ギルドなんてゲームでしか見た事ねえよ
リーンが去った後、ココロの調整を終えたのであろう、リューネが部屋に戻って来た。右手には何かカードのような物を持っている。
「おや、大賢者様は行ってしまったのかい。困ったことになったなあ」
「困ってなさそうな顔で俺の方をちらちら見るのはやめろ」
「いや、本当に困っているんだよ。実はね、賢者であるアリシア=ポートメントに頼まれていた物の研究を終えたもんだからさ。ついでに帰してきてもらうと思ったのだけどね」
リューネ博士、容赦なく大賢者をあごで使おうとしていた模様。流石だと言わざるおえないが、流石だぜ。この図太さは見習って生きたもんだ。
「その、右手に持ってるカードみたいなやつをか。研究が終わったって事はさ、それが何なのか分かったって事か」
「そうだね。このカードはまあ遺物何だけど、どうやら魔力をため込むことが出来る性質があるようだ。この前見せた街灯も同じ技術が使われているんだが、それの強化された物とでも思ってもらえればいい。つまりね、こいつを持っていて魔術を唱えるだけで誰でも簡単に魔術師体験が出来るってわけだ。どうだ、凄いだろ」
「いや、凄いって話所騒ぎじゃないだろう。これって、歴史に名を残すような世紀の大発明じゃねえか、お前に無理矢理にでも協力させたがっていたドンの気持ちが少しは分かった気がするよ」
「そうかい、そんなに画期的な物になるのかね」
なんで、研究した本人は凄いけどそこまでかなみたいな反応なんだよ。実際に、魔術を少しだけ習得したいと思った身としては画期的すぎる。
魔術は体内で魔力の調節やらなんやらの面倒な手順が多いし、適切な魔力を注ぎ込まないと暴発するわで、他にも色々あるがとてもではないが素人が手を出すものではない。
その面倒な手順だけをしなくて、魔術が使えるのなら画期的だと言わざるおえないだろう。
「このカードがあれば、誰でも魔物に対抗できる力を持てちまうって事じゃねえか。このカードが量産されれば、お手軽に戦力強化出来ちまうな。これは、世の中に出回らせない方がいいかもしれん」
「なぜですか、誰でも魔物に対抗できる力を持てるのであればいいではありませんか。これで、少しでも無駄に傷つく人が減る。私にはとてもいい事だと思いますが」
俺の言葉に疑問に思ったのだろう、エクレアがそんな事を言ってきた。確かにいい面だけを見りゃこいつは誰でも魔術が使えるようになる便利な道具だが、問題点は本当に誰でも使えてしまうのだ。
この世界に生まれてくる生命は魔力を持つ、つまりカードさえあれば文字通り誰でも魔術師になれるのだ。
「お前はデメリットを考えてねえな。こいつは悪い心を持った人間も魔術が使えるようなるわけだ。身の丈に合わない力は争いしか生まねえよ。間違えなく、カードを持ってる奴が持ってねえ奴を虐げる世の中になる未来が見えるぜ。こいつは今の状況じゃ、いい事もありゃ、悪い事も起きる諸刃の剣なんだよ」
「アリマは今の状況じゃと言いますが、その言い方だと何か打開策を思いついているわけですね」
「いや、打開策って程じゃねえけどさ。ようは悪い奴の手に渡らないように、このカードを使って人を守ってくれる人間の手にだけ渡るようなシステムを考えりゃいいわけだろ。なら、話は簡単だギルドだ」
「ギルド、知らない言葉ですね。アリマ、もしよろしければどういったものなのか説明してもらますか?」
ギルドという言葉にリューネもエクレアも不思議そうな顔をしている。まじか、その反応だとしまったとしか言えねえな。ギルドなんて言葉もシステムもこの世界には存在してねえのか。
いや、俺も前世ではゲームでしか知らねえけどそういうのは異世界にはあるもんだと勝手に思い込んでいたわ。これは、いいのか。俺が我が物顔で説明しちまっても、まあいいかどうせギルドなんて出来るわけないしな。
「ギルドってのは、魔物を討伐したり、困っている人を助けたりする事でお金を貰う組織だ。ギルドに依頼という形で、依頼をしてそれを達成すればお金がもらえる」
「概要は理解したが、しかし、それだと誰が依頼とやらをするんだい。まさか、魔物退治の依頼が来たとして農民が受けるとなったら自殺行為に等しいだろうしな。そこらも何か考えがあるのだろう」
「ああ、誰でもやらせてたら実力に見合わなかったりするかもしれねえしな。だから、ギルドに腕っぷしに自信のある奴らを集めてギルドに所属させるんだよ。所属している奴らから、身の丈に合った依頼をギルドが渡すんだ」
「確かにそれなら、自分で出来ない依頼をこなそうとする者を止める事もできる。所属する事で、仕事を貰う事が出来てお金を稼ぐことが出来るから次第に人も集まるだろうな。なるほど、理にかなっている」
「それで、アリマ。カードとギルドはどう関係してくるのですか?」
エクレアも真面目そうな顔で聞いている。いや、大体の場合エクレアは人の話は真面目に聞く、暴走でもしない限りな。
今回はそういう感じじゃなくて、なんか説明しづらいけどいつもよりももっと真面目に聞いている感じとだろうか。
「焦るなって、ここで大事なのは管理だ。ようは、このカードとやらはギルドに所属しないと使えないですよって事にすればいいわけだ」
「アリマのしたい事が私もわかりました。ようはギルドに所属させるのはカードを使って悪い事をしない人だけにして、悪い事をしそうな人の手には渡らないようにするわけですね」
「大体はそういう感じだな。カードを使って、ギルドに所属すればカードを使って魔物を討伐しやすくなる。そして、討伐すればお金が手に入るってわけだ。まあ、ギルドの一番上が悪い奴じゃないって前提条件がつくけどな」
どんな事でも、メリットとデメリットは存在する。だが何もしないわけにもいかない。メリットを大きくして、デメリットを小さくしてやれば、それなりに機能するようになるだろう。
これで、少しは安全にカードが使えるようになるだろう。
「ギルド、この仕組みさえあれば力がなくても人を守ろうとする人達が力を手にいれられて、より多くの人を守ることが出来ます」
「まあ、惜しむ事があるのなら、このカードはそこまで量産できるような物じゃないって事だけだな」
「早く言えや!!」「早く言ってくださいよ!!」
台無しであった。ここまでの話はカードが量産できるって話なったらの話だ。できねえなら、そもそも話し合う必要性がねえんだよ。
「でも、魔物が増えている昨今ならカードがなくともギルドという仕組みはあってもいいのではないかい。私としては、アリマ君がどこでギルドの事を知ったのか知りたいね。まさか、ここまでの仕組みを自分一人で考えたってわけじゃないだろ」
知らねえよ。俺も前世のゲームや漫画とかで聞いたり見たりしただけで、誰が作った仕組みとかまでは知らんよ。しかも、本当にこんな感じだったのかっていうあやふやな記憶で説明したしな。
だが、前世の記憶がなんて言うわけにもいかねえしよ。
「女神イリステラがなんかそんなような話をしてた」
「流石、女神様です。アリマがギルドを知っていたのは、女神様の信託のおかげなんですね」
「女神?」
「ああ、リューネさんは知らなかったんですね。私が説明しますよ。アリマは女神の使徒であり、女神からの信託を受けて地上で行動しているのです。アリマが急に強くなるのも女神の力のおかげなんですよ」
俺の知らない間に俺の設定がエクレアの中で完成しきっていた。俺の知らない記憶しかないのだが、まあ話を合わせておいた方が何かと楽だし、説明し直すのもめんどくさいしいいだろ。
「ココロの操縦や知識が、急に増えたのは女神の力ってわけなんだね。合点がいったよ。女神の使いで魔導都市も救ってくれたわけなんだね感謝するよ。神様など信じていない私だが、今回の件で女神イリステラを信仰したくなったよ」
「是非、イリステラ教への入団を歓迎しますよ!!」
宗教勧誘が始まった。何か、しょうもない歌を作っているだけだったピンク頭がこんなに称えられているのを見るのはむかつくが、もうええわ。さっさと次の話に進もう。
「それで、リューネは俺達に何か頼みたい事があったんじゃなかったか?」
「ああ、君達の次の目的地が水の大地にある魔術国家だと聞いてね。よかったら、賢者アリシアにこのカード渡して貰えないだろうか」
「別にそれぐらいはいいぜ。どうせ、会いに行かなくちゃいけねえからな」
俺はリューネからカードを受け取った。見た目はタダの金属のカードなのだが、そんなに凄い力があるなんて思いもしねえよな。
「カードの量産か。まずは、この古代遺物である金属をたくさん量産できるよう研究をしなくてはならないね」
「おいおい、冗談はやめてくれよ。リューネがそう言ったら出来ちまう気がするからよ」
リューネが生きている間に仕組みが完成して、ギルドが出来そうな気がする。なんか、ギルドに関してはエクレアも乗り気だしな。
まあ、ギルドの一番上がエクレアとかリュカがやってくれれば安全と言えるかもしれねえな。
「んじゃ、大分遅くなっちまったがそろそろ水の大地に向かいますか」
「はい!!」
俺達はリューネに別れを告げて、魔導都市エンデュミオンを出る。次の目的地は水の大地にある魔術国家リーンだ。途中でエクレアが道草をくわなきゃいいがな。




