私にいい考えがある
ココロは他に目もくれずに一目散にリューネへと近づいて行く。とりあえず、周りのリューネを襲っていた数人を縛り上げた。これで、よしっと。
「ママ!!」
「おーよしよし。驚いた、帰ってきていたのかい。しかし、グットタイミングとは言えないな」
「この研究所はどうなってるんだ。変な野郎共が占拠してんじゃねえか」
「もう巻き込んでしまったし、説明するしかないかな。あいつらは昔の上層部の奴ら何だ。ちょっと前まで偉かった奴らさ」
「昔って事は今は違うんだな」
「ああ、あいつらは平和になった世の中でさえ、チャンスだと言って武力で制圧するつもりなんだ。我々で一致団結して、追い出したんだが……」
「隙をつかれて、占拠されちまったわけだ。甘いな、全員牢屋にぶち込んでおくなりなんなりしておきゃよかったのによ」
「返す言葉もないよ」
魔物だの、魔王だので一致団結しようとしてる今の空気でよくもまあこれを気に領土を奪うなんて発想になるな。どこにでも、こんな馬鹿な奴らはいるんだな。
「んで、ドンってのが敵の親玉でいいんだな」
「ドン・アクダー。そいつが魔導兵器で世界を制圧しようとしているのさ」
「ふーん、いかにも悪そうな名前だな」
名前に悪がはいっちゃってるじゃん。こいつは間違えねえ、悪い事するに違いないって名前だ。
「それで、俺達はどーすりゃいい。そのドアクダーとかいうのをぶっ飛ばせば解決する話なのか?」
「ああ、ドンの方も戦力としては最後の抵抗だろう。ここで止めれば解決だが、いいのか? 巻き込んでしまった私が言うのもなんだが、君達が無理にこれ以上何かする必要はないぞ」
「もういいんだよ。どうせ、うちのエクレアが助けましょうって言うに決まってる。それに、俺もイライラしてんだよ」
「ほう、ドンと何か因縁が?」
「ねえよんなもん!! 正直言ってやるよ。俺がいない時に襲ってこいよ。何で、俺がいる時に魔導研究所を襲ってくんだよ!! くそっ、しょーもねえ事で俺の時間を奪った事をドンに後悔させてやっからな!!」
タイミングが良すぎるんだよなあ。たまたま、魔導研究所に寄って、ココロと触れ合ってたら、用事のある魔導研究所が襲われて巻き込まれるとかさ。
こっからは全部八つ当たりだ、ドンにどれだけ嫌がらせできるかの勝負だ。俺が決意を固めていると前からエクレアが入ってきた。
「すいません合流が遅れました!! 奥で捕まっていた研究員の方達を逃がしていたら遅れてしまいました!!」
「流石だね。私が頼みたい事を言わなくてもやってくれるとはね。後はドンを倒すだけだ」
どうやら、研究員を逃す所からスタートする予定だったのが、エクレアが全て解決してくれたようだ。
「これで、遅れてきた事はチャラにしてやんよエクレアちゃん」
「えっ、私が悪いみたいな流れですか!?」
とにかく、人質とかいうダサい事はされなさそうでよかった。
「後はドンだけだな」
「ククク、俺を呼んだか?」
俺は扉の方を見ると何人かの男を引き連れて、小太りの男が入ってくる。気持ち悪い、にやけ顔が非常に腹正しさを覚える。間違えなく、この男がドンだろう。
成金のような金色の服を着ているし、こんなダサい格好悪の親玉しか着ねえよ。
「ドン、まさかそちらから現れてくれるとはね。手間が省けるよ」
「ああ、予想通りの顔面偏差値が二ぐらいのおっさんが飛び出してきたな。その顔で世界征服とか鏡見てからにしろよな。服に金粉つけてんのもマイナスポイントな」
「貴様、今俺の事を馬鹿にしたか。フッ、まあいい。庶民の戯言なんざ、興味はないね」
「おいおい、今はお前も庶民だろ。偉かったのはちょっと前だろが、いつまで過去の栄光にしがみついてんだ」
「アリマちょっといいですか?」
「何だよエクレア。俺はドンと言い争いで忙しいんだが」
「いや、格好良く啖呵を切ってる所申し訳ないんですけど、私の背中から出て発言してくれませんか」
そう、俺はエクレアの背後に隠れていた。エクレアを盾にしてるとも言えるだろう。そんな俺にリューネもココロも変な目で見てくるが、全く気にならねえ。
ここが、今一番安全な場所なんだ。ここで、レスバするしかねえだろ。
「さっきから聞いていれば言いたい事を言いやがって!!」
「落ち着いてくださいドン。あんな、女の後ろにしか隠れられないような雑魚の言葉に惑わされないください」
「そ、そうだな。俺とした事が熱くなってしまった。支配者たるもの優雅でないとな」
部下に諭されている支配者。だが、あのドンの隣の男は何だ。俺を見て、笑ったのか。許せねえ!!
「エクレアあそこにいる男は念入りにボコボコにしてやれ。俺のことを馬鹿にしやがって」
「馬鹿にされるような事しているからでしょう。言われるのが嫌なら、私の背中から離れればいいでしょうに」
エクレアが俺を引き剥がそうとするが、俺は頑張ってしがみつく。嫌だ、ぜってえここが一番安全だもん。
「ふんっ、部下共あいつらを始末しろ。ただし、あの魔導知能だけは確保しろよ」
ドンの言葉に俺達を数人が取り囲んだ。ちらりと手に持っている武器を見るが、近接武器が大半だ。この世界に飛び道具は弓と魔術しかない。どうやら、彼らは魔術師ではないようだ。
つまり、近接では無敵の女エクレアがいる時点で俺達の勝ちは決まったも同然である。
「反省の色がないようですね。悪いですが、少々痛い目を見てもらいますよ!!」
エクレアが三人の男を相手にもちまえのフィジカルを生かして、倒していく。
「流石だぜ、エクレア!! 惚れ惚れする動きだ!!」
「君は何かしないのかい?」
「俺に何か出来ると思ってんのか」
「ロクデナシだ!!」
「うるせえ、このポンコツ魔導知能が!!」
「僕は最先端だもん!!」
しょうもない言い争いをしているうちにエクレアが人数差を覆して、あっさりと勝ってしまった。その表情も余裕と言った感じだ。
「しまった。ドンが逃げた!!」
リューネの言葉に俺達はドンのいた場所を見る。どうやら、形勢が悪いと見るや部下を見捨てて逃げてしまったようだ。
「逃げたなんて人聞きが悪いな。こいつを用意していただけだ」
ドンの声が機械で加工されたような声に変化していた。ドシンとした地響きが辺りを襲う。研究所を破壊しながら、それは俺達の方に近づいてきている事がわかる。
そして、姿を現したのはビルぐらいの大きさの巨大な兵器であった。てか、何あれ?
「魔導ゴーレム、あんなものまで用意していたのか!!」
「知っているのか、リューネ!!」
「あれは私達が開発していた兵器の一つ。とてつもない、威力を誇る攻城兵器なんだ」
「しかも、お前達の魔導ゴーレムにさらに手を加えた新型だ。こいつで、お前らを潰してやる。特にそこの男は念入りにな!!」
俺を指定してきやがった。一体、どこでヘイトをかってしまったんだ。俺には、皆目見当もつかないや。
「エクレア、行け」
「無理無理、無理ですよ。大きさが違いすぎますって!! あんなの対抗しようがないですって!!」
「じゃあ、どーすんだよ!!」
「私に考えがある。ついて来てくれ!!」
リューネは走り出した。俺達はどうしようもないので、リューネを信じてついて行くしかない。俺達は走り出した。




