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リュカの勇気

 そんなある日の事だ。俺がいつものようにリュカの所に遊びに出かけていると、リュカがいつもの待ち合わせ場所で大泣きしていた。


「どうした!?」


「ひぐっ、えぐっ、母様の形見のペンダントが盗られて森に隠されちゃったんだ……」


 形見のペンダントってのはリュカが見せてくれた奴だったな。確か、死んだ母親の形見で、自分の命よりも大切な物だってリュカが見せてくれたのを覚えている。


 誰にだとは聞かなくてもわかった。どうせ、最初の頃にいじめていた奴らだろう。


 大方、俺がいない間を狙ってリュカをいじめたとかそんなんだろうな。


 盗られたのは仕方がねえ、俺が気にしてるのはそこじゃねんだ。


「お前、命より大事な形見のペンダントが盗られてる時に何してたんだ?」


「えっ、うぅ……」


 リュカは何も答えない。


「まさかとは思うが取り返そうともしなかったんじゃねえだろうな」


 まあ、リュカが何もしてねえのはわかっていた。本気で勝てなくとも喧嘩をしていれば服がボロボロになったり、怪我をしていたりするもんだ。


 だが、リュカの服は奇麗なままだ。命より大切な母親のペンダントを盗られて何もしなかったって事だろう。


 そこは勝っても負けても関係なく、取り返す為に勇気出して戦わなきゃ駄目だろ。


「怖かったんだ。やっぱり、僕が勇者なんて無理だよ。勇気もないし、強くもないもん」


 いつものように心が折れてしまっているようだ。リュカ、お前俺が取り返してくれるって思ってるんだろ。お前の考えが手に取るようにわかるぜ。


 俺がやってくれるからいいってか。


「悪いが俺は探さないぞ。お前一人で探せよ」


「えっ、そんなぁ……」


「そんなぁじゃねえだろ!! 命より大事なペンダントだってお前言ってたじゃねえか!! 何で、そんな態度なんだよ!! 探しに行く勇気くらい見せてくれよ……」


 流石の俺もリュカの態度にぶちぎれてしまった。


 結局、これだけ言ってもリュカは泣いているだけで探そうともしなかった。俺だって、一人で探し始めたら手伝ってやろうとは思っていたんだがな。


 リュカ、お前の勇気はどこにあるんだ。


 翌日。育て親であるムラナガが慌てていた。


「何だ、ジジイ。そんなに慌てて」


「ジジイとはなんじゃ!! 言葉遣いを改めろといつも言ってるじゃろ。いや、今はそれどころではないわい。領主の息子であるリュカ君の行方がわからないのじゃ。お前いつも仲よさそうにしていたが知らないか?」


「それっていつ頃からいないかわかるか」


「確か今朝じゃったな。おいっ、どこに行くんじゃ!!」


 俺は急いで家を飛び出した。リュカが行く場所なんて、一つしかないと思ったからだ。母親の形見のペンダントを探しに森へと入って行ったのだろう。


 一人で探しに行ったのか。森は巨大な野生動物がいるはずだ。リュカが危ないかもしれねえ。


 俺は森の中へと入って行く。すると、リュカの悲鳴が聞こえた。


 俺が駆け付けるとリュカが大きな猪に襲われていた。この世界って普通に動物いるんだよなぁ。しかも、結構強大で凶暴だしよ。


 リュカの盾になるように前に出る。ったく、世話の焼ける奴だな。


「ア、アリマ。僕、母様の形見のペンダントを探しに来て、それで」


「おうっ、ちゃんと勇気を出したんだな。偉いじゃねえか、見直したぜ。後は任せな」


 任せなって言った所で俺も子供だからイノシシに勝つ手段なんか持ってねえ。だけど、俺にはこれがある。


 リュカが小さな勇気を俺に見せてくれた。なら、俺もそれに応えねえといけねえよな。


 俺はスマホを取りだした。もちろん、タップするのは職業ガチャだ。


 タップした。すると、女神イリステラが飛び出してきた。どうやら、そういうガチャ演出のようだ。背景は青色。


 さあ、カードの色はどうだ。青、青、青、青、青。中身の職業は戦士、弓使い、弓使い、神官、魔法使いだ。


 うん、今日も元気にはずれだね。こんなにかっこつけたのにはずれかぁ。


「でも、イノシシぐらいならいけるだろ」


 イノシシはすぐにでも突進する構えだ。対応するなら近接戦が出来る職業じゃねえと。


 こんなかで近接戦が出来そうなのは戦士しかねえ。俺は迷わず戦士のカードを取った。


 さあて、こっからは俺も初めてだから。どうなるかわかんねえぞ。カードを持つと頭の中にイメージが流れ込んでくる。


 なるほど、これを言えって事か。


「クラスチェンジ、戦士!!」


 俺は光に包まれた。次に目を開けた時には姿が戦士の装備に変わっていた。俺は子供が持つにはあり得ない大きな斧を軽々と持ち上げる。


 なるほど、こうなるわけか。どうやら、職業ガチャのカードを使うと職業に見合った知識と技量が勝手に身につけられるようだ。


 だから、今の俺は戦士のエキスパートってわけだ。こりゃ、戦士に転生しているって言っても過言じゃないな。


「今のって女神イリステラ様。凄い、アリマって女神様の信徒だったんだね!!」


 興奮気味にリュカがそう叫んだ。ああ、この世界って女神イリステラは創世の神様として崇められているんだっけな。なら、この力を見せるのはあんましよくねえか。


 今回は緊急事態だし、しゃあなしだ。


 俺は向かってくるイノシシをでかい斧で思いっきり叩きつけた。イノシシは地面にめり込んで動かなくなってしまう。イノシシ相手にはちともったいなかったな。


 俺はリュカに向き直る。


「皆には内緒にしといてくれよ」


「うん!!」


 いつもよりもさらに尊敬の眼差しで見てくるリュカと一緒にペンダントを探す。その内、埋められていたペンダントを無事に発見した。


 リュカは大事にそうに母の形見のペンダントを抱きしめる。よかったな。


「アリマのおかげで見つかったよ。ありがとう。やっぱり、アリマは僕にとっての救世主だよ」


「リュカ、お前が小さな勇気を見せてくれたから俺もお前を助けようと思ったんだ。だから、これはお前が生み出した結果だ」


 俺はお前が行動しなかったら本当に助けなかったよ。俺は誰でも助けるような聖人じゃねえからな。俺はしたい事しかしねえ。


 だって、せっかく異世界に転生したしな。


「僕もアリマみたいなれるかな?」


「なれるっていつも言ってるだろ。お前は勇者になる男なんだからな」


「アリマはいつもこんな僕に勇者になれるって言ってくれるよね。うん、決めた。僕は立派な勇者になるよ!! それでね、アリマみたいに僕も誰かを助けるんだ」


 おう、どうやらやる気になってくれたみたいだな。これでようやくスタートラインに立てたって所かね。


 お前は勇者になって魔王を倒して貰わねえといけねえしな。俺の異世界楽々生活の為に必要ってわけだ。


 そして、俺の親友だしな。親友を助けるのは当然だろ。


「それで、勇者って言うのはどんな人なの?」


「ははーん、知らねえのか。そうだ、今日から俺が勇者の心得を一つずつ教えていってやるよ」


 それからのリュカはまるで人が変わったかのように、勇者になる為の修行をするようになった。


 元のなよなよしていたリュカはもういない。いるのは、勇者に向けてひたすらに研鑽を積む一人の少年だった。


 そうそう。覚えているだろうか、職業ガチャってお金がかかるんだ。


 その値段は五万エン。この金額は異世界イリステラでもかなりの大金だ。


 子供が持てる金額じゃあねえ。なら、俺はどうやって職業ガチャを使ったのかって話。


「アリマ!! わしが秘かに貯めていた貯金をどこへやったんじゃ!!」


「すまんジジイ。使い切った」


「今日という今日は許さんぞアリマ!!」


 ムラナガが一生懸命貯めていたお金だったってわけだ。俺はこの後こっぴどく叱られちまったよ。


 勇者への先行投資って事で許して欲しい。

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