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何年経っても結果は一緒だ

 俺は待った。ただひたすら待つ。待っている相手はメイカーズの誰かだ。イリステラと関係が無くなった俺に、わざわざ次元の狭間まで会いに来てくれるか?


 俺の答えは必ず来るだ。


 今の俺の右手には創世の箱を持っていた。中にはルシファーと名乗った男が入っている。これを取り返しに誰かが必ずここにやってくる。


 島の端で静かに座って待った。


「空間の歪み。来たな」


 ネストと全く同じ方法。まさか、ネストではない。あいつが俺達を手伝っていたのは、メイカーズと関係が遠い範囲でだけだ。ここにはどうあがいても来ない。あいつはそういう奴だ。逆に信頼できる。


 空間の歪みから現れたのは男だった。一枚の布みたいな服しか着ていない。だが、不思議と神々しさを感じた。間違いなく只者ではない感じ。一瞬だけ呆気にとられてしまった。


「やあ、私はエルダー。メイカーズの長をしている者だ」


「お、お前が!?」


 いや、只者ではないとは思ったが。まさか、一番上のボスが直々に来るとは思わなかった。魔王の時もそうだが、一番上は静かに待っていろよな。みんな、アグレッシブなんだよ。


 エルダーは温和な笑みを浮かべている。敵意などは感じない。エルダーは指を鳴らす。すると、どこからか真っ白な椅子と机が現れた。今作られたばかりのように綺麗だ。


「どうだい、よかったら座って話さないかい?」


 エルダーはゆっくりと席に座る。そして、こっちを見る。俺がどうするべきか決めかねていると。


「心配しないで。力づくで奪い返すなんてしないよ。君がわざわざこちらとの対談を望んだんだ。私もその気持ちに応えようと思ってきたのだから」


 俺は心理学者じゃない。だから、あいつが本当のことを言っているのかなんてわからない。いつもなら疑いの目で見ていたはず。


 だが、不思議な事にエルダーが発した言葉は嘘でないとわかった。なんでだろうな。既になんらかの力に精神を汚染されてしまったのだろうか? 


 俺も静かに席に座った。


「なにか飲みたい物はないかい。なんでも出すよ」


 なんでもか。ちょっと意地悪をしたくなった。なんでもって言われると、この世界にない物を選びたくなっちまう。


「じゃあ、コーラで」


 前世で飲んでいた炭酸飲料を指定した。果たして、このエルダーという男はしっかりと俺の望んだ物を出せるのだろうか。


 エルダーは温和な笑みを浮かべながら指を鳴らす。すると、机にはしっかりとコーラが出現した。まるで、作り立てのように泡をたてている。


 俺が不思議そうに眺めていると。


「毒とかないから安心して。どの世界のコーラかわからなかったから、私が一番美味しいと思った物を出したよ」


 一口だけ飲んでみると、確かに俺が飲んだ事がない味のコーラだ。苦みがとても多い。むしろ、甘さは控えめと言った感じだ。久しぶりの炭酸飲料が喉を潤してくれる。


「本当になんでも出せるのか?」


「うん、大抵の物はね。創世の箱も私が作り上げた物なんだ」


 エルダーの言葉を信じるのなら、創世の箱は世界を作れる。イリステラが見せてくれた『転生』の力も創世の箱由来の物だ。それも全てエルダーが作り出したことになるだろう。


 戦うというのがおこがましくなりそうだ。なるほどな、普段は神様なんて信じない俺だが、エルダーを見て感じていた神々しさはこれか。生き物としてのレベルが違うのを無意識に感じ取っていたようだ。


 俺は手元に目をやる。そこにはルシファーが入った創世の箱があった。


「……どうしてだ。今のお前なら、俺からこの箱を奪う事も出来たんじゃないか」


「出来たかもしれないし、出来なかったかもしれない。君は箱をすぐにでも落とせるように、端で座って待っていたのだろう。私としては、仲間を失うようなそんな賭けをするわけにはいかないよ」


 仲間思いというのは本当なようだ。なるほどな、やっぱり壊さずに残して正解だったな。思った通り、交渉に使えそうだ。


「俺から要求は一つしかない」


「私が世界イリステラに手を出さない約束をする。だろ?」


 心が読めるのだろうか。涼しい顔をしてそう言った。以外とは思わない。それぐらいは出来そうだと素直に思った。


 だが、エルダーは素直に諦めてくれるだろうか。どういうわけか知らないが、イリステラはメイカーズのメンバーを一人倒してしまっている。それで、エルダーから怒りを買ったと聞いた。


 仲間思いなのはわかった。簡単に許してくれるわけが。


「いいよ。創世の箱を返してくれるのなら、君がその世界に生きている間は手を出すのをやめようじゃないか」


「やけに、聞き分けがいいな。なにか企んでいるのか?」


「いや、私としても仲間の仇は取りたい。だが、これ以上争うのは無駄が多いと判断しただけさ。これ以上、私としても仲間を失う危険は減らしたいからね」


 いいのか? これで、本当に終わり? やけに素直過ぎないか。どこかに違和感を感じる。だが、それがなんなのかわからない。


「凄い顔をしているね。私があっさり引いたのがそんなにおかしな事かい? ふふっ、まあそうだね。ちょっと遊びながら話そうか」


 エルダーは指を鳴らした。すると、机の上には新品同然の……これはチェスだろうか。少なくとも見た事はあるが、ルールは全く知らない。


「君の世界にある遊戯だ。出来るだろ?」


「いや、知らねえ。将棋ならわかるんだが」


「では、始めようか」


 俺の話を無視して始める。エルダーは頭の丸い駒を一歩進めた。なにあれ、将棋で言う歩でいいんか。まあ、よくわかんねえから真似しておくか。


 俺は頭の丸い駒を適当に一歩動かす。


「あっさりと引いた理由だったね。簡単に言ってしまえば、邪魔され過ぎたと言うのが答えかな」


「邪魔をされた。俺以外にもって事か? ……その馬みたいな奴の動きずるくね?」


「そうだ。外町ロワ、君もよく知っているはずだ。まずはイリステラと共に彼に邪魔されてしまってね」


 外町ロワ、今は異世界イリステラにはいない人物。どこに行ったのかは不明だが、戦いは終わっていないという発言とメイカーズという組織の存在。おおよそ俺の想像だが別世界で彼等と争っていそうだ。


 それを含めて邪魔をされていると言っているのだろう。ところで、将棋でいう取られたら負けの駒とかあるのだろうか。まさか、全部倒すまでのゲームじゃないよな。


「そりゃ、ご愁傷様だな。誰でも自分の世界が消えるってなったら抵抗するだろうさ」


「そうみたいだね」


「そうみたいだねって、まるで他人事だな」


 感情の起伏もあまりない。本当にどうでもよさそうに言いやがる。


「いや、感情はちゃんとあるよ。イリステラに仲間を殺されて、その上で組織を裏切られた時は怒ったもんだよ。本当に殺したくなるぐらいにね」


 エルダーの持っていた駒が割れた。すぐに指を鳴らして作り出す。一瞬だけ、涼しそうな顔が歪んだような気がした。一瞬過ぎたのでわからない。


「だが、許す気になったと」


「……私にはメイカーズしかない。だから、大事にしたい。それだけだった。皆が喜ぶから、創世の箱も作ったし、力も分け与える。ゆえに、裏切られた時は私の全てを否定された気分だったよ」


 やばい、めっちゃ駒取られる。これって、絶対に負けたよな。この状態から逆転する方法なんてあるのだろうか。


「そんなお前が許す気になった理由は?」


「わかったんだ。()()()()()()()()


「待てばいい?」


「そう、私に君達のような寿命は存在しない。だから、君や外町ロワのような人物が全員死ぬまで待つ事にしたんだ。誰も味方がいないイリステラの箱を壊せばいいってね。こんな簡単な事にも気づかなかったんだよ。今まで誰かに邪魔された事なんてなかったからね」


 ああ、なるほどな。すぐに引いた時の違和感はこれか。無限に寿命があるから、俺が死んだ後にゆっくりと壊せばいいって考えたわけだ。


 俺は笑うのをやめられなかった。俺がどうして笑っているのかがわからない様子。んじゃ、教えてやるよ。


 机の上のチェス盤を足で思いっきり叩きつけた。チェス盤は壊れてしまい駒は宙に舞う。


「本当に馬鹿だな。お前は馬鹿だ。まだ懲りてねえようだな。無駄だよ。たとえ俺やロワがいなくなって、お前らの存在を知る者がいなくなったとしよう。だがな、何百年たとうが何千年だろうがな、お前の邪魔をするものが現れる!! そう、確実な!!」


「まるで、預言者のようだね。どうしてわかるんだい?」


「お前が俺達の事を全く理解していないから」


 きっと俺達がどうして戦っていたのかをこいつは理解していない。だから、そんなすげえ力持ってても足元をすくわれるんだろうが。


「お前じゃこの世界は消せねえよ」


「なるほど、忠告感謝しよう。ところで、負けそうになったからチェス盤を壊したのかい?」


「いや、そんな事は全然ない。このチェス盤のように、いつでも簡単にひっくり返るんだぞって事を言いたかったから壊した」


 エルダーは笑った。そして、指を鳴らすと机の物が全て消える。エルダーが箱を持ち上げて立ち上がったのを見て、俺も立ち上がる。


「君に恨みは特にない。だから、話せて純粋に楽しかったよ。そうだ、よかったら君の世界に送ってあげようか。箱の持ち主でもここを移動するのは難しいからね」


「遠慮しておくよ。お前に借りを作りたくないし、俺はお前が嫌いだからな」


「そうかい」


 エルダーは空間の歪へと消えていった。

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