救世主ここにありて
「無限転生だぁ? 脅しのつもりかもしれんが、俺には効かねえぞ。イリステラの力は、こっちとしても理解してんだ。そんな技はなかったはずだぞ」
「ないだろうな」
ちょっと前に俺が考えた技だし。それに、これは裏技みたいなもんだ。お前達には絶対に使えないし、この方法にたどり着く事はねえ。
「その様子じゃあ、なにかあるみてえだな。つっても、俺も死にたくはねえ。お前にはなんの恨みもねえが、完璧に滅殺してやるよ!! 滅殺陣!!」
明らかに入ってはいけない感じのエリアを形成してくる。名前からして死ぬんだろうなって事が予測出来る。それがじんわりと広がってくる。
俺はゆっくりと後ずさりしていく。
「無駄だ。最初から勝負はついてんだよ。なんで俺がここを指定したのか? この島が俺の力ですっぽりと覆いきれるからさ!!」
「なるほど、地の利が最初からそっちにあったわけか」
当然か。あれだけ待たせてたんだから、有利な場所を用意してくるのは当たり前と言える。むしろ、用意していないのは馬鹿だろう。これぐらいの不利がつくのはわかっていた。
「参考までに聞きたいんだが、俺がこのエリアに入るとどうなるんだ?」
「死ぬ。絶対に死ぬ。俺の力は『滅殺』だ。防ぐことは出来ず、再生する事も出来ずに必ず死ぬ。例外はねえ」
いつもの職業ガチャでは一回は防げても二回は無理。このエリアに入った時点で何度でも死ぬわけだしな。普通の方法では防げないだろう。普通の方法ではな。
「なるほど、随分と世界を管理するにしては物騒な力だな。どうやって使ってるか教えてくれよ」
ちなみにこの間もジリジリと広がっているので、俺はゆっくりと後ずさりしている。
「なあ、世界にはなにが必要だと思う?」
「さあ、考えた事もねえな」
「俺の答えは争いだ。俺はこの力で、間引き、そして争わせているんだ。争えば、争うだけ成長していく。他者よりも上に立ちたいのが生き物の答えなのさ」
「そうかもしれないが、俺はそんな世界には住みたくねえな。だって、お前が勝手に殺して争わせる世界だろう? 絶対に嫌だな」
「それはお前が俺が殺したと知っているからだろう。俺達、メイカーズの存在を知っているから出せる答えだ。俺の世界に住んでいる人々は、俺が管理している事知らない。多くの生き物はこう思うだろうな、自分に憎しみを持っている者の犯行だと」
そうやって争わせるわけか。確かに人の歴史は、本を読んだりしていると争ってばかりだ。それは異世界イリステラでもそうだった。
結局、なんだかんだで俺も戦ってばかりだったしな。俺の場合は魔族とだけど。ただ、仮に魔族がいなかったとしても人間同士の争いは消えなかったとも思う。
「勝手に起きる争いは仕方ねえと思う。そりゃ勝手どうぞって感じだしな。ただ、俺がムカつくなって思うのは、お前が参加してねえことだ。ジオラマで遊ぶお人形遊びは楽しいか? てめぇも下に降りて一緒に遊べや」
「まっ、世界の管理をする側の気持ちなんてわかんねえか」
「一生わからんでも問題ねえからなっと」
後ろを見るともう後がない。この島から落ちるか、諦めてこのエリアに入るかを選ぶしかないだろう。落ちたらどうなるか想像できん。なら、とれる選択肢はたった一つしかない。
俺は前へと踏み出す。当然、ルシファーの滅殺陣とやらに足を踏み入れる事になる。入った瞬間、心臓が止まる感覚。意識が暗闇へと引きずりこまれる。
これどっかで感じたなと思った。ああ、風の大地で魔王と戦った時。最後に倒れたがその時の感覚だ。なるほどな、あれはちゃんと死んでいたんだ。
そういや、オリヴィエに身代わり人形とかもらってたな。とか、完全に死ぬ最後最後までどうでもいい事を考えていた。
だが、意識がもう一度覚醒する。
「……何故、死なない?」
違和感を覚えたのは相手だろう。俺が一向に倒れないからだ。
「死なないは語弊があるだろ。お前が言ったじゃねえか、必ず殺す力だって。安心しろよ、ちゃんと俺は死んでるぜ」
「イリステラの転生の力か!? しかし、その力は別の存在に転生させる力だったはず。細かい話をするのなら、性質だけを上書きする力のはずだ」
すまんが相手の方が俺の力に詳しいだが。そりゃそうか、相手は創世の箱の力を使って生きているわけだしな。詳しいのも納得だ。
ただ、俺の方としてもイリステラの力は考察できた。それは、職業ガチャの力だ。職業ガチャも結局、転生先にちょっとの間だけ上書きする力だったからな。
「お前が解せない点はわかるぞ。それは、完全に死んだ者を別の物へと転生させる時だろう。死んだ魂を別の存在に転生させる時は子供からやり直すしかねえ。だから、俺が俺のままの存在で生きているのは不思議だ。そんな所だろう?」
「……そうだ」
女神イリステラが持つ『転生』の力は大まかに二種類ある。一つ目は俺がよく使っていた職業ガチャのように、少しの間だけ別の存在に転生する力。そして、二つ目は俺が最初に転生してきた時のように別の存在に完全に転生させる力だ。
俺は今、イリステラの力を持っているからわかる。一つ目はそこまで労力がかからない。二つ目の力を行使しようとするとどうしても人生のやり直しが必要となる。
俺も姿がかわって子供時代からやり直したしな。
ここで、さっき言っていた裏技だ。そう、この方法は俺みたいにイリステラの力を貰わなければ発見出来ない方法だった。
「なあ、たとえ話なんだが。宝くじで一億当たったとしよう。ルシファーは宝くじを全額寄付しようと思うか?」
「……その質問をする意味が理解できないが、答えを出すのならしないだろうな」
「そうだな。多少なら寄付する奴もいるかもしれない。だけど、一度手に入れた物を全て差し出す事はしないと答える者が多いだろうな。だけど、いたんだよなぁ。性格の悪い男に全部の力を渡した大馬鹿者がさ」
なあ、イリステラ。
俺みたいなよくわからない奴に、力を渡したらどうなるか考えた事があったのか? 悪い事にだって使ったかもしれない。あの時は渡すしかなかったにしても、それでも別の方法だってあったはずだ。
俺なんて見捨てるとかな。代わりはいくらでもいるはずだろ。
だが、お前は後は頼むと言って俺に全てを迷いなく渡した。だから、今回だけはそんなお前に免じて、今回だけは素直に感謝とお返しをしてやろう。
「なにが言いたい?」
「俺だって確信があったわけじゃない。そうなんじゃないかなと思っていたわけだが、確信に変わる出来事がついさっきあった。それは、お前が死んだら箱に戻るって話をした時だ」
最後まで通るかわからない作戦。それが、確実に通るに変わったのだ。
あの話を聞いて、俺は女神イリステラの力の出所が、創世の箱であると確信した。創世の箱から『転生』の力を生み出している確信したわけだ。
今の俺の状態は女神イリステラが持っていた『転生』の力を貰っている事になっている。だが、依然として創世の箱の持ち主は女神イリステラ。これは間違いない。
俺には世界をどうこうする力はないからな。世界を変えるような大きな力を使うには、本当の持ち主と創世の箱がセットじゃないと出来ない。ここはあくまで俺の推測。
ようは、俺は女神イリステラの力を使えるが、創世の箱にとっても、女神イリステラにとっても他人って事だ。ただ、女神イリステラが創世の箱から手に入れた力が使える異端者って事だな。
「どれだけガチャを回しても、女神イリステラの職業カードは出てこなかった。そりゃそうだ。力の主はあくまで女神イリステラ。だが、こんなカードが出て来た」
俺は一枚のカードを見せる。これは先程、俺が無限転生と言いひそかに使っていたカードだ。そこには、俺の姿が描かれていた。そう、あくまで俺の力じゃないから俺のカードが出てくるんだよなぁ。
「ま、まさか……」
「ようやく気付いたか。俺は俺に転生してんだ。だから、無限転生。そう、何度でも違う俺に転生しているってわけ。この方法を使って、無限に転生してるってわけ」
ちなみにこの挙動は創世の箱側も想定していなかったらしい。俺に転生して死ぬと、もう一度俺に転生するらしい。一枚のカードでお得だな。
多分だけど、魂が関連していると思われる。まあ、バグだろうがなんだろうが、使えるもんはなんでも使わせてもらう。それが俺のモットーだ。
とドヤ顔で披露したが、これでようやくスタート地点ってわけ。一発で死ぬ事は無くなったが、ここからは単純な力勝負となる。俺があいつを倒せないと意味がない。
だから、ここでさらにこいつを追加する。
「きっかけはエクレアだ。女神イリステラの力がほんの少しだけ残っている現象。女神イリステラの力だが、それとは別の力となる力。俺にも適用されると思ったんだ」
創世の箱の力を持つ者同士、力の出所が同じなら互角。後は相性とかの話になるだろう。だが、シンプルに超える方法がある。
「ようはさ、上乗せに上乗せしてやればいいって事だよ!!」
俺はもう一枚のカードを出した。
「ファイナルクラスチェンジ、救世主」
いつもの職業ガチャのように姿は変わらない。これはあくまで、俺の中にある女神イリステラの力を使って作り上げた俺だけの力。
この世界に転生して、唯一手に入れた俺だけの能力。




