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ここが俺の居場所

 目を開ける。見覚えのある場所だ。確かここは、火の大地にある王都セイクリアの近くだったはずだ。何度確認しても見覚えはちゃんとある。間違いないだろう。


 俺が目を開けた時には、ネストは既にいなくなっていた。きっと、自分の目的の場所に移動したのだろう。まあ、あいつの事はいい。心配なんてしていない。


「あのー、大丈夫ですか?」


「ああ、シフォンか」


 声だけでわかったから、何も考えず言ってしまった。


「申し訳ありませんが、どなたでしょうか? すいません、見覚えがないようですから」


 ああ、そうだった。俺の記憶が無くなっていたんだったな。だから、俺達は初対面ってわけだ。


「いや、すまない。俺の勘違いだったよ」


「そうですか。こんな所で寝ていると、魔物の襲われますから気をつけてくださいね」


「んっ、ああそうだな。気をつけるよ」


 俺はシフォンにお礼を言ってその場を去った。そうか、こうなるんだよな。わかっていた事じゃないか。さて、この後どうしようか。いっそ山奥で暮らすのもいいかもな。


 俺の足は王都セイクリアの前まで来ていた。


 自分の考えと全く違う動きを体がしている。そこに驚きを隠せない。


「まあ、今がどの年代か調べる必要があるしここで調べるとするか」


 俺は適当に町をぶらつき始める。俺に気づく者は一人もいない。しかし、久しぶりの王都って感じはないんだよなぁ。俺にとってはつい最近来たばかりだ。


 それに加えて、一番の原因は町並みが全く変わっていない事だな。王都セイクリアがあるって事はそう遠くはない未来のはずだ。数千年とかは経ってないと考えられる。


 町並みも全くといっていいほど変わっていない。あの時見た光景そのままだ。


「……俺が見た事がない物を探してみるか」


 それが一番いいだろう。そこを起点にして、どの程度時間が経ったのかを調べるとしよう。とりあえず、目標を作って移動を開始。すると、それはすぐに見つかった。


 俺が明らかに知らない建物がそこにはあった。


「ギルド?」


 看板を読んだらそう書いてあった。建物を見る。間違いなく、俺がいない間に建てられた建物。そして、この建物は王都でもかなり大きさだ。わざわざこんな大きな建物を建てるという事は、かなり大事な建物なのだろう。


 今この瞬間にでも、多くの人がこの建物に入って行く。服装としては、戦う想定の装備をした人材が多いってところかな。何人かの人間がカードを持っていた。


 初めて見た建物。初めて見たカード。だが、そのカードには見覚えがあった。水の大地、魔術国家リーンに住む賢者アリシア・ポートメントが研究していた。魔力を溜めこむ遺物。誰もが魔術師になれるカード。


 いらないと言われて最初は俺が持っていたが、最後はエクレアに渡していたはずだったが。それが、いつの間にやら多くの人が持っている。


「気になるな」


 俺はギルドの建物に入る。中は昼にも関わらず、多くの人で賑わっている様子。どうやら、飲食を食べるスペースと仕事を請け負うスペースが一緒になっているようだ。うるさいのは食べる方。


 仕事の方を見る。受付でカードを渡すとお金を貰ったり、依頼を受けている様子が遠くからでもわかる。俺がすぐにわかったのは、ゲームや漫画で見た事があるような感じがしたから。


「……これ、まさかな」


 俺は一つの答えを出していた。俺が話していたままの内装とシステム。俺がこの話をしたのはエクレアとリューネ・イスガルドしかいない。


 リューネはこういうのに興味があるタイプではないだろう。なら、誰がこのシステムを作り上げたのだろうか。俺は受付と書かれた場所に近づく。


「どうされましたか?」


 お姉さんが愛想よく聞いてきた。


「聞きたい事がある。ここの責任者の名前は誰になる?」


「責任者ですか。ギルド長となりますが……」


「名前は?」


「元聖女のエクレア・サンクトス様ですね」


 時が止まったかのような感覚。


 そうか、エクレアは作り上げたのか。そういや、言ってたもんな。全部終わったら王都でギルドを作り上げたいって。そうか、そうか、やったんだな。


「あの、会う事って可能か」


 自然と口に出してしまった。若干の後悔。


「約束は取り付けていますか?」


「……アリマが訪ねて来たと言ってくれれば」


 いや、なにを言っているんだ。意味がないだろそれは。全員、俺の記憶は無くなっているんだ。誰も知らない人間の名前を伝えても、知らないと言われるだけだろ。


 俺はどこまで馬鹿になってしまったんだよ。そもそも、エクレアが今この建物にいるかどうかもわからないだろうが。


 不思議そうな顔をするお姉さん。聞いてきますとだけ伝えてきた。数分俺が待つと、受付のお姉さんが帰ってきた。


「知らない名前だそうです」


「そうか」


 なんで落胆してるんだよ。これが当たり前の反応だろうが。落胆してんじゃねーよ。馬鹿か俺は。本当にどうしようもねえ馬鹿だな。


「ですが、一応お会いになるとの事です」


 いや、断るべきだ。これ以上は意味がないのだからな。行った所で、俺の知らないエクレアがいるだけだ。もう、元には戻る事は絶対にない。


 そう意味がないのだ。


「わかった」


 自然とそう答えてしまった。頭ではどれが正しいのか理解している。だが、体と心が勝手動いてしまう。階段を上ると一室へと案内される。


 扉を開く。中には女性が座っていた。


 あの時の記憶、光景と何一つ変わらない姿。本当に歳をとっているような様子は見えないな。しわしわのおばあちゃんになっていなくて良かったと言えるか。


 部屋の中へと足を踏み入れるとこちらに気づく。立ち上がり、こちらを見る。柔らかな笑みを浮かべる。俺はこの笑みを知っている。それは、エクレアが初対面の相手の時に使う笑みだ。だから、次にエクレアが話す言葉は想像出来た。


「初めまして、でよかったですよね。私は王都でギルド長を務めています。エクレア・サンクトスと言います」


 知っている。名前も全部。今さら言われても仕方がない。がっかりした自分がいた。だが、これで決心がついたとも言える。


 さて、当初の目的を果たそう。


「ああ、よろしく。ところで、魔王が倒されてから何年が経ったんだ?」


「……十年でしょうか。それがどうかしましたか?」


 十年。なるほど、あれからおおよそ十年後の異世界イリステラってわけか。時間ガチャの結果だけ言うなら成功と言ってもいいだろう。ほとんど誤差はないに等しい。


 運はいい。だが、俺にとっては意味がないだけだ。


「そうか、十年か。ところでアンタもう一つだけ聞きたい事があるんだが」


 それが俺の本当の聞きたい事だとエクレアは思ったのだろう。実際にはエクレアに聞きたい事なんてない。俺が期待してここに来ただけなんだ。


「この世界はどうだ。楽しかったか?」


「ええ、魔王を倒してから忙しかったですが楽しかったですよ」


 そうか、ならいい。俺は黙って部屋の扉に手をかけた。もう、何を言われようが帰るつもりだったから。扉を開こうと力を入れる。


「だって、貴方にも会えましたからね。()()()()()()()()()()


 ゆっくりと振り返る。素早く振り返ることが出来ない。怖かったから。俺の聞き間違いだったらどうしようかと思ったからだ。怖い、今まで一番怖い光景。


 振り返ると満面の笑みでエクレアが立っていた。


「なんで、お前……」


「どうしてかはわかりませんが、みんなは忘れてしまったようですね。ですが、私はちゃーんと覚えてますよ。あの旅でアリマとした事もね」


 純粋に嬉しかった。多分、エクレアは女神イリステラの力を少し引き継いでいた。それが作用してって事なんだろうと考えた。だけど、そんな事はどうでもよかった。もう、奇跡って事でいい。


 俺はエクレアと深く抱き合った。


「エクレア、お前しわ増えたか?」


「増えてませんけど!? 久しぶりに、最愛の人に会って言うセリフがそれですか!?」


 こいつに意地悪をされていた事に俺は気づいた。だから、やり返したくて言いました。それだけです。しわどころか姿が変わらなくて驚いています。


「アリマも変わりませんね。十年前のままです」


 俺は十年前から来ているからな。そりゃそうだよ。


「それで、どうして知らないふりなんてしたんだよ」


「アリマは私と最後に会った場所を覚えていますか?」


「最後って、あの宿だろ」


 愛し合った宿。つい昨日の出来事のように思い出せる。


「そうです。わかりますか? 朝起きたら、アリマが急にいなくなっていた私の気持ちが!!」


「もう十年前だろ。時効って事にしてくれねえか」


「するわけないでしょ!?」


 大声で叫んだ。その時だ。エクレアの座る机の下から小さな影が現れた。小さな影は目をこする動作をしている。寝ていたのだろう。


「お母さん」


「起こしてしまいましたか」


 それは小さな少女だった。初対面だと思うのだが、不思議と感覚としては会った事がある感じがした。エクレアはその少女抱きかかえる。


 ……あれっ? エクレアの事をお母さんって言った。お母さんって言いましたよね!! いや、あれかな、孤児院もしていていて、エクレアはみんなからお母さんって呼ばれている。これだ!! 俺の推理は正しいね。間違った事とかないから絶対に正しい。


 これ以外にあり得ないから。あり得たら、外の木に埋めて貰ってもかまわないぜ。


「エ、エクレアさん。その子供って……」


「えっ、私と貴方の子供ですけど」


 当たり前でしょみたいに言われてしまった。少女の顔を見る。いや、俺のパーツどこだよ!? ほとんど、エクレアを小さくしただけにしかみえないんだが。


 あっ、でもよかったね。俺のパーツなんてない方が可愛いよ。


 いや、それよりもだ。なんか、こいつさ見た事あるんだよな。なんだろう、違和感しか感じねえんだけど。自分の子供が生まれていた事よりも違和感しかねえ。


 だが、その正体は不明。


「ほらっ、()()()。挨拶をして」


 エクレアがイリスを地面に下ろすとイリスは俺に近づいてきた。


「イリスっていいます。おじさん誰?」


「はあっ!? お・じ・さ・んだとぉ、せめておにーさんだろ!! そんなに老けて見えるか!!」


「嘘だよ。お父さんでしょ」


 なんだこの初対面からムカつくガキ。エクレアと似ているけど、性格がよくないね。


「全く、親の顔が見て見たいよ」


「鏡ありますからそちらでどうぞ」


 うるせえな!! はいはい、わかりました。認めますよ。認めればいいんだぞ。これは俺の血も入ってますね。入ってないと性格悪くならないからね。可哀想だね、お母さんと性格が似なくてさ。


「それで、なんでイリスなんだよ」


「名前の由来ですか? もちろん、女神イリステラ様からとっています。不思議とそうしたいって思ったんですよね」


「イリステラ……?」


 はっとした、もう一度イリスの顔を見る。


 見た事があるってのはそういう事か。こいつ、イリステラに似ているんだ!! いや、間違いない。エクレアとイリステラを足して二で割るみたいな顔なんだよこいつ。


 間違いない。こいつはイリステラの転生体だ。何故だか、確信出来ちまった。おいおい、楽しめとは言ったけどさ。俺の子供になれとは言ってねえだろ。


 こっちに笑顔を見せるイリス。あー、なんか余計に憎たらしく感じて来た。


「イリス、ちょっとこっち来い」


 手で呼び寄せ、目線を合わせるためにしゃがむ。イリスは嬉しそうに近づいてくる。エクレアもうんうんと嬉しそうに頷いている。


 イリスが近づいてきた所で、俺はイリスの両頬を手で掴んで引っ張ってやった。


「ふえーーーーん!!!!」


 イリスは、涙目になりながらエクレアに抱き着いた。


「なにするんですか!? 自分の子供ですよ!?」


「いや、駄目だ。そいつはイリステラと似すぎている」


「良い事ではありませんか? それにこんなに可愛いのですからどうでもいい事でしょう。ねえー、イリス」


「見た時から思ってたんだけど、俺の要素ほとんどないよな。もしかして橋の下で拾ってきた?」


「凄い失礼な事言いますね!? 貴方の子なんですからちゃんと認知してください!!」


 すると扉の近くで音が聞こえた。扉が一人で開いたのだ。外からはこんな話声が聞こえてくる。


「ねえねえ、いまどうなってる?」

「なんか、ギルド長の消息不明の夫が帰ってきたんだけど。子供を認知しないって話が聞こえて来たわ」

「えっ、子供作って知らないから捨てるって事。酷くなーい」

「最低だよねー」


 俺は扉を開ける。


「散れ散れ、見せ物じゃねえぞ!!」


 俺のばれたのを知って散っていくギルド職員達。とりあえず言える事がある。俺はもう王都からは出て行く。二度と来ねえよこんな場所。


「それで、これからどうするつもりですか?」


「とりあえず、王都から出て行く」


 俺の言葉を聞いてイリスは近づいてくる。


「私も行く!!」


 どうやら、ついさっき頬を引っ張ったのは忘れてしまったようだ。エクレアに似て、素直で鳥頭だね。しゃがめと言われたので、しゃがんだら勝手に肩車の状態になってきやがった。


 まあいい。


「行く当てはあるのですか?」


「いや、ないけど」


「そんな事だろうと思いました。ちゃーんと用意しておきましたよ」


 机から取り出して渡してきたのは島の権利書だ。


「アリマ、島で静かに暮らしたいと言っていたでしょう。安くて、小さな島を買っておいたんですよ。こう見えて、今は稼いでいますからね」


「最高だぜエクレア!! もう大好き、マジ最高!!」


 どうやら、俺が言っていた小さな島で静かに暮らすという夢を覚えていたようだ。女神イリステラに叶えてもらえなかった夢を、エクレアが叶えてくれた。


 いや、もう語彙力失いそう。最高の嫁を貰いました。俺の人生楽勝かぁ?


「そこでなんですけど、イリスを連れて島に行ってくれませんか。ここで面倒を見るのにも限界がありまして……」


「えっ、やだよ。一人で静かに出来ねえじゃん」


「なんでぇ!! やだやだ、私も行く!!」


「首がぁ!? 抵抗の仕方がエクレアそっくり!! わかった、連れて行くって、連れて行けばいいんだろ!!」


 しかも狡猾。肩車の状態から首を絞めるから、俺の方は全く抵抗が出来ない。エクレアはこんな狡猾な方法は取らないんだけど。これって、女神イリステラの性格って事だよな。俺じゃないよな。


「たまには私も様子を見に行きますから」


「おうよ、それじゃあ行ってくるわ」


 俺はイリスを連れて部屋を出ようとする。


「あっ、アリマ」


「なんだよ」


「お帰りなさい」


「……ただいま!!」


 部屋を飛び出す。


 何気ないやり取り。だが、俺はようやく帰ってこれたんだと理解した。それと同時に、自分の役目を完全に終えた事も理解した。こっからは俺の役目じゃない。


 大丈夫。この世界の人々はそんなやわな存在じゃない。きっと、何が起きても大丈夫さ。だが、もし俺の力必要ならその時は力を貸してやってもいいかもな。


 だが、当分は島でお休みさせてもらうぜ。ただいま、異世界イリステラ。

本編としては以上となります。だけど、もう少しだけ続きます。いつものネストと見るシリーズ、島での暮らしを少し。もう少しだけお付き合いいただければ。

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