裏も表もどっちが出ても勝ちゃいいのよ
俺達は魔導都市エンデュミオンを目指して歩いていた。はぐれの村とかいう寄り道を長い時間してしまったので、本来の道に戻ったのだ。いや、魔導都市エンデュミオンも女神イリステラの命令に従っているので寄り道みたいなもんなのだが。
道中は魔物に出くわす事もあったが、エクレアがワンパンで倒したのでカットだ。俺達は問題なく魔導都市エンデュミオンの近くまで来れた。
「エクレア、魔導都市に入る前に決めておきたい事がある。お前と俺で意見がぶつかる時もあるだろう、そういう時にどうするかだ」
「はいっ!! 食事の時に魚か肉かで喧嘩したら大変ですもんね!!」
「そんな事で喧嘩した事ないだろ!?」
お前が食べたい物の気分で全部譲ってやってるだろうが。脳みそ改変してんじゃねーよ、いやしんぼ聖女め。
「んで、何かあったらコイントスで決めようじゃねえかって事」
「コイントスですか?」
疑問顔の彼女に俺はこの辺でよく使われている硬貨を見せる。特になんの変哲もない硬貨だ。表面には統一王と呼ばれた男の顔が擦られている。
よく考えるとこの統一王は生きているわけだが、彼は自分の顔が書かれた硬貨が流通しているのを見てどう思っているのだろうか。俺だったら恥ずかしくて死にそうな気持ちになりそうなもんだが。
「ようはこうやってコインを投げるから、表か裏かをお前が答える。お前が正解したらお前の意見を採用、外したら俺の意見を採用するってわけ、どうだこれなら公平だろ」
「ほほう、確かにこれなら公平ですね」
「一つ、約束だ。このコイントスで決まった事はお互いに破る事はなしだぞ」
「むむ、もちろんです。聖女の名にかけて、ぜーったいに約束を守ります」
エクレアからの言質をとったぞ。残念だったなエクレアちゃん!! まだ、俺の事をそんな簡単に信じてしまうのかい。君はもう一度痛い目にあったほうがいいぜ。
俺は自分のポケットを見る。そこには、俺があらかじめ用意したコイントス用の硬貨が二枚あった。一枚は表しか出ない硬貨。もう一枚は裏しか出ない硬貨。
つまり、俺の好きな面を出す事ができるのだ。俺の負けなど絶対に存在しない勝負ってわけさ。
「じゃあ、前回お前が約束を破った罰を与えっからな」
「えっ!? あれはなかったされているはずでは!?」
「なに、勝手に無かったことににしてんだよ」
エクレアは急に慌て出した。すまんが俺はきっちりと覚えてるぞ、お前が約束を破ったら罰を受けると言った事をな。こいつ、俺が言わなかったらスルーするなんて、割としたたかになってきたな。
「まあ、俺も鬼ではないからな。せっかくだし、コイントスで決めるか。これなら公平に決められるだろ?」
「な、なるほどわかりました。私が当てたら罰はなしって事でお願いします!! ふふん、アリマも馬鹿ですね。こう見えて私運はいい方なんですよ」
今から行う勝負に運は一切関係ないのだが、謎のドヤ顔を見せつけてくるエクレア。何でもいいが、普通にやればお前が勝つ確率ゼロだけどな。
「さあ、どっちに賭ける?」
「表です」
俺は裏しか出ないイカサマコインを投げた。当然だが、裏しか出ないイカサマコインの結果なんて決まっている。裏が出た。
「三回、三回にしましょう!! 三回勝負です!!」
「俺にメリット皆無なんだが?」
「アリマがもし全勝したら何でも言う事聞きますから。でも、私が全部負けるなんてありえませんけどね」
「へいへい、じゃあ次は」
「表です」
こいつなんで自信満々なんだ? まあ、結果は俺の勝ちで決まっているんだがな。俺は裏しか出ないイカサマコインを投げる。コインが示す答えは当然裏である。
「この時点でお前が勝ち越す事は無くなったわけだが、どうすんだエクレア」
「さ、最後の勝負に勝った方が勝ちって事にしましょう。ねっ、いいでしょ、ねっ、アリマ〜〜」
「だぁー、抱きついてくるなうっとおしい!! その条件でいいが、もし負けたら相応の罰を受けてもらうからな」
「ふふっ、アリマも馬鹿ですね。確率って知ってますか? そろそろ、表が出る確率の方が圧倒的に高いんですよ。よって、次こそは表に決まってます。これで私の勝ちです!!」
何故か高らかに自分の勝利宣言をする負け確定の聖女様。てか、何で俺が馬鹿に馬鹿呼ばわりされなくちゃいけねーんだよ。そもそも、敗北確定の癖して偉そうだな。
勝負の条件が公平かどうかに疑いを持たない時点で、俺には一生勝てないんだよな。俺は裏しか出ないイカサマコインを投げる。当然、裏であった。
「はいっ、俺の勝ち」
「えーーーーーー、いや何かの間違えです!! おかしいですよこれ、イカサマです。アリマはイカサマをしてます!!」
「おいおい、散々負けてから俺を疑うのか。俺は悲しいよ、そこまで信頼されてないなんてな」
「コインを見せていただいてもいいですか?」
「いいけど、お前もしコインに不正が見つからなかったら覚悟できてんんだろな」
「アリマの事だからどうせ細工してるに決まってます。まともにやった私が馬鹿でした!!」
そう言うので、俺はエクレアに表と裏がある普通のコインを渡した。エクレアは何度も見る、何度も見ているうちに俺の目からでもわかるぐらいに尋常じゃない汗が出ている。まあ、いくら見ようがその硬貨は普通の物だからな。
「で、どうなんだ。俺がイカサマしてるとか何とか言ってたけど、イカサマしてるのか聞かせてもらおうか」
「アリマ、普段の行いというのか悪いと人は信頼されなくなってしまいます。アリマは普段の行いがカスみたいなので、当然疑われてしまいます。今回はそれが知れてよかったとは思いませんか。では、気を取り直して魔導都市エンデュミオンに行きましょうか!!」
「待てや、クソ聖女。散々負けといて、よくもまあ俺にその態度とれるな。後悔させてやるよ!!」
逃げようとする往生際の悪いエクレアの首根っこを掴む。俺は用意していた物を取り出した。それは、犬用の首輪と首にかけられる木の看板であった。
「そ、それでなにを?」
「まあまあ、楽しみは魔導都市についてからにしようぜ」
俺はきっと邪悪な笑みを浮かべていたんだんだろうな。エクレアの反応からもわかるよ、エクレアが恐ろしそうに震えていたもん。ふう、上手くイカサマできた日はなんだか清々しいぜ。




