魔の大地に向かう途中①
とりあえず、優雅な空の旅を楽しめそうだ。なので、まずはエクレアがいる部屋へと向かった。エクレアがいる部屋は一番下の部屋だ。
部屋の扉を開けると、むわっとした熱気が俺の顔に飛び込んできた。とにかく暑い。今すぐにでも扉を閉じたい気持ちなった。だが、我慢して部屋の中に入る。
なにがここまで熱気を放っているのか。目で探すと正体がすぐにわかった。風の大地の遺跡で見つかった遺物が、熱気を放っているのだ。最適化とかされてないだろうからな。
遺物の前には燃料扱いのエクレアがぐったりした様子で座っていた。もう顔から暑いというのがすぐにわかる。
「エ、エクレア、大丈夫か?」
「大丈夫に見えますか? もうー、暑くて倒れちゃいそうですよー。なんか、ふわふわしてきましたー」
熱中症なのではないだろうか。これは不味いな。すぐに水分を取ってきた方がいいだろう。エクレアは可哀想だが、ここにずっといなくてならない。それぐらいはしてやってもいいだろう。
かわってやろうという言葉は出てこない。だって、クソほど暑いし。
「待ってろ。なにか飲み物を取ってくる」
物資の中にある水をとってこようと思い、物資を積んでいた部屋へと近づいた。そこにはグランがいた。どうやら、物資の番? をしているようだ。その行為に意味があるのかは知らないが見張っている様子。
「よう、救世主。物資の事ならオレに任せてくれよな!!」
俺の方に気づくと気さくに挨拶してきた。なんか、ゲームで出てくる店のおっさんみたいな反応だ。いや、ゲームでこんな鰐顔のおっさんが出てきたら怖いけどな。
「じゃあ、水を一つ貰おうか」
「おうよ!! 水な、水、水、えっと水はどこに置いたんだ?」
「お前が運びこんでいただろ、まさかこの短時間で忘れたんじゃないだろうな」
「そんなわけねえだろ。オレの事を誰だと思っていやがる!!」
馬鹿という一言を言ってやりたかったが、なんとか堪える事が出来た。なんでこいつが物の管理をしているんだ。
少し待っていると、グランが水袋を持ってきて俺に手渡してきた。
「ガハハ、いやー適当に物を積み過ぎちまったな。それで暇だから俺と一戦やらねえか?」
「エクレアとやれ、エクレアと。それに俺は水を持っていくので忙しいんだよ」
「聖女は下の階から動けねえから暇なんだよ。見てくれよ、この馬鹿でかい斧を研ぐぐらいしかする事がねえのよ。それに、本番が始まる前に体が鈍っていたら困るだろう? なっ、なっ、頼むぜ!!」
いや、絶対に戦わないから。お前それで船を壊して墜落とかシャレにならねえからな。馬鹿すぎて未来の歴史書にものるぞ。移動中に暴れて勇者一向死亡ってな。
「リュカとやれよ。上の方で、暇そうに海を見ていたぞ」
「あー、リュカはな。ちょっと容赦がないから。オレなんかよりも見境が無くなっちまうからちょっとな」
「へー、そういう感じなんだ」
意外な一面。ただ、修業でも練習でも、リュカは手を抜く事はしないだろう。船を壊すのに気づかず集中してしまうといった所だろうか。
「そういえば、救世主はオーランと戦ったみてえだな」
「ああ、戦ったぞ」
『狂乱』のオーラン。魔王軍の四魔卿の一人で土の大地を襲っていた。グランに負けないぐらいの超がつくほどの戦闘狂だったな。
そう言えば、オーランもグランの話をしていたような気がする。
「仲がいいと言っていたな」
「そうだ。オレとオーランは気が合ってな。いつも力比べをしていたもんよ。まあ、俺の方がいつも勝っていたがな」
「本当の話をしろ」
「本当だって!! いつもオレが勝っていたんだって、嘘ついてねえから!!」
オーランの強さはきちんと感じた。間違えなく五本の指に数えられるほどの強敵だっただろう。グランが勝っている姿が浮かばないんだが。
「おいおい、俺だってそこそこやるもんだぜ。なんなら、今見せてやろうか?」
「そうやって、戦いに持っていこうとするな。わかったよ、お前の方が強かったって事でいいよ」
グランはまだ不服そうな感じである。
「それで、オーランの最後はどうだった?」
「最後ねえ。まあ、楽しそうに死んでいったよ」
「そうかい。あいつらしく死ねたようでよかったぜ」
しんみりした感じになってしまった。結構時間が経ってしまった。そろそろ俺もエクレアの所に戻るとするか。
「なぁ、俺と戦おうぜ」
「くどい!! 何度言われても絶対に戦わねえぞ」
俺の肩に手を置いて、いい顔して言ってもやらんものはやらんから。
「んっ、あっ、そうだ。戦ってくれそうなやつ連れてきてやるよ」
「ほうっ、俺の練習相手を務められる人間がそうそういるとは思わないがな」
「誰目線なんだよ……」
俺が部屋を出て、その人物を探すと甲板の方で声がした。行ってみると、リュカとお目当ての人物が会話をしていた。そう、お目当ての人物はナハトだ。
どうやら、アリシアの介護から解放された様子。
「ねえねえ、勇者さん。ナハトさんと戦ってよー。ねえー、一生のお願いだよう。強い奴と戦うのがナハトさんの楽しみなんだよ」
「これから大きな戦いがあるからまた今度ね。世界が平和になったら戦ってあげるよ」
「えー、今がいいよ。ほらっ、合戦前は体を動かしておいた方がいいよ。ナハトさんはそう思うけどなー」
ナハトがリュカに絡んでいた。まるで、酔っぱらいのおっさんのように絡んでいる。それを、リュカが軽くあしらっていた。
いたいた、こいつだよこいつ。たくっ、リュカにまで迷惑かけてんじゃねえよ。ナハトは相変わらずお転婆なようだ。
「よう、ナハト。元気いっぱいだな。リュカに迷惑かけてんじゃねえぞ」
「あっ、おにーさん。うーん、この際だからおにーさんでもいいよ。どう、ナハトさんと一緒に戦わない?」
「そんなお前にピッタリの相手がいるぞ。ついてこい」
「戦ってくれる相手がいるの。いくいく!!」
子供のように目を輝かせていた。いや、ナハトは歳を考えれば子供なんだがな。子供でこの戦闘力を持っているのが恐ろしい。
リュカは俺に助かったよと目で教えてくれた。俺も目で、次からはきつく断るんだぞって言っておいた。




