最後のガチャ
誰もいなくなった世界。この次元の狭間という世界はそう言うしかない。俺だけがいて、俺以外の生物が全く存在しないのだ。
エルダーがここを離れて、あれからどれだけの時間が経ったのだろうか。時間を確認する方法すらないからな。それどころか、この場所は時間という概念が存在するのかさえ疑わしい。
島を一通り探索したが本当に何もない。俺とルシファーの決闘用に作られただけの様子。つまり、長居するようになんて作られていないのだ。
この島から落ちてみるという方法もあるが、それは本当に耐えられない時の最後の手段にしたいと思う。落ちたら間違いなく死ぬと思うしな。死んで終わりならまだまし、そのまま死ねずに永遠と落下とかが一番困る。
とりあえずわかる事は、俺には脱出する方法がない。仮にイリステラに力を返さなくてもなかったから、おおよそこういう展開になるのは想像はしていた。
助けを求めるのは無理。異世界イリステラの人々の記憶から、俺の記憶を消してしまっている。記憶に残っていたとしても、ここに来れる人物はいないと思うがな。
久しぶりの暇だ。俺は地面で横になって目をつぶった。
……それから少しして、足音で目を覚ました。疲れていたのだろうか。ここまで接近されてようやく目を覚ましたのだ。俺が起き上がるとそこには見知った顔の人物がいた。
「やあ、元気そうだね」
「元気に見えるか?」
ネストだった。
どうやら、俺の力代償にはネストは関係がなかった様子。こいつは異世界イリステラで生まれてないし、当然ちゃ当然だな。
「んで、なんの用だよ。冷やかしにでも来たのか?」
「アリマ君、前々から思っていたんだけどね。僕への信頼度が低すぎやしないかい」
「逆だろ。信頼度が高いからこそ、お前は助けに来ないと思っているんだよ」
そこはちゃんと信頼している。お前は自分の目的に忠実だ。それはこれからだって変わらないだろう。それに、メイカーズが絡む時は一歩引くのもわかっている。今回は手を出さない。それが決まりのはずだ。
「そうだね。僕は目的の為なら手段を選ぶつもりはない。ただ、そんな僕でも感謝という気持ちはあるのさ。だから、君にお礼を言いにきた」
「言葉だけならいらねえぞ」
「まさか、君と僕の仲じゃないか。ちゃんとお礼を用意しているさ」
「そいつは嬉しいな。そもそも、そんなにお前に感謝されるようなことをした覚えはねえけどな」
「それがねぇ。君を抱きしめながら、ウルトラハッピーって叫びたいくらいにはしているんだよね」
「是非やってみてくれ」
「いやだよ。気持ち悪い」
じゃあ、言うんじゃねえよ。でも、ちょっと見て見たいかもしれないな。ネストがウルトラハッピーって言いながら、喜びを表現している姿。
想像するだけで結構面白いな。
「感謝しているのは本当さ。君がエルダーから少しの間でも世界を守ってくれた。そのおかげで、僕はライ君と会う事が出来る」
「ライっていうと……」
「ライ・ストレイジャー」
確か運命の塔で聞いたな。ライ・ストレイジャーはニコラスとオリヴィエの子供だったな。という事はライという奴はまだ生まれてすらいない。
見えてきた。魔王が世界を滅ぼしていたら、ライという者は生まれてこない。かと言って、エルダーが世界を壊せば存在すらなかった事になる。
どちらも俺が関わって止めている。感謝というのはそういう事だろう。
「ライ君が生まれてくると僕は役割を持つ事が出来る」
「役割って、お前は役割がないから一種の無敵状態だったんじゃなかったのか。確か自分でそう言っていたろ」
確かにこいつから聞いた。役割がないとこの世界に干渉が出来ないと。役割を持つという事はこいつにとって命を持つという事だ。
「そうだね、役割を持てば世界に縛られる。もう、どこか別の世界に行く事も出来ないし、あんな裏技みたい事もできなくなるだろう」
ネストの目を見るとわかる。今話している内容に嘘偽りないという事がな。目だ、目に覚悟を持つ者だけが持つ意思が見える。
今持っている全部を捨ててでも、欲しい物。ネストにとってはそれだけの価値があるのだろう。
「そこまでしてでも欲しい物か。なにか気になってくるな」
「別に隠すような事でもないさ。ライ君は僕の名付け親なんだ。ネストという名前は彼がつけたものなんだよ。僕に名前を与えて、そして役割をくれた。ネストとは、隣にいる者をさす言葉だそうだ。僕はその役割を今度は受けようと思う」
俺が運命の塔で見た景色。あれは滅んだ転生前の異世界イリステラ。ネストはそこで旅をして、そして結局最後までライとはいなかったのだろう。役割を受けなかったんだ。
そして、今度は役割を全うしようとしている。
「特殊な力の大部分は失われるだろう。だが、後悔はない。これが僕の目的だから」
「そうかい。なら、俺から言う事はなにもねえ」
「ふふっ、そう言うと思ったよ。さてさて、では君に感謝を返すとしよう。僕の本当の名前は『ブックメイカー』。僕が持つ、能力の一つで、失われる予定の力に『世界旅行』という物がある。最後に君に使おうと思う」
「名前はどうでもいいが、その力の内容は?」
「名の通り。別の世界から別の世界へと行き来出来る力だ。一人だけなら道連れにする事が出来る。旅は道連れ世は情けって言うだろ?」
「意味が違う気がするがまあいい。その能力で、俺をこの何もない場所から、異世界イリステラに帰してくれるってわけだな」
今の俺にとっては願ったり叶ったりだ。断る理由なんてねえ。どの道、この場所から移動する手段を持っていなかった。
「あっ、そうだ。君の前世の世界を僕は知っているからそっちでもいいよ。どうせ、どっち行っても君を覚えている人なんていないだろう。それとも、誰も知らない適当な世界にでも行くかい?」
まあ、ネストの言う事も一理ある。異世界イリステラに戻っても俺には何もない。力の出力を上げる為、帰ってこれないかもしれない未練を捨てる為。自分で決めた事だ。そこに今さら文句はない。
なら、元の世界に戻ったり、いっそ別の世界に行くのも候補には入る。
「まっ、異世界イリステラでいいや」
「ほうっ、どうしてだい?」
「あそこには大事な人達がいるからな。戻るならあそこがいい。たとえ、そいつが俺の事を記憶していなくてもな」
「そうかい」
ネストは空間の歪を作り出した。なるほどな、それはお前の力の一つだったわけか。そして、すぐにでも行こうってわけだな。
「一つ注意しておいてくれたまえ。この空間の歪は異世界イリステラに繋がってはいる。だが、僕は時間まで指定する事が出来ない」
「つまり、俺達が離れてからどれぐらい経つのかわからないって事か?」
「そういう事になるね。過去に戻る事はない。だけど、未来にどれぐらいの誤差が生まれるのかはわからないんだ。僕の経験から、おおよそ一年から百年前後までは誤差が生まれる」
「それは誤差とは呼ばねえんだが。まあ、いいんじゃねえか。最後の最後で、ガチャっていうのも悪くねえ」
時間ガチャ。出来ればみんなが生きている年代に行きたい。そうだな、一年から十年前後が当たりってとこだろな。上等じゃねえか。
それにさ、ネストはわざわざここに来る必要はなかった。最初にここに来なかったのは時間がずれるから。そのリスクを冒してまで、俺を助けに来たんだろ。
お前も一緒に時間ガチャ。俺が文句を言える立場ではない。
「僕は不確定要素は好きじゃないんだけどね」
「俺は遊びでなら好きだな。ワクワクしていいだろ? つまらない人生にちょっとしたスリルをくれるからな」
「運はいいのかい?」
「普段は駄目駄目だが、ここぞって時はいいぜ。任せておけよ、十年ぐらいのとこ当ててやる」
根拠ない自信。俺とネストは笑う。
「言っておくけど、僕の事を知り合いにしないでよね」
「それはこっちのセリフだ。次に会った時は知らないふりをしろよな」
俺とネストは最後のガチャを行う。異世界イリステラへと繋がる、空間の歪みへと侵入する。




