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試してみるか?

 俺は静かになった瞬間を見計らって、リュカに話しかけた。


「リュカ、もうすぐ魔王との戦いだ。一度目ははっきり言って俺達の負けだったよな」


「……認めるよ。間違いなく僕は手も足も出なかった」


 最後に一矢報いてはいた。しかし、俺もリュカもほぼ負けていたとみてもいい。じゃあ、今はどうだろうか。本当に前よりも強くなったのだろうか。


 俺は女神イリステラの力をいらねえけど手に入れた。リュカはどうだ。はっきり言ってしまえば、ほとんど寝ていただけ。あの時と変わったのは聖剣が新しくなったぐらいだ。


 リュカは魔王を倒せるのだろうか? 俺はそれが知りたかった。


「なら、試してみるか?」


「試す? アリマはどうするつもりなの」


「いつまでも、俺におんぶに抱っこじゃ困るんだよな」


「ふふっ、そうだね。僕はいつもアリマにおんぶに抱っこだった。だけど、今回は違う。最後ぐらいは自分だけで勝ってみせるよ」


「なら、見せてくれよ」


 イリステラから受け継いだこの力。明らかにこの世界にはオーバースペックな力だ。それは使う事によってわかっちまった。


 今の俺は女神の代行だ。なら、今の俺が全部やって全部解決。それは駄目だ。きっと、これからもこんな事があるのかもしれない。そうなったら、女神イリステラがいなくとも解決しなくちゃならない日がいつか来る。


 その時、一番に頼られるのは勇者の存在だ。リュカと勇者パーティーがしっかりしていれば、対処は可能だろう。そして、その続きを誰かに託すことが出来たなら完璧だ。


 そういや、俺の役割を最初にイリステラに会った時に言われたっけな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 最初から俺に倒せとは言わなかったんだよな。あのポンコツそうな女神は、一体どこまで見えていたのだろうか。俺は用意していた一枚のカードを取り出した。


 時間はだいぶかかったが、この職業はガチャにちゃんと入ってるって思ったんだ。だから、暇な時間を使ってずっとまわしていた。


「ハイクラスチェンジ、勇者!!」


「そ、その姿は……」


 自分の姿見えない。だが、どうな装備をしているかはおおよそ理解できる。きっと、魔王と戦う前のリュカと瓜二つなんじゃないかな。


 俺は背中から聖剣を抜いた。もちろん壊れる前の聖剣だ。刀身が光に包まれる。お前も嬉しいのか、もう一度本物の勇者に会えて。


「ちょっと前の僕だよね」


「そうだ。魔王と戦う前のお前の姿で、そして魔王と戦う前のお前の力を俺は持っている。後はどうすりゃいいかわかるよな?」


「昔の自分を超えろって事だよね」


 リュカは今の聖剣を抜いた。禍々しい限りだ。装備としては俺の方が弱いだろう。女神の力は一切使ってないから、身体能力も俺の方が下で間違いない。


 常に鍛えていたリュカと俺じゃ比べるのもおこがましい。まあ、細かい事はなんでもいいや。ようは、どっちが強いか勝負しようぜって事だよ。


 俺とリュカの聖剣がつば競り合う。やはり、押し合ってわかる。力は俺の方が弱い。ちょっとずつ押されていくのがわかる。


「今日はアリマに勝ってもいい日かな?」


「いつだって、お前の方が能力は上だったけどな」


「でも、いつも負けていたでしょ!!」


 気持ちが入って来たな。力で押しのけようとしてくる。


 打ち合ってわかった。面倒なのはこの新しい聖剣。呼び方は魔剣でいいか。見た目がそれっぽいし。俺の魔力を吸っている。本当にわずかだがな。


「アリマの方がいつも要領がよかった。適当でも、だるそうにしていても、遊んでいても、最後は物事を上手く進めているのは君だ。僕は君が敷いてくれたレールにいるだけだった」


「えっ、なに、そんな風に思っていたの?」


「思っていたよ。勇者だって、アリマに言われて始めた事だ」


 その件関しては、俺はあらかじめ女神イリステラに言われていただけだ。俺がお前を勇者に選んだわけでも何でもない。


 そもそも、お前を初めて見た時。俺はこんななよなよした奴と思っていた。


「ふーん、まあなんでもいいけどさ。それじゃあ、俺が次に取る行動がわかるか?」


 俺は力を抜いた。つば競り合いは当然俺の負け。だが、急に力を抜くと思わなかったのだろう。俺は持っていた聖剣を捨てたのだ。すると、リュカの重心はほんの少し崩れる。リュカの持った魔剣は綺麗に空を斬った。


 脱力。俺の中で職業使ってきた経験。レンとの戦いの経験。ちゃんと経験として残っている。今の俺は余裕があるから、こういう戦法も取れるってわけ。


 俺は拳を腹にぶち込んで、ついでに蹴りを入れた。リュカの体は遠くへと吹き飛ぶ。俺は落とした聖剣を適当に拾い、そして担いだ。


「げほっ、げほっ、くぅ……聖剣を捨てちゃうなんて」


「お前はなにか勘違いをしているようだな。お前の力を使っているのは俺だ。力は使い手によって形を変える。同じ力でも全く違う姿になる事があるかもしれない」


「そうだったよね。僕が戦っているのは僕でもあるけど、アリマでもあるんだよね」


 リュカは立ち上がった。なんだか嬉しそうだなリュカ。俺も嬉しいぜ。


「なら、僕にしかできない方法で戦えばいい」


 リュカは魔剣を空へと掲げる。いつか王都で見た光の柱。あの時はまじかでは見れなかったけど。なるほど、受けたら流石に一発解除だな。


 いきなりの奥義ぶっぱ。


 考えたな、確かにそれは出来んな。いや、形だけなら真似できるだろう。だが、押し負けるのは間違いない。使った事がない技だ。どうしても俺の方が不利になる。


 結局、俺が勝つにはインファイトに持ち込んで読みあいにするしかない。いつもそうやってきたし、これからもそうやっていくつもりだ。


 騙し騙し戦うのが俺のやり方なんだよ。あえて、リュカに走って近づく。


「ディバインスラッシュ!!」


 リュカが振り下ろした。そういう名前がついていたのかというのはさておき。ほんの少しだけかすったが、なんと避けることに成功。


 あいつ、俺が横に跳ぶギリギリまで見ていやがった。俺がまともに受けないのは流石にばれているか。お互いに剣の届く距離。


 剣を振り合う。リュカはつばぜり合いに持っていくつもりはないようで、今度は弾くように魔剣を振るう。


「つばぜり合いはしてくれないのか?」


「嫌だよ、また蹴るでしょ。読み合いでは僕は勝てないからね。正攻法に剣を振り合った方が断然いい」


 間違いなく正解。俺は剣をそこまで振った経験がない。たいしてリュカは馬鹿みたい振っている。間違いなくミスをして負けるのは俺だ。


「じゃあ、どうすかって話だよなぁ!!」


 俺は聖剣を投げた。リュカは読んでいたようで、魔剣で聖剣を弾いた。だが、俺はこの間に距離を詰める事に成功した。


 それさえもわかっていたのだろう。リュカは迷いなく魔剣を振り下ろした。幾度となく練習をすることで生み出された剣の流れ。いやぁ、綺麗だなぁ。


 綺麗すぎるんだよな。


 俺は振り下ろしきる前のリュカの手を掴んだ。流石に両手だからか、俺の方が力が強い。そのまま、腕を捻るように力を入れる。骨を折るつもりで力を入れた。


「そうくるなら……!!」


 リュカは魔剣を手放した。それと同時に体ごと回転させて、俺の力の流れに身を任せるように動いた。なるほど、そうやって避けますか。


 俺はせっかく落としてもらった魔剣を拾った。リュカは俺投げつけた聖剣を拾った。お互いに担ぎ合う。


「どうだ、俺の方がこの魔剣にふさわしくね?」


「そうかもしれないね。アリマのイメージにぴったりかも」


「やっぱ、お前には聖剣がお似合いだよ。よく似合っている」


「それは僕が、新しい剣を上手く使えていないって言いたいの?」


「いやぁ、そういう訳じゃないんだがな……」


「隙あり」


 勇者さん、話の途中で距離を詰めてくる。汚いとは言わない。いつも俺がやっている手だし。攻めの手を緩めるつもりは一切ないようだ。


 俺は手に光を作った。あんなに大きな光は生み出せないが、これぐらいなら俺にもできそうだ。詰めて来たリュカに光を浴びせた。


 ダメージはない。ただ、目の近くで光らせた。これで、リュカはちょっとの間だけ目が見えないだろう。勇者の力を使って猫騙しである。


 そのまま俺は魔剣を振り下ろした。目が見えないリュカはこの攻撃を回避する事は不可能なはず。


「勝った!!」


 だが、俺が振り下ろした魔剣はまるで目が見えているかのようにリュカが避けた。その魔剣をリュカは足で踏みつけた。俺はとっさに魔剣を離してしまった。


「こうするしかなかった。アリマが油断してくれる為には、僕も賭けに出るしかなかったんだ。気配だけで避けた。そして、賭けは僕の勝ちだ!!」


 リュカは聖剣を振る。俺が剣に思い入れがないのが裏目に出てしまった。今さら俺の身体能力じゃ、避けるのは無理。なら、これはライフで受ける。


「ぐっ……」


 体に力を入れて耐える。なんとか職業は解除されていない。こっから、もう一度魔剣を拾って。俺は手を伸ばす。だが、魔剣はもう既にその場にはなかった。


 俺の目には、斬ったと同時に捨てられる聖剣の姿。そのまま、左手で魔剣を拾い、今にも斬りつけようとしているリュカの姿が目に映った。


 なるほど、そこまで考えてましたか。


「こりゃ、駄目だな」


 受けるしかないと悟った俺は仕方がないので受けた。痛いのは嫌いだが、俺は敗者だから受け入れるしかないだろう。痛みと同時に職業が解除された。


 仰向けの俺。それを覗き込んでくるリュカ。俺は笑顔を作った。


「俺の負けだな」


「ようやく、一回勝てたよ」


 リュカが手を伸ばしてきたので、俺は快く手を握った。起き上がった俺を見て、リュカが笑う。俺もそれを見て笑った。不思議と喜びの方が強かった気がする。


 これなら、大丈夫そうだな。素直にそう思ったからだろう。

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