楽しめばいい
これで今の俺は、創世の箱の力と俺の中にある女神イリステラの力を両方使った状態だ。さて、たいして相手は創世の箱の力のみ。誰でもわかる簡単な足し算。
俺はルシファーに瞬時に近づく。もう、俺の動きを追えていないのは明白だった。お前はもう、俺についてこれねえ。
今回は遊んであげる余裕はないのだ。悪いけど、このまま勝たせてもらう。
「神の一撃!!」
剣なんてないので左の拳を叩き込む。手ごたえはある。最早、俺に対して言葉を吐く余裕すらない様子。すまんが、このまま終わらせてもらう。
人間には両手がありますから。残った右手もやるよ。
「救世主の一撃!!」
俺の拳はルシファーの体に風穴を開けた。すると、滅殺陣が消えていくのがわかる。それと同時にルシファーの体も光の粒子となっていく。
「最後に聞かせてくれるか。そこまで圧倒的な力にするには、大きな代償があったはずだ。お前はなにを犠牲にした?」
「この世界の俺が生きてきた痕跡。それをなかった事にした」
それぐらいを犠牲にしないと確実に勝てないと思った。やり過ぎだったかもしれねえ。けど、負けてなにもかも失うよりはこれでいい。
「世界から忘れ去られるというのは死んだも同然だ。お前の存在自体がなかった事になる」
「でも、俺がやってきた事までは消えねえ。俺がやった事は覚えてなくても、別の誰かがやった事になったとしても関係ねえ。ちゃんと魂には刻まれているはずだ」
いつも言っているだろ。俺じゃなくてもいいんだって、誰かが代わりにしてくれるのならそれでいいんだ。俺はあの世界に転生して、あの世界が好きになった。
そこそこ大事なもんもある。俺がいた証よりも、世界が続く方を選んだだけだ。恩着せがましく言っておくか、異世界イリステラの諸君。後は頑張って存続させてくれよな。
「なるほど、俺が負けたのは覚悟の差だったか」
それを最後に粒子となってルシファーは消えた。残ったのは円形の島とルシファーが入ったもう一つの創世の箱だった。
壊せばとどめ。だが、俺は壊さず持ち上げる。今後の事を考えると壊さない方がいいと判断しただけ。別に情が沸いたとかは一切ない。
そんな事よりもだ。死んだら箱に戻る。その言葉を聞いた時からわかっていた事がある。だが、それを確認する余裕がなかった。今にしてようやく暇が生まれたので試してみるぞ。
「おいっ、出てこいイリステラ」
俺の言葉と共に、申し訳なさそうにふざけたピンク頭が現れた。俺をこの世界に転生させた人物で、力を全部渡ししてきた馬鹿。そして、馬鹿みたいなお人好し。
「俺になにかいう事はあるか?」
「ここまでよく頑張ったわね。私も女神として鼻が高い。まさか、メイカーズの一人を倒しちゃうなんて思いもしなかったけど」
「ふーん、じゃあ一応聞いておくけど。どこまでがお前の想定だったんだよ?」
イリステラは顔を歪ませた。どうやら答えにくい質問だったようだ。
「聞き方を変えるか。お前の目標は何だったんだ?」
「それは、魔王を倒してもらう為に……」
「違うね。俺はお前の力を持つ事でよーくわかった。魔王なんて、お前でもどうとでもなるだろ」
俺と会った時のイリステラは、半分の力を創世の箱にしまっていた。しかも、メイカーズから逃げまわっている状態。そんな余裕がないのは百も承知だ。
だが、そもそも逃げまわっているのも、魔王を倒せなくなったのも力の半分を自分で創世の箱にしまったから。つまり、イリステラは半分の力をどうしても手放さなくてはならない事情があったわけだ。
俺が知りたいのはそこ。イリステラは何故、俺みたいな奴に力を渡すという危険を犯してでも、力の半分を閉まったのか。
「簡単に言ってしまえば、余裕がなかったから、かしら?」
「こっちの顔色を伺いながら話すな。早く話せ、お前も時間がないのはわかっているだろう」
「うぅ、久しぶりの再会なのに冷たい」
「あったかく出迎えてもらえるような行動をしていたか?」
俺はお前が適当な情報を流すせいで、色々と大変だったんだぞ。
「メイカーズに追われていて、自分の力を二つに分けてこの世界に落としたの。一つ目は文字通り、今の私という存在として。二つ目は全く違う転生先としてね」
「そして、お前は自分の魂のどちらかに創世の箱を持たせた。適当に落としたのはどっちが持っているかをわからせないため。だろっ?」
「……本当に嫌な事には頭が働くわね」
「誉め言葉として受け取っておくよ。んで、お前の目論見は成功した。どっちもメイカーズに見つかる事はなかった」
「私が箱を見つけられたのは、アリマ達のおかげでもあるわ。箱を探す時間を捻出してくれたもん」
たまに繋がらなかったりしたり、忙しかったのはこういう理由だったわけだ。大方、ネストとも最初からグルで探していて貰ったのだろう。
そして、予定通りに箱を見つけて、絶対に見つからない自身のある運命の塔へと封印。後は、俺達をそこそこ手伝って力を貸すつもりだったんだろうな。だけど、想定外の事が起きる。
風の大地に急に魔王が現れた。そこで、どうにもならないと悟ったイリステラは今持っている力を全部俺に渡した。俺がどんな風に力を使うのかわからないのにな。
「ちなみに、俺に力を渡そうと思ったのはなんでだ?」
「だって、渡さないとアリマが死んじゃうでしょ」
「そんなけ?」
「それだけ」
俺は心の底から笑った。イリステラはなんで笑われたのか理解できない様子。いやぁ、普通は自分の全部を相手にゆだねるなんてしないって。危ない橋を渡り過ぎだろ。ちょっとは考えろよ。
「なんか、一周まわって殴りたくなってきたな」
「なんで!?」
なんでかも自分で考えてくれ。
「さて、楽しいお喋りもおしまいね。さあ、アリマ。私に力を返してちょうだい。ここまで、本当にありがとう。後は、私がやっておくから……」
手が震えていた。
そう、本当の勝負はここからなんだ。メイカーズが思ったよりも仲間思いな事がわかった。身内にだけ優しいタイプの奴。だからこそ、間違いなく追撃が来る。
ようは、イリステラはこっからは一人でやろうとしてるってわけだ。こいつの事だから、これからの事は深く考えていないだろう。というか、俺は力を分けての辺りで、イリステラが本当に考えたのか? と問い正したくなった。
絶対に別の誰かが入れ知恵をしている。そう感じずにはいられなかった。まあ、こいつが考えたか考えてないかなんてどうでもいい。
ようは力を返すか返さないかだろ。俺の答えは。
「今はやだね」
「えー、どどどどどうして!? はっ、まさか悪い事に使うつもりじゃないでしょうね!?」
「信頼が無くてかなしー。まあ、日ごろの行いだししゃあねえ。んで、力を返してお前はどうするつもりだったんだ?」
「そりゃ、どこまでやれるかわからないけど戦うでしょ」
「だろうな。でも、俺としてはここまで来て、勝てるかわからん勝負はして欲しくないんだよな」
「負けても大丈夫。創世の箱は、アリマに持たせて帰らせるから」
ルシファーとの話を箱中で聞いてやがったなこいつ。なるほど、死んでも箱に戻るから、そこそこ戦ってどうにかしようって感じだったんだな。
はぁ、それじゃあ意味ねえんだよ。結局、この世界の安全を求めるのなら。メイカーズのトップに異世界イリステラを壊すのを諦めさせるしかねえ。それ以外の答えは同じことの繰り返しだ。
意味なんてねえ。だから、ここで俺の取る答えは決まっている。俺はイリステラに手をかざした。イリステラを別の存在に転生させる為だ。
「ちょ、ちょっと!? どうして私に転生の力を使おうとしているの!?」
「お前は馬鹿なんだからなんも考えるな。後の事は、俺がかわりにやってやるからさ」
「で、でも、今までだって、いっぱい色んな人に迷惑をかけたし……私だけ、何もせずに生まれ変わるなんて」
馬鹿だなあ。お前は本当に馬鹿だな。エクレアもそうだけどさ。頑張ってる奴は、ちょっとぐらいは報われてもいいんだよ。ちょっとぐらい楽してもいいし、ちょっとぐらいさぼってもいい。今まで肩の力を入れ続けて生きてきたんだ。
黙って、息抜きすればいいんだよ。
「ネストから話は聞いた。お前がこの世界の為に頑張ってたのは知ってる。一回滅んだのをもう一度やり直したんだろ。十分だ、もう十分にやってくれてるよ」
「十分じゃない!! 私がもっと頑張らないと!!」
イリステラは叫んだ。
「お前、自分の世界が好きって言ってたよな?」
「好きよ」
「なら、どんな場所が好きなんだ? 実際に立った時の匂いとか、空気とかを吸った事はあるか? 現地の奴らとどうでもいい会話をしたか? どうだ、一つでもした事や感じた事はあるか」
「……」
沈黙。そりゃそうだろうな。お前は自分の好きな世界を、自由に見てまわる時間さえなかったわけだ。世界の為にで精一杯だった事だろう。
「そろそろいいんじゃねえか。お前もお前が作った世界を楽しめよ。俺達と一緒に遊ぼうぜ」
「いいのかな私。まだ、なにもしてないのに」
「あー、めんどくせえな。はいっ、お前は転生して新たな人生をスタート。これ決定事項だから。お前、選ぶの嫌いなんだろ。俺が選んでやるよ。んで、こいつもプレゼントだ」
俺は創世の箱をイリステラに投げる。もちろん、ルシファーの入ってない方の奴な。そして、転生の力を使った後に創世の箱にイリステラの力を全て戻した。
これで、俺は普通のアリマに戻ったわけだ。
「えっ!? ちょ、ちょ、全部戻したら戦えないでしょ!?」
「いらねえよこんな力」
正直、ずっと持たされていても困るしな。なんか、微妙にやる気になれねえんだよな。俺はどっちかというと制限がある感じの方が楽しめるんだよ。
「だから、お前が持って帰れ。元々はお前の力なんだからな」
「わかってるの!? 今までとは比べものにならない相手なのよ!?」
「わかってるって。ちゃんと考えてあるから大丈夫だって心配すんな。じゃあな、次はピンク頭で転生しないといいな」
「最後までそれ!?」
女神イリステラは創世の箱と共に転生していった。この世界を見守ってくれていた神様が、異世界イリステラから消えた瞬間だった。
大丈夫だよ。もう、お前がいなくてもみんな歩いていけるってさ。




