこいつ。クッソ、どーすりゃいいんだよ。俺はエクレアの手を掴み直した、するとエクレアの握る手の力が緩んだ。ふぅ、危ねえ。
「なに、つまり俺はベッドから動けないって事か?」
だって、そういう事やんけ。掴んでないと手を握りつぶされる。俺はもうベッドから動けない。という事は俺は今日寝れないって事かよ!! 勘弁してくれよ、エクレアさん。
俺の気持ちなど関係なさそうに気持ちように寝ているエクレアの顔を見ながら、俺は静かに夜が明けるのを待つのだった。




