これからの世界
魔王を倒して数週間が過ぎた。あの後、なんとか飛行船を直せた俺達は魔の大地から脱出。魔の大地は魔王の力で浮かんでいたらしく、海へと落下していった。
こうして、魔の大地は地図からも消える事になる。各大地は魔王が倒されたことで、倒した勇者パーティーを讃えていた。というか、帰って来てからどこもかしこも毎日お祭り騒ぎだ。
ようもまあ、数週間も飽きずに騒げるな。それだけ、絶望感が大きかったってことなのだろう。主役の勇者パーティーは当然のように忙しい。
各大地にその姿を見せるのも仕事だからな。俺も救世主として出ろって言われたが逃げて来た。そんな怠いのやってられるかよ。
なので、飛行船で急いで帰って以来。俺は一人寂しく、適当に過ごしていた。ただ、今日は行くべき所があるからそこには向かうつもりだ。
今俺は風の大地の秘境。そのさらに奥深くに来ている。ここには、ある人物に会いにきたからだ。ここにいると言われてきたわけだが、探すの一苦労である。
木をかき分けて探していると、ようやくその場所にたどり着いた。その人物は日のあたる机で、優雅に紅茶を楽しんでいた。
俺は勝手に席に腰かけた。
「なんでこんな山奥に住んでんだよ。人里と離れすぎて不便だろ」
「仕方あるまい。我は死んだとされておるのだ。人や魔族に姿が見られない場所にいなくてはならん。それが、配慮というものだろう」
『魔力』の王。魔王と呼ばれて、人間を滅ぼそうとした魔族の長。勇者に倒されたとされているが、実際にはこうやって生きている。
ただ、なんて言えばいいんだろうな。なにか付き物が落ちたかのように見える。
「随分と大人しくなったな」
「人に対する怒りや憎しみ。全て、勇者が削ぎ落してくれた」
「お前は一人で解決したみたいに言ってるけど、お前が起こした事件や痛みは消えないけどな」
今は祝いのムードでかき消されている。だが、いつか現実に戻った時に痛みを思い出すだろう。魔王に脅かされた恐怖や痛みは消えない。
魔王は目を細める。
「おぉ、痛い所を突いてくるのだな。しかし、それもまた事実。我は大量の人間を殺しておる。だが、どうすればいいのかがわからんのだ。救世主よ、ここからどうすればいいと思う?」
「俺に聞くんじゃなくて、愛しの勇者にでも聞けよ」
「聞いてもな。僕に任せてとしか言わんのだ」
「言いそう」
リュカは好きな人に甘いタイプのようだった。俺が言うしかないのかね。
「まあ、そうだな。これから、一生かけて人間に奉仕活動していればいいんじゃねえか。お前らって長命種だろ。それぐらい出来るよな?」
「それぐらいはしなくてはならんだろうな。だが、ふと思うのだ。いつかまた、我の中の憎しみが暴れる時が来るのかもしれん。そうした時、うぬのような者が果たして存在しているのか」
「安心しろよ。百年だか、千年だか時間が経って。お前がまた暴れるなら、俺が責任もって駆除してやるからよ。ここが、この世界がお前の牢獄だぞ」
「千年はうぬが死んでおるのではないか?」
「怨念とかで殺すから」
魔王は笑った。お前、笑ってるけど俺は本気で、怨念でお前を殺すつもりでいるからな。悪い事したら、すぐに殺処分してやるから覚えていろ。
俺は席を立った。
「もう帰るのか、勇者には会っていかんのか?」
「いつ帰ってくるかわからんような奴を待ってられるかよ。こんな森の奥はもうごめんだね。俺はお前が悪い事をする以外で、こんな所にはもう来ません。来てほしかったら、もう少し道を整備しろ。それじゃあさようなら、お元気で」
「達者でな」
そして、この短い会話と様子見の為にやってきただけだからな。帰り道は地獄だ。だって、同じ道を長い時間かけて戻らくちゃいけないんだよ。あー、だるいわ。魔物とかも普通に住みついちゃってるし。
野生動物とほとんど変わらない扱いになっちまったんだよなぁ。
「おや、奇遇だね」
「こんな場所で奇遇だねはないだろ。ここは人っ子一人通らねえぞ」
目の前にはネストが立っていた。偶然こんな場所で会うわけねえだろ。お前の家がこの近くにあるのなら、話は変わってくるけどな。
「僕はここの近くに住んでいてね」
「平然と嘘をつくな。それで、なんのようだよ? 魔王との戦いは終わったぞ。急にまたいなくなりやがって」
「僕の話を聞いていなかったのかな。魔王のどうのは、最初から僕にはどうでもいい話なんだよ。忘れてないかい? アリマ君には、『滅殺』の超越神との最終決戦があるだろう。そのお誘いに来たんだ。結構待たせちゃってるから、向こうはお怒りだよ」
いや、忘れていなかったって。そいつを倒すがのが俺の最後って、決めてるぐらいには忘れていなかったよ。むしろ、そいつの事ばかり考えていたさ。
勝てるかどうかはわからないし、別の世界に行くって話だ。異世界イリステラに帰ってこれるかは未知数。だからこそ、ちょっとだけ待って欲しいんだよな。
「いやぁ、一日ぐらい待って欲しい。俺も最後にしたい事があんのよ。いいだろ、最終決戦前にやり残した事がないようにしたいじゃん」
「そうだね。こんなに待たせてるんだし、数日増えた所で変わらないか。じゃあ、何をするのかは知らないけど、また迎えに来させてもらうとするよ」
ネストは消えた。さて、この世界で残されたのは一日か。




