世界の変化
アリマが救世主のカードを使った時。異世界イリステラには大きな変化が起きた。この違和感を感じ取れる者はそう多くはなかったが、次第に違和感さえも感じる事が出来なくなってしまうだろう。
火の大地、王都セイクリアの広場。ハーゲン・セイクリアが世界を救った勇者の銅像の記念式典をしていた。近くには騎士達とコボがいる。
「あれっ? アリマの銅像は?」
「どうも自分で壊したらしい。騎士達が嘆いていたおったわ」
「「「「「兄貴の銅像も今作り直してるっす」」」」」
だが、次の瞬間だ。
「僕ねーーーみたいな立派な人になりたいんだ」
「ふふっ、そうか。だが、ーーーみたいなのが増えたらたまらん」
「「「「ーーどうしてるっすかね」」」」
「ところで誰の銅像を建てているんだ?」
「「「「「さあ?」」」」」
「えっと、僕は誰みたいになりたかったんだろう?」
記念式典は違和感なく進んでいく。
火の大地、魔導都市エンデュミオン。ここでは、リューネ・イスガルド博士と魔導知能であるココロが研究施設にいた。彼等は完全に壊れてしまった飛行船の復旧をしていた。
「こんな感じか? 全く、ーーーの奴め。ここまで壊す事はないだろう」
『仕方がないよ。あの時は余裕がなかったもん。でも、よかったよ。ーーー達が魔王を倒してくれたから平和になったんでしょ』
「そうだな。……私達は誰の話をしていた?」
『もう忘れちゃったの。あれっ、誰の事だろう? 僕のデータにもないよ』
ココロのデータから消されている存在。リューネは気になって探ろうとしたが、なにを探ろうとしてい頼蚊も忘れてしまいやめた。
水の大地、魔術国家リーン。魔術学院の完成を目指して、賢者アリシア・ポートメントと杖に封印されているオービタル・デュランダルは日夜活動していた。
アリシアの部屋に一人の少女が訪ねてくる。大賢者ヴァイオレット・クロノスの姿であった。大賢者専用のローブを身にまとっている。
「どう、大賢者になった感想は?」
「凄く、生きづらくなってしまいました。自由時間が減ってしまって後悔しています」
涙を流すヴァイオレット。
『なんなら、俺様がかわってやろうか?』
「うっさい、死ね」
『暴言だけで俺様と会話するな!!』
すると、とある人物の記憶だけが消える現象が彼等にも襲う。三人は三者三葉の反応をした。アリシアは特になにも反応していない。オービタルもほんの少しだけの違和感を感じ取ったが、すぐに消えていく。
ヴァイオレットだけが、違和感をそのまま残していた。彼女は自分に防衛魔術をかけている。それが、発動したのだ。
「……???」
「どうしたのヴァイオレット? そんな浮かない顔をして?」
『変な物でも食べたのか?』
「二人とも、何か違和感はありませんでした?」
ヴァイオレットの問いに二人は首を傾げるばかりだ。アリシアの部屋から出たヴァイオレットは窓の外を眺める。
「ーーー、ーーー、ーーー、なるほど、どうやら特定の単語を忘れているようですね。ですが、それが何かまではわからないと。誰かが、私に魔力を使ったなにかを仕掛けたみたいですが、気に入りませんね」
ヴァイオレットだけはその後、記憶を頼りに暇な時間を使って調べるようになる。違和感の答えを魔術の探究者が探す。
土の大地、竜の国アステリオン。現在、国を挙げて復興の途中である。約束の時間となった為、傭兵団の団長であるジーク・フリードルは王城へと向かう。
現在の王城は魔族に破壊されつくしていて、ほとんど瓦礫となっている。その近くにある簡素な小屋にある女性がいた。
アステリオンの王妃、ノービス・エレクトラム。彼女は身ごもっている為、復興活動には参加できていないので暇であった。
ジークは暇つぶしに呼ばれていた。
「ジーク、私が呼んだらすぐ来るようにと言ったでしょう」
「おっさんも歳なんですよ。それで、今日は何の御用でしょうか?」
「貴方、ーーーと連絡は取れますか? 是非、子供が生まれたら合わせたいと思ってまして」
「そりゃ、何の冗談で? ーーーは子供とか嫌いだと思いますけどねえ」
「……私は何の為にジークを呼んだのでしょうか?」
「知りませんて!?」
「ジーク帰りなさい」
よくわからないけど呼ばれて、よくわからないけど帰るジーク。ノービスはなにかを思い出そうとするが、思い出せない日々が続き、次第に忘れた。
土の大地、豊饒の土地ユラシャ。比較的、魔王との戦いの傷が浅く。王城もちゃんと残っている。王城の中で、この国の王であるフレイ・ユラシャ、王妃であるシャーロット・ユラシャが話し合っている。
「今後は魔族との共存を目指していこうと思っている」
「それがいいですわ。ーーーが見せてくれましたからね。人間と魔族はお互いに歩み寄って行けると思いますわ」
「では、その方向で話を進めていこう。ーーーにも話を聞きたいな」
「そうですわね……すみません、誰に話を聞くつもりでしたかしら?」
「聡明な君にしては人の名前を忘れるなんて珍しい。……すまない、誰だったか忘れてしまったようだ」
結果を見せるべき相手を忘れたが、ユラシャは魔族との共存を一番に進める事となる。本来見せたかった相手が結果を見る事はあるのだろうか。
風の大地、倭国。いつものように屋敷を抜け出したナハト・カゼハヤは一人旅に出る。目的は平和になったらとある約束を果たすためだ。
「さあ、平和な世の中になった。ナハトさんはーーーと再戦だ。次は絶対にナハトさんが勝つ」
だが、ナハトは途中で足を止める。誰と戦う為に移動しているのかがわからなくなったからだ。思い出そうとするが、思い出せないけど旅はする事にした。屋敷に帰りたくなかったからだ。
風の大地、秘境の更にその奥。久しぶりに愛する者が待つ家へと帰還した、勇者リュカ・ブレイブはゆっくりと椅子に腰かけた。
目の前には、元魔王が座っていた。
「どうだ、少しはゆっくりできそうか?」
「うん、ようやく落ち着いたってところかな。そうだ、僕したい事があったんだ」
リュカは外へと出て、魔王と共に小さな石碑を作り上げた。そこには、これまでの旅で一緒に戦ってきた仲間達の名前が刻まれていた。もちろん、アリマの名前も刻まれている。
「ほう、うぬ等の歴史の証明だな」
「ーーーはいらないって言ってたけど、ここなら誰も来ないしいいかなって思って」
途端に大事な物が抜け落ちた感覚。リュカは静かに石碑を見る。刻まれた名前に一つだけ読めない箇所が生まれている。リュカの頬には大粒の涙が流れた。
「勇者よ。何故泣く?」
「わからない、わからないけど悲しいんだ。なんでだろう?」
こうして、世界からアリマの記憶は消える。違和感を覚えていた者達も次第に違和感を忘れ去る。異世界イリステラは静かに、そして今日も平和に続いていく。
とある村に物書きが立ち寄った。火の大地の名もない村。彼女はこの村の村長に会いに来ていた。村長宅の扉を叩くと、ムラナガという名の歳老いた男が現れる。
「どなたかな?」
ムラナガは物書きの顔を見るが知り合いではない様子。だが、物書きの方は知っている。
「僕はしがない物書き。今日は渡したい物がここにやってきた」
彼女は本を書くのが趣味だった。物書きはムラナガに自分の書いた一冊の本を渡した。題名は『ガチャ廃人転生する』。この名前は、彼女の知り合いから直接つけてもらった。
「俺の本の名前? えっ、俺を題材に本を書くの? ついにとち狂ったか、元々頭がおかしい奴だとは思ってたけどな。題材が悪いよ、題材がさ。リュカとかで書いた方がいいんじゃね? えー、ガチャ廃人転生するとかでいいよー。ぱっと浮かんだ言葉そのまま言っただけだけど……」
物書きは知り合いの反応がムカついたので、そのまま題材にしてやった。ムラナガは訳が分からないと言った様子だ。
「その本は捨てて貰っても構わない。だが、出来れば、一度は目を通して欲しいと思う。では、僕はこれで」
有無を言わさずに物書きは村を後にする。その後、誰に言うでもなく物書きは呟いた。
「残念だけど、僕はこの世界の人間じゃないから適応外らしいよ。ふふっ、まあわかっていたけどね。それはそうと、僕は本が好きだ。こうやって、記録として残るからね。そうだろ? アリマ君」
物書きが残した本は、異世界イリステラで作り話として広がる。出来の良い、フィクションで、出来の良いおとぎ話。これがこの本の評価だ。




