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普通の船に乗り込んだと思ったら海賊船だった

「いやー出来心だったんすよ。許してくださいよお頭(おかしら)


 俺とエクレアはタルごと、吊るされていた。下を見ると真っ青な海。上はロープ一本で吊るされている。シルドラと名乗った海賊は手にはカトラスを持っている。絶体絶命っすね。


「誰が、お頭(おかしら)だ」


「だから言ったんですよ、密航などしていけないと、ほら見てください。神様は見てますよ。罰が当たったんですよ罰が」


「えー、今言うかそれ。純然たる賭けの結果で決めた事だろうが。俺のせいにするのか、これが聖女の姿か?」


 純然たるイカサマの結果だが、いやでもまさか、間違えて海賊船に乗り込んじゃうとはこのアリマの目を持ってしても読みきれなかったな。


「しかも、私泳げないんですよ!! こっからどうすれば助かりますか」


「知らんけど、どうにもなんない気がするぞ。海賊船に乗り込んだ不審者って扱いだからな。そうだ!!」


 どうせ、このまま海に落ちる事になるなら言いたい事言って落ちた方がマシだよな。


「シルドラ、俺達を水の大地に連れて行ってくれねえか?」


「お前、今このタイミングでお願いしてくるなんざ。頭がおかしいじゃねえか」


「頼むよ。この通りだよ」


「どの通りだよ。タルから顔だけ出してるだけの分際でよ」


「じゃあさ、タルから出してくれよ!! 土下座でも何でもするぜ、俺は!!」


「何で、お前がキレ気味なんだよ」


 シルドラはドン引きであった。むかつく奴に頭を下げるのは死んでもごめんだが、恥を捨てる程度で生き残れるなら俺は喜んでするぜ。


「あっ、隣にいる女聖女なんすよ。奴隷として売ったら、高値高値で売れると思うんすよね。どうすか、シルドラの兄貴」


「ちょちょーい!! どさくさに紛れて、私を売ろうとしないで!!」


「大丈夫だって、後でぜってえ買い直すからさ」


「いい加減私も、アリマの事をわかってきたんですよね。ぜぇーーーーーーーたいに見捨てますよね」


「そんな事ないぜ。俺の目を見てくれ、この目が裏切るような人間の目か?」


「死んだ魚のような目をしています。これは裏切り者の目です!!」


「ふざけんな!!」


 最近だが、俺の日頃の行いの成果でエクレアが騙されなくなってしまった。人を疑うと言う事を覚えたようだな。よかったね。大人の階段を登っちまったようだな。


「おいおい、見苦しい夫婦喧嘩するんじゃねえよ」


「夫婦じゃねえよ!!」「夫婦じゃありません!!」


「そうか、じゃあ来世ではもう少しマシに生きるんだぞ」


 シルドラが呆れた表情で、縄を斬ろうとしてくる。やばいって、どうにかこの状況を打破する方法をはねえのか。


「あわわわわ、もうおしまいです。こんな事なら、最後の食事はもっといいものを食べたかった。何ですか、ドッグフードってアリマ!!」


「うるせえ、ちょっと黙ってろ!! そうだ、やいシルドラ!! 決闘だ。決闘で決着をつけようじゃねえか、俺が勝ったら一旦船に乗せて水の大地に向かってもらおうか!!」


「お前が交換条件を出せる立場なのか。ああァ!!」


「いいのか、海賊の船長ともあろう男が決闘一つ受けられないなんてな。ああ、なんて女々しい男だよ。俺は海の底に行ってもお前の女々しさだけは覚えておくからな」


 いや、自分でも言ってる途中から支離滅裂だし、これで決闘を受けてくれる奴なんざいねえ事はわかっているが、なんかもうどうしよーもねえので、最後の足掻きだ。だが、俺の内心とは裏腹にシルドラの動きがピタリと止まった。


「今何つった?」


「へ? 海賊の船長」


「その後だ!!」


「えぇ、その後って、()()()()()ってとこか?」


 いつもの適当な煽り文句でしかなかったんだが、どういうわけかシルドラは怒っているのか、悲しんでいるのかわからない顔をしている。その顔はどういう感情なんだよ。


「いいだろう、決闘を受けてやるよ。俺は男の中の男だからな、ただしお前が負けたら縄でくくって鳥の餌にしてやるからな」


「やめてください、鳥にも食べる物を選ぶ権利がありますよ!!」


「今のは聞かなかった事にしてやるよエクレア。何とか、首の皮が一枚繋がって俺は上機嫌だからな。じゃ、後は勝つだけだぞエクレア」


「おめえがやるに決まってんだろが!!」


 だよなあ。という事で俺だけ降ろされて、エクレアは改めて、海賊達に吊るされなおしたのだった。俺は吊るされているエクレアの近くによった。海賊達も最後の話になるかもって事で待ってくれている。


「アリマ頑張ってくださいね。私はアリマの事をやれば出来るって信じてますよ」


 いい笑顔でそう言った。なるほど、お前は俺が最後に言葉をかけに来たって思ってるわけだな。俺は近くにあったハンドルに手をかけた。


「へえ、これでエクレアの高さ調節ができるんだ。ふーん、へえー、そう」


 俺は時計回りとは逆向きの方向にハンドルを回し続ける。すると、エクレアはドンドンと海に近くなっていく。


「ちょ、えっ、アリマ!? 海に近くなっていってますけど!?」


「俺はこの瞬間を待っていたんだ!! 誰が、鳥の餌にもなれねえって!! 俺は受けた恨みだけは忘れねえ男なんだよ。俺は鳥の餌になるかもしれんが、お前は魚の餌になれ」


「な、なんと器量の小さい男なんですか貴方は!! そんなんだから、ああ、待って、わかりました。私が悪かったです!! つま先に水が!?」


「まあ、俺が言うのもなんだがその辺にしといたらどうだ」


 海賊であるシルドラとその部下達に止められて、エクレアは上に帰ってきた。なんか恨みのこもった目でこちらを見ているが、皆目見当もつかんなあ。


「ふん、それで。決闘には何を使うんだ。大抵の武器はある。欲しい武器があるならいいな!!」


「気前がいいな。そんなに女々しいって言われたが嫌か。俺にはこれがあるから遠慮しておくぜ」


「何だ、その板は?」


 俺はスマホを取り出した。もちろん、職業ガチャの画面を開く。金はねえが、俺には運命の塔で手に入れた無料のガチャチケがある。本当はこんな所で使いたくはなかったがな。


 職業ガチャをタップ。いつもの青背景演出からの、青、青、青、青、青。すまんが、無料ガチャだからって、確率を弄るのは駄目だぞイリステラ。中身は、戦士、弓使い、神官、格闘家、魔法使いだ。被りがない事に驚いた。


 さて、この中ならどれが適正だ。シルドラは見るからにカトラスという剣を使うだろう。船の上で戦う都合で、弓使いと魔法使いと神官はなし。戦士と格闘家だが、船の上だし得物は小さい方が有利だろう。俺は格闘家のカードを手に取る。


「クラスチェンジ、格闘家!!」


「姿が変わった!?」


 どうやら、急に姿と雰囲気が変わった俺にシルドラは驚いているようだ。


「今回の俺の武器はこの拳ってな」


 周りの海賊達も決闘という事で、盛り上がっている。みんな好きなんすねえ。お頭が負けるはずないっていう感じも海賊達から感じた。信頼されているなシルドラ。


「負けるならズタズタに引き裂かれて負けちゃえアリマ!!」


 聖女の応援が俺の体に染みるよ。俺とは大違いだな。


「行くぞ、後悔させてやる」


 戦いの火蓋が切られた。シルドラから、仕掛けてくる。軽いカトラスの攻撃を俺は避けて、短い隙にシルドラに肘を入れる。やはり、今までの職業と違って小回りが効きそうだ。


「やるな。まるで別人になったようだな」


「その評価は間違ってねえかもなっと」


 避けていたはずだったが、段々とシルドラのカトラスを振る速度が上がってきている。どうやら、今までは本気じゃなかったみてえだな。拳が武器の格闘家ではリーチの都合で、避けてから攻撃を入れることさえ叶わない速度だ。なら、出来る事は一つしかねえ。


「避けてるだけじゃ勝てねえぞ!!」


 シルドラのカトラスの振りに合わせて、格闘家が装備している手甲で上手く弾いた。なんか、思ったよりも軽い攻撃だから綺麗に弾けたな。だが、チャンスはここしかないだろう。


 シルドラは馬鹿ではないから、一回見た方法では隙をくれないだろう。俺は力一杯に大地を踏み締めて、拳を振り抜いた。


「ここだ、正拳突き!!」


 カウンター気味に入った正拳突き。本来は腹の溝落ちを狙った一撃だが、ずらされて胸の部分に当たった。入りが悪くなってしまったのだ。だが、それよりも、俺はシルドラの胸に当てた攻撃に違和感を覚えた。


 なんつーか、柔らかい? なんか、王都セイクリアでエクレアの胸を間違えて揉んだ時の感触と似ている気がした。


 そこで、俺の中にあった違和感のピースが全てはまった気がした。女々しいに過剰反応していた、これが示す真実は。


「お前、お……ぐべば!!!!」


 俺が言おうとした時、シルドラの拳が俺の顔面に突き刺さった。そこで、強制的に職業が解けてしまった。へえ、ある程度ダメージを受けると解除されるんだ。知らんかった。


「わかった。お前を認めてやるよ、俺の部屋にきな」


 そう言ってシルドラはエクレアをおろすように部下達に指示して、どこかに行ってしまった。


 認めたというよりはシルドラの部下達に自分が女である事を隠しておきたいからだったんじゃねえかなとは思いつつ、俺はシルドラを追うのだった。

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