犬を飼いたいと思っていました
俺はエクレアを連れて、魔導都市エンデュミオンについた。魔導というのが何なのか気になっていたのだが、この世界では珍しい電灯が置かれている。
電灯と言っても、電灯みたいな形をしているだけで、電力で動いているわけではないだろう。電力なんて、この世界にはないエネルギーだし。恐らくは魔力で動いているのだろう。
「あの、本当にこのまま進むんですか? 恥ずかしいんですけど」
「恥ずかしくないと罰にならんだろうが」
俺はエクレアがつけている首輪をを引っ張る。現在のエクレアは犬の首輪を装備しており、首から看板を吊り下げている。そこには、こう書かれていた。
『私はご飯の事ばかり考えていて、主人の言う事を聞かない大型犬です。反省しています』
エクレアは顔を真っ赤にして、もじもじしながら歩いている。どうやら死ぬ程恥ずかしいようだ。
と言う事で、エクレアはこの魔導都市の真ん中の塔に着くまでの間、俺に逆らわずに大型犬扱いを受けるという罰を受けている。
本当は犬耳もつけてやろうと思ったのだが、犬耳なんて物はこの世界にはなかったので断念した。よかったね、エクレアちゃん。
「どう、塔に向かうまでにどっか寄ってくか。珍しい物も多いみたいだし、店でも見てくか?」
「こんな状態で、行くわけないでしょ!? 早く塔に向かいましょう。ダッシュしてもいいですか!?」
「俺のペースに合わせろ、大型犬」
周りからも凄い目で見られているが俺は気にしねえ。まあ、見た目が美人のエクレアが犬扱いを受けているので、見ないわけないだろけどな。
これに懲りたら、危ない目事にわざわざ首を突っ込むのを自重して欲しいものだ。そう、普通は気にしねえのだが。
「聖女様にあんな事をするなんて、あの男王都で殺しておくべきだった」
「今宵の鎌が疼くわ……」
「聖女様、今お救いします」
何故か知らないが聞いた事のある声が聞こえたので、そちらを見るとイリステラ教支部と書かれた教会を見つける。ちなみに、イリステラ教というのはエクレアが聖女であった時に所属していた所だ。
結局、聖女の肩書きはそのままにという事になって、旅に出たのだが。ふーん、なるほどね支部ね。こりゃ、やっちまったよ。俺の横には俺に犬扱いされている聖女様。うん、誤解を生みますねこりゃ。
「武器をよく研いでおけよ」
魔導都市という名前の場所に似つかわしくない、武器を研ぐ音が都市の中に響き渡る。その尖った武器をどうなさるおつもりですか、まさか俺に向けて使う気か!! おやめください、死んでしまいます。
「エクレア、どうやらお前も反省したみたいだしここいらで許してやるよ」
俺は自分の命を優先した。当たり前だよなぁ、こんなくだらない事で死んでたまるかってんだ。俺が首輪を外そうとする手を何故かエクレアが止めた。どうした、エクレアさん何故止めるんだい。あんなに嫌がってたじゃないか。
「アリマ、私おかしくなってしまったようなんです。なんか、首輪をつけて有馬に従っていると胸の辺りがポカポカするんです」
「わかった。お前はおかしくなっているから今すぐその手をどけなさい」
「やーーです」
子供のように駄々をこねるエクレア。ちょっと楽しみだしてんじゃねえよ!! 俺は前々から思ってたんだけど、お前ってちょっとMっ気があるよな。
「ワガママ言うんじゃねえよ!! オラッ、手離せオラっ、力強い!! 俺の二倍ぐらい強い!!」
「いいじゃないですか、段々慣れてきましたし塔へ向かいましょうよ」
「よくなくなったから止めてんだよ!!」
犬用の首輪をつけた聖女とその首輪を引っ張る鬼畜男の姿がそこにはあるだろう。何ともみっともない争いである。
その間にもイリステラ教の信者達が近くに集まってくる。俺の逃げ場はなさそうだな、こうなってしまえば俺の生き残る方法は一つしかねえ。
「エクレア、今日は俺から離れないでくれ。お前が必要なんだ」
「嘘っ、アリマがそんな事言うなんて、かっこいい!!」
エクレアの近くにいる事で信者共も俺に迂闊に手を出す事もできまい。残念だったな、俺が今日はエクレアを独り占めさせてもらうぜ。
とりあえず、ほとぼりが冷めるまで散歩を続けた。俺とエクレアは魔導都市の中央広場へとたどり着いた。とりあえず、エクレアから首輪を没収した。
「あぁ、私の首輪が!?」
「なんで、お前が口惜しそうなんだよ」
広場には多くの人が賑わっているのだが、俺が目指していた物の姿はそこにはない。塔があるとの噂だったが、ここまで来て見えないと言うのもおかしな話である。
「イリステラの言っていた塔ってのはどこにあるんだ?」
「だから言ったじゃありませんか、魔導都市にそんな塔はあった覚えはないと」
とりあえず、中央近くまで近づくと中央付近は封鎖されていた。そこには、管理局の許可なく立ち入りを禁ずると書かれていた。中は遠目から見ても、なにもない空間が広がっているだけなのだが。
俺が途方に暮れていると、スマホから電話がかかってきた。俺は久しぶりだなと思いつつ、電話に出た。
『ハロハロ、貴方の女神イリステラよ。どう? そろそろ、魔導都市に着いたんじゃない』
「ああ、お前にしてはグッドタイミングだな。今、お前の言う通り魔導都市の中央広場まで来ているんだが、封鎖されていて中に入れそうにねえ。だが、入れても何もなさそうだぞ」
『ふふ、その塔は女神の力で隠れているわけ。アリマはとりあえずどうにかして中央広場に入ってちょうだい。そしたら、また電話するわ』
そう言って一方的に通話を切られてしまった。どうにかしてって、そこが一番大事なとこじゃねえか。やっぱ、全部丸投げじゃん。
「女神様の信託はなんと言ってもましたか」
「どうにかして、ここ封鎖されている所に入れとよ。エクレア、この管理局ってのに知り合いは?」
「ここに来たのも初めてですから、当然いませんね」
「そりゃそうか。うーん、不法侵入するしかねえかな」
それ以外の方法だと、管理局というのに直接頼み込むという手もあるにはあるのだが、まあ、多分無理だろうな。夜を待って、不法侵入が一番手っ取り早い気がする。
「アリマ、不法侵入なんていけませんよ。悪い事をすれば神様が見ていますからね」
「あのクレイジーピンクに見られてもなにも問題はないんだが」
俺とエクレアが広場で言い争っていると誰かが近づいて来た。俺はそちらを見ると、白衣の女性が立っていた。歳はまあまあいっているだろう。俺のストライクゾーンからは外れている。
「やあやあ、君達何かお困りかね」
温和な笑みを浮かべて俺達近づいてきた。俺は少し警戒心を出しながら、白衣の女性を見ているとエクレアが勝手に俺たちの事情を話してしまう。
「ええ、実はこの中央広場に入る許可が欲しいのですがどうすればいいのかわからず、途方に暮れておりまして」
「なるほどね。ふーん、ちょうどいいかも。その許可ってのを私願いを聞いてくれたら出してあげると言ったらどうする」
「許可を出すって、お前はいったい何者なんだ?」
俺の問いに白衣の女性は名刺のような物を渡してきた。そこには管理局局長、リューネ=イスガルド博士と書かれていた。
「私に話を聞く気になったのなら、ついてきなラボに案内するよ」
どちらにせよ当てがない俺とエクレアは顔を見合わせて、頷き合う。リューネの後をついていく事にしたのだった。




