世界を変える箱
運命の塔とやらの最上階まできた。とりあえず、この塔は螺旋階段の塔に改名した方がいいって。螺旋階段以外に何かありましたかここ。そして、また扉。
そろそろ、うんざりしてきたので自発的に扉を開けた。中は何もない空間だった。上を見上げると空が見えるので、最上階というは間違えないだろう。
「で、何もないんだけど。この塔さ、解体した方がよくねえか、だって階段しかないんだぜ」
「神聖な塔なのよ。それに、ここは大事な空間なの」
「んで、ここに用って」
「それはね、じゃーんこれでーす」
イリステラの手には箱のような物が握られていた。綺麗な装飾がされている、売ったら高値で取引されそうだ。
「上まで登った報酬にその箱をくれるって事か?」
「違うわよ!! いい、これは創世の箱と言って、この世界を作り上げた物なの」
「えっ、じゃあ俺がその箱を手に入れば、この世界は何でも思うがままって事か!? よこせ、オラっ!!」
そいつが手に入れば、俺は女神イリステラにこき使われずにすむし、魔王も消せるって事だろ。ついでに、美人で巨乳で気立のいい嫁さんも作るわ。
「何すんのよ!? 最後まで話を聞きなさい、こいつは私しか使えないのよ。この世界の女神である私にしかね」
「はぁー、期待させやがって。じゃあ、いらねえよそんな箱、ぺっ!!」
「よくもまあそんな欲望に忠実に態度を変えられるわね。尊敬するわ」
まあ、そりゃそうか。誰でも使えたら、こいつから奪って世界を無茶苦茶にする奴が出てくるもんな。俺みたいな。
「でもさ、そんな箱があんならお前がぱぱっとこの世界に不必要な魔王を消して終わるでいいじゃねえか。まわりくどく、人間から勇者選んで倒させるなんてしなくてさ」
「うーん。地上とは信託という形でしか関わっていけないって暗黙の了解があるのよね。それに、この箱はもう力を失っているのよ」
「名実共にガラクタってわけな」
「なんか身も蓋もない言い方ね。それで、私の目的はね、創世の箱をこの場所に置く事が目的だったのよ」
そう言って、イリステラはゆっくりと真ん中に創世の箱を置いた。うん、待てよ。箱を置くだけなら俺がわざわざこんな塔を登らなくても、よかったんじゃないか。ここに入る為に呼ばれたのなら、マジで俺いらなかったんけ!!
「おい、俺の役割は他にもあるんだよな。ねえと許さねえぞ。今の所、よーわからん場所にゴミを置きにきただけなんだが」
「一人でこの塔を登るって暇じゃない。そんな時にちょうどいいアリマがいたから助かったわ」
「よぉし、よくわかった。ぶっ飛ばされてえみてぇだな。そこで、直立で立ってろ」
イリステラを捕まえようとしたのだが、ふわふわと宙に浮けるので、回避されてしまう。
「いいじゃない。ほらっ、ガチャチケもあげるしね」
すっかり忘れていたが、そういえばそんな約束をしていたな。スマホが震えたので画面を見てみると、職業ガチャに一回無料の文字が出ていた。まあいい、今回はこれで許してやろう。
「そうだわ。私ね、アリマを待ってる間暇で暇で仕方がなかったわけ。だからね、なんと女神イリステラを讃える聖歌を作っちゃったのよ。どうよ、聞きたいでしょ。アリマがどうしてもって言うなら聞かせてあげてもいいけど」
「微塵も興味ねえから、さっさと元の世界に戻せ」
てか、俺が頑張ってドンとかドラキュラとかと激戦を繰り広げていた間に、この女神は呑気に自分を称える歌を作ってたって事か?
お前の世界を救って欲しいって言ってるからこちとら手伝ってんだぞ、なんやねんその態度は!!
「そうよね、そうよね、聞きたいわよね」
「耳ついてるか。それとも言葉が通用しねえのか」
「題名、女神イリステラ。すごーいぞイリステラ、賢い、可愛い、美しい。すごーいぞイリステラ、この世界を作った創造主、彼女を讃えよ。すごーいぞイリステラ、ツインテールがイカしてる。ちゃんちゃん。どうだった?」
「そうだな、筆を持てるチンパンジーの方がもう少しマシな歌詞を書けそうだなって思ったよ。こんなに人を苛立たせる事ができるなんて、中々出来んよ。才能だな」
「えへへ」
「褒めてねえわ!!」
「うぐっ、ちょっと何すんのよ!! 美少女の顔面に拳を入れてくるなんてどういう神経してるわけ!!」
「これは世界の総意だ。間違えなく、全員が一回殴ってわからせろって言ってるつーの」
ちなみに一番ムカついたのは、歌詞の凄いじゃなくてすごーいって音程を外しながら気持ちよさそうに歌っている所な。歌ってる最中は我慢してた俺を褒めてくれよ。イリステラは全然ダメージなさそうに立ち上がる。
「ははーん、アリマが怒っている理由がわかったわ。ズバリ、自分の名前が歌詞に入ってないからでしょ。心配しないで、最後の所にプラス忠実なる下僕のアリマっていれておくから」
「お前、歌詞にプラスって書かれている所を見た事あんのか。てか、誰が下僕じゃ」
「これを私の信者達のイリステラ教の聖歌にしようと思うの。どうかな、流行ると思う」
「うーん、そうだな。もし、こんな聖歌が流行ったら、俺が魔王の代わりに世界を滅ぼしてやるよ」
「そこまで!?!?」
そんな世界は速攻で滅びた方がいい、魔王アリマの誕生だよ。だが、安心していいだろう。どうせこんなの流行んねえよ。
「では、アリマこの聖歌を貴方に預けます。イリステラ教の教会に届けてくださいね。出入り口は作っておきます」
「えっ、何で女神モードになってんの。まさか、この流れで話を終わらせる気なのか」
後ろに青いモヤみたいなのが現れた。多分、触ったら元に場所に戻れるんだろうな。女神イリステラは消えていった、残された俺はこのしょうない歌詞が書かれた紙を見る。
資源の無駄遣いだよこれ。即、帰ったら破って捨てようと思ったが、仮にこれを見つけられたら困る。こんな黒歴史みてえな紙の処分は慎重にしなくてはならない。俺の名前入ってるし。
「あっ、そうだ」
俺は思い出した。この運命の塔は生物がいない場所だ。俺は創世の箱の下にこの紙をそっと置いた。これでいい、もう誰もこの場所に来ることはないだろう。これで、実質封印だ。




