絶対に面倒な事になると思っていました
魔導研究所に戻った俺達だったが、ふと俺は違和感を感じた。いや、別にそこまで何かを感じたわけではないのだが、明らかに人が少なくなっている気がしたのだ。最初に来た時は外から中に入る時でさえ、人とすれ違っていたはずなのだが。
「なあ、なんかおかしくね。こんなに人って急に減るもんか、どう思うエクレア?」
「さあ、みんな研究に飽きて帰っちゃったとか」
「三度の飯より研究にしか興味のない奴らが飽きて帰るねえ」
俺が見た感じじゃ、俺達が入ってきた時もこちらには目もくれず研究に皆が没頭していた。俺は逆に感心したのを覚えている。自分のしたい事をやめねえその精神、嫌いではなかったからだ。
「ここで、話していても仕方がありませんよ。とりあえず、中に入ってみましょう。外にいないだけで、中では研究しているだけかもしれませんしね」
「そうだな、俺の考えすぎかもしれないな」
「僕ね、中の様子を見れるよ。人を壁越しでも判別できる機能があるんだよ」
「へえー、ちょー便利じゃん。じゃあ、早速頼むぜ」
エクレアはココロを離すとココロは浮いて、赤く光り始める。俺達にはよくわからないので、ココロが答えるのを待った。
「解析完了!! みんな、奥の方にいるみたいだよ。手前側は人の気配がないみたい」
「奥の方ってとリューネの研究室付近か。とりあえず、そこまでは人の気配がないみたいだし、行ってみっか」
エクレアが俺にココロを預けてくる。どうやら、前衛をしてくれるようだ。まあ、俺は職業ガチャが使えないので、今は足手纏いになるだけなので、その陣形に文句はねえ。エクレアは扉から中の様子を伺う。
「どうだ?」
「ココロの言う通りですね。近くに人はいなさそうです。では、中に入りますよ」
エクレアの後について、魔導研究所の中へと侵入した。中は前に来た時と比べて、明らかに誰かに荒らされた跡があった。地面に薬液などが散らばっており、抵抗した痕跡が残されている。
「なあ、ここまで来てあれなんだが、中央広場に侵入して終わりでいいんじゃねえか。なんかさ、もう嫌な予感しかしねえんだよ」
「駄目に決まってます!! 確実にリューネさん達の身に何かあったんです。まずはそれを確認しなくてはいけません」
俺は街中で出会ったおじさんのきな臭い話を思い出していた。兵器開発の再開をしない研究者に痺れを切らして、上が武力行使をしたって流れが自然じゃあないか。嫌な予感だけはいつも当たるんだよなあ。
「ママ達大丈夫かな、僕心配だよ」
「リューネさん達なら、きっと無事ですよ」
「死んではないだろうな。もし、敵がいるならリューネ達に兵器開発をさせたいわけだしな。生かしておくだろう」
ゆっくり前進して行くと警報音が鳴り響いた。俺とエクレアが狼狽えていると、俺とエクレアの堺に丁度壁が出来上がった。すぐに近づいたが壁で分断されてしまった。
エクレアは迷いなく拳を振るったが、壊れる事はなかった。侵入者用の罠ってやつか、そりゃ頑丈にできてるよな。必然的に前に出ていたエクレアしか奥に進めないようになってしまった。
「私が先に言って様子を見てきます。アリマは何とか壁をどうにかして合流してください」
「おう、敵がいるか知らねえけど、お前捕まんじゃねえぞ。最近、姫気取りで捕まりまくってるからな」
「誰が姫気取りですか!! 捕まりたくて捕まってるわけじゃありませんよ!! でも、もし捕まったら、アリマが助けてくれるんで心配してないですよ」
いい笑顔で言いやがって、どっちにしても俺とココロが奥に行くにはこの壁をどうにかしないといけない。
エクレアは奥側にいる以上、どうせ敵がいるならここで待機していても襲ってくるだろう。魔物相手じゃないエクレアは人類の中で強い方だ。そこまで心配はしてねえ。
「へいへい、んじゃ無理はすんなよ。見つけても冷静に動けよ」
「お任せを!!」
エクレアは奥へと駆け出していった。すぐに鈍い音が響き渡った。あいつ、先手必勝で容赦なく殴りかかってるな。
「さて、この壁をどうにかしろって言われてもな」
「僕に任せて!! うーん、壁を解除できるスイッチがあるようだよ。案内するね」
「お、おい待ってて!!」
勝手にフワフワと空中を進んでいくココロを俺は追いかけた。ココロが一つの部屋に入って行ったので、中へと俺も突入する。
「このレバーを引いて、そうすると壁を解除する事が出来るよ」
俺がレバーを引く。道を戻るとココロの言う通り、壁が解除されていた。
「俺一人じゃ、壁を解除するのに時間がかかったろうな。流石、ココロだ」
「えへへ、僕役に立った?」
「おう、めっちゃ役に立ったぞ」
「わーい。やったあ、人間の役に立てたよ」
人の役に立つ事がとても嬉しようだ。俺は足を止めないようにしながら奥へと進んで行く。
「ところで、何でそんなに人間の役に立ちたいんだ?」
「うん、ママが言ってたんだ。僕が眠っている時にねいつも語りかけてくるの。誰かの役に立つ事を信じているよってね。だから、僕は誰かの役に立ちたいんだ!!」
ママはリューネだろうな。段々とわかってきたが、リューネ達は兵器開発をしていたんだろうな。だからこそ、もう人を傷つける物は作りたくなかったんだろう。なんとなく、そんな気がしてきた。
「ほーん、そっか。んじゃ、張り切って行きますか」
「うん!!」
道中にフードの被った人間が倒れている。殴られた後があるので、エクレアがぶん殴ったんだろう事が想像できちまう。無視して、進んで行く。リューネの研究室の前までついちまった。
エクレアと合流できると思ってたんだが、どこ行ったんだよあいつ。扉は若干、開いており声が聞こえてくる。リューネと知らねえ男の声だ。言い争いをしてるみたいだ。
「私は絶対に兵器開発はもうしないぞ。たとえ、私の命が奪われようともかまわないさ。それぐらいの覚悟はある」
「強情ですね。ドンも従えば研究者達に仕事を与えて、今までの行いは水に流すとおっしゃっています」
「お前達のようなテロリストに誰が従うものか。我々は平和な世界を見て、自分達の作った物の愚かさを知った!! 絶対に兵器開発はもうしない!!」
どうやら、俺の想像は当たったようだ。リューネは兵器開発に携わっていたようだ。ドンという奴が、あいつらのバックにいるみてえだ。もうちょっと話を聞こう。
「なら、リューネ博士が研究している。魔導知能を渡していただきたい。魔導知能があれば、博士達がいなくても兵器開発ができるでしょう。我々が上手く使って差し上げますよ」
「ココロはお前達には渡さないぞ。あの子は人助けの為に生み出したんだ、人傷つけさせる為に研究しているわけじゃない!!」
俺はココロを見る。ココロは何を思っているのか表情がないのでわからないのだが、真剣にリューネの言葉を聞いているようだ。あの口ぶりだと、ココロは相当危険な代物らしいな。
何が、安全で簡単なお願いだよ。でも、確かにその片鱗はあった気がする。壁の解除や人の確認など、俺のしたい事を簡単に実行してくれた。学習させれば、兵器開発をさせるのもできるんじゃないだろうか。
「ふふっ、残念です。では、貴方には死んでいただいてゆっくりと探しますよ」
何らかのは刃物を抜く音が聞こえた。やべえぞ、つっても俺が何かできるわけじゃねえし。
「そろそろエクレアが合流してもいいと思うんだが、あいつは何をしてんだ。チッ、ココロ何か武装はついていないのか?」
「魔力を使って、人を気絶させる程度の衝撃波を放てるよう。でも、相手も人間だよ」
迷っている様子だ。ココロには人間を傷つけたくないという意思があるようだな。だが、今はしのご言ってる場合じゃねえ。
「ココロ、一番大事なもんは何だ!! 人助けも大事だが、もっと大事なもんがあるだろ!!」
「ママ」
「そうだ。リューネがこのままだと死んじまうぞ」
「死ぬとどうなるの?」
死ぬという概念を理解していないのか。まあ、生まれたばかりだししゃあねえか。細かく説明している暇はねえ。
「死ぬと二度とお前と喋れなくなっぞ」
「それは嫌だ!! 僕どうすればいい!!」
「俺がお前を勢いよく放り込むから、リューネ以外の奴に衝撃波放て!! いいか、絶対に迷うなよ!!」
俺は扉をわざと勢いよく開ける。俺も何人いるかなんてわからないが、やるしかねえ。これで、少の時間俺に注目が集まるはずだ。俺は勢いよくココロを空へと放り投げた。
「ショックボルト!!」
ココロの放った衝撃波は見事にリューネ以外の相手に命中した。当たった相手は体をピクピクさせて動かなくなった。威力は絶大なようだ。




