世界中のみんなは職探しをする
んで、俺とエクレアは魔導都市エンデュミオンの街中を歩いているというわけだ。ココロはエクレアが抱いている。俺もココロを持ってみたのだが、中々の重量だった。よくもまあ、店とか見て回る事にした。ココロは好奇心旺盛に聞いてくる。
「あの人は何をしてるの?」
ココロは指などが無い箱のような形をしているのでどれを差しているのかがイマイチわからない。今回だと、目線が小物を売っているお兄さんの方を見ている気がした。
「あれはな、社会の奴隷だよ。ああやって、昼間から物売って頑張って稼いでるんだよ」
「とんでもないことを教えないでください!! 違いますよ、ココロ。あの人は小物を売って商売している方ですよ」
エクレアが申し訳なさそうに頭を下げて、俺は横腹を小突かれた。俺は事実を言っただけなんだが。
「うん、わかった。じゃあ、あれは?」
ココロの見るのは、ベンチで項垂れているおじさんだった。昼間からベンチでする事がないようで、空を見上げている。
「あ、あの人はいいんじゃないですか?」
「ココロ、気になるなら自分で聞け。ちょっと、ココロを借りるぞ。おもっ!!」
「ちょ、ちょっと!!」
俺はココロを抱き上げて、ベンチで項垂れているおじさんに近づいた。
「おじさんは何をしているの?」
「おじさんはね。研究者をしていたんだけど、最近追い出されてしまってね。仕事を無くしちゃったんだよ。ハハっ……」
「失くしたなら僕が探してあげるよ。こう見えて、探し物を探す機能もついてるんだ!!」
「ありがたいけど、おじさんのはもう手に入らない物だからね」
暗い、話題が暗そうではあると思っていたが想像以上にハードだ。いわゆる、リストラという奴じゃないだろうか。どんな世界にもあるんやな。研究者と言っていたので、おじさんの姿を見ると確かにリューネと同じような服装をしていた。
「研究者って、あの魔導研究所の?」
「ああ、そうだけど。詳しいね君」
「まあ、ちょっとだけ用事があって中へ入ったからな」
「そうなのかい。でも、よかったね。あそこは今、ちょっと嫌な空気になってるしね」
「そうなのか?」
「ああ、兵器開発を再開しろって上の奴らが言ってきてね。リューネ博士と共に研究所の人達は断固として拒否していたんだが、上の奴らは拒否していた連中を解雇していってるみたいでね」
ああ、リューネが言っていたきな臭い話ってのはこの事か。まさか、ココロの育成をしている時にこんな情報が入ってくるとは思わなかったよ。
「拒否ね、という事はおじさんは兵器開発には反対してたんだな」
「ああ、私達の世代は平和じゃない世の中を体験しているからね。わざわざ、平和になった今の世界で人を殺すための兵器開発なんて、しない方がいいに決まってるよ。こんな、おじさんの話を聞いてくれてありがとうね」
おじさんは寂しそうに去って行った。最初は哀愁が漂う背中だったが、たとえ職を失ってでも、自分意地を通した男の背中に俺は見えた。
「あの、おじさん可哀想だよ。ロクデナシどうにかならないの?」
「ロクデナシなんでわかりませーん」
俺の名前のアリマだけは覚えてくれなかった。なんか、エクレアが最初に覚えさせたせいで中々修正するには難しいらしい。俺は永遠にココロから、罵倒され続けるわけだ。
「アリマ、そんな子供のようにすねないでください。リューネさんもきっと困っているのではないでしょうか、私達でどうにかできませんか?」
「お前のせいなんだが、どっちにしても無理だっつーの。今回は魔物とか関係ない人間同士の争いだぜ、んな事にいちいち突っ込んでられねえだろ。困ってるだろうけど、俺達がどうにか出来る問題じゃねえよ」
エクレアは何とも言えない表情をしていたが、従ってくれた。どうやら、首輪つけられたのが効いているようだな。いや、それは関係ねえか、エクレアもわかってんだよな。
国や都市の内部の争いなんて、俺達みたいなのがどうにか出来る話じゃねえって事がさ。
「とりあえず、ココロを返してください。アリマはココロの教育に悪いので、ちょっとの間どっか行っててください」
「へいへーい」
まあ、エクレアに任せておけば心配はないだろう。エクレアは職業ガチャでクラスチェンジしていない俺よりも数倍強いからな。教育に悪いと追い出された俺は魔導都市をぶらぶらと時間を潰すために歩く。
一つの場所に目が止まった。テントに占い屋と書かれていた。普段なら、占いやら神やらは信じないのだが、暇だし興味本位で入りたい気分だった。
「おっす、占いしてくれるんか。ってお前は!?」
「やあ、また会ったね」
そこには見知った人物が座っていた。王都セイクリアにいた、信託の巫女ネストであった。
相変わらず、顔が見えないようにヴェールをつけているが間違えなくネストだという事がわかる。美人は骨格だけで識別できっからな。
「えっ、どうしたわけ。信託の巫女様も解雇されたん」
「いやいや、お恥ずかしい話だがどうにも信託の巫女だけでは食べていけなくなってしまってね。それで、占い師にジョブチェンジってわけさ」
「ぜってえ、嘘だろ」
「うん、嘘だよ」
こいつは適当な事を言って、本当の事を話す気はないのはもう知っている。こいつから欲しい情報を取り出すのはエクレアに今日のご飯は半分なというぐらい厳しいだろう。
ちなみに、エクレアは言ったら悲しそうに涙を流すので実質不可能である。
「僕の信託の巫女としての役割を終えたのさ。今の僕の役割はしがない占い師ってわけさ」
「ははっ、相変わらず何言ってんのか全然わかんねえ。ポエムで会話すんのやめろ」
「それにしてもお手柄だったね。魔王軍の六魔将の一人を倒したんだろ。おめでとう、君は口ではどうこう言いつつも二人も倒してしまったわけだ」
どこでその情報を知ったんだか。まだ、誰にも自慢した覚えはねえんだけどな。まあ、この人に言っても無駄なのはわかってる。
「流れだっつーの」
「ふふっ、この魔導都市も少し面倒な事になってるようだね。どうだい、救ってあげてはいかがかな救世主様」
「勘弁しろ。魔物に襲われてとかならまだしも、くだらねえ人間同士の争いの始末なんざ俺はごめんだね。許可証をもらったら、さっさと用事済ませてここを出るよ」
「ふふっ、上手くいくといいね」
まあ、魔導都市の事はさておくとしてネストは魔王城の封印を解く、四つの宝玉について何か知っているだろうか。
「なあ、宝玉がどこにあるか知らないか?」
「知らないよ。女神イリステラの力の残りカスの宝玉のありかなんて全然見当もつかないよ」
「知ってる人間の言い方なんだよなぁ」
「まあ、僕から言える事はそれぞれ大地の名前と同じなんだから各大地一つずつあるんじゃないのかい。ここは火の大地だから、火の宝玉があるみたいな」
「そんな事は誰でも想像できるやろがい」
水の大地、風の大地、土の大地、そしてここ火の大地。それぞれ、水の宝玉、風の宝玉、土の宝玉、火の宝玉が同じ名前の大地にありそうなのは、誰でも想像できるだろう。
「あっ、そうだ。僕、一応今は占い師だし占ってあげようか」
「一応ってなんだよ。まあ、どうせ暇だし占ってくれよ」
「ようし、じゃあいくね。ムムムッ、来てます。来てます。来てますよーーーー」
「すまん、アンタが言葉を発する度に嘘臭さが増すから黙ってやってくんねえかな」
占い師がよく使っている紫色の玉みたいなのに手を当てながら、ネストは叫び続けた。
「出たよ。待ち人来たれりだってさ」
「俺は誰も待ってねえんだが、まあ覚えておくよ。んじゃな」
時間的にも、そろそろエクレアが帰ってくるころだろう。俺は時間を潰せたので、エセ占い師のテントから出た。待ち人ねえ、誰も待ってねえんだよなあ。今、エクレアを待ってるけど。
「アリマ、そろそろ研究所に戻りましょうか。大分、ココロにも正義の心というのが伝わったと思いますし」
「うん、僕は人を助ける為に生まれてきたんだよ。僕、頑張るよ」
「これって、エクレアが二人に増えただけじゃね?」
まあ、ここでココロとはお別れだし、俺はどうでもいいけどな。俺とエクレアはリューネが待つ魔導研究所へと戻るのだった。




