たった一つの冴えた結論
その答えを受け入れられないルドウィン。
「黙れ、なにか、なにか方法があるはずだ」
「では、どうぞあがいてください」
その後、俺達の目の前でルドウィンがなんとかこのループから抜け出そうとする。しかし、何百回と繰り返し続けるループ。
答えを知っていても、答えを認めるわけにはいかないルドウィンは必死にあがいている。その間もヴァイオレットは笑うだけ。まるで、楽しんでいるようにさえ見える。
精神と体力は疲弊していく。ルドウィンは最初に見た姿よりもやつれているようにさえ見えた。何度も何度も永遠に同じ時間を繰り返す。
行動すればするほどに、違う回答は見つからないという絶望感だけが増えていく事だろう。俺だったら、途中であきらめるかもな。見ているだけだから気楽なもんだけどさ。
ちなみに、俺は暇だったのでネストとお喋りしている。ずっと同じ光景を見せられていると、俺の方もおかしくなりそうだからな。
その内、ルドウィンはようやく気付いたのだろう。このループを抜け出す『|たった一つの冴えた結論』に。
「ようやく終わりそうだね。僕は君と話すことが無くなりそうで困っていたんだ」
「そうだな」
彼は自身が持っていた魔力を破壊する短剣を喉に突き立てた。そのまま、動かなくなるルドウィン。そうだな、それが正しい。たった一つの冴えた結論だな。
だが、光景は元に戻る。これには俺とネストも驚いた。そして、ようやく終わりを迎えたルドウィンさえもだ。楽しんでいるのはヴァイオレットだけ。
「ああ、言葉が足りませんでしたね。私が貴方を殺したら終わりですよ。いやー、すいません。私ったら、人と話をするのが得意じゃないんです」
性格の悪さが極まっていた。ここまで、性格が悪いと嫁の貰い手がいなさそうだ。誰がこいつと結婚するだよ。結婚記念日も|たった一つの冴えた結論されそう。永遠にヴァイオレットの求める結婚記念日が訪れまでループしそうだ。
「性格が悪すぎるね。そこまでする必要はないんじゃないかい」
「やべーな。敵が可哀想になってきた」
「外野は黙っていてください。私は完全な勝利が欲しいだけなんですから」
言葉を聞いたルドウィンは恐怖で顔が歪んでいる。
さてさて、こうなってしまってはルドウィンが出来る行動は限られてくる。ゆっくりとヴァイオレットの前に近づいて、短剣を差し出した。
「こ、殺してください……」
「えーー、そんなーー、私に人を殺せというのですか?」
わざとらしくそう言った。ルドウィンの差し出した短剣を手に取る。
「普段ならもっと意地悪するんですけど、今回はそろそろ許してあげましょう。何故なら」
ヴァイオレットは無邪気な笑顔を見せた。それは、本当に心の底からの笑顔だろう。最早、ルドウィンにとっては恐怖の対象以外のなにものでもない。俺がルドウィンならそう思うね。
「貴方のおかげで、私は一つ上に進めました。ありがとうございます」
笑顔のまま突き刺した。刺されたルドウィンは笑顔のまま倒れる。彼の顔から察するに、ようやく終わる事が出来たって所か。
ルドウィンが死に。役目を終えた大きな時計は大きな音ともに崩れる。
「ふぅ、冷や冷やしました」
「そうなのか? てっきり、余裕そうだと思ったんだけどな」
「いえ、最初にも言った通り不完全なんです。実は、ループを抜ける方法がありまして。それに気づかれたくなかったのです」
「へえ、どんな方法なんだ。気になるな」
「実は時計は壊せるんですよ。壊したら、ループが終わります」
ああ、気づかんよな。そんな簡単な方法で助かる事が出来るなんてさ。灯台下暗し、答えっていうのは意外と一番近くにあるもんなんだな。あの、極限状況じゃ思いつくのは不可能だろうけどな。
ヴァイオレットはふらふらとした足取り立ち上がろうとする。しょうがないので手を貸してやった。倒れられても困るしな。
「リーンには数多くの魔族が攻め込んできています。さっさと行かなくてはいけません」
「無理はしない方がいいぞ。まあ、お前も頑張っていた事だし。俺が代わりにやってやってもいいぜ」
下の魔族なんざ。今の俺なら相手にもならねえだろうさ。
「いえ、結構です。貴方にこれ以上貸しを作りたくありません。それに、私は大賢者になるのです。とりあえず、人を私なりのやり方で助けたいと思います」
「なんだ。大賢者になる気になったのか?」
「ふふっ、新たな魔術の形が見えた事で私も少し変われたのかもしれませんね」
「性格は最悪だったけどな」
「黙れ類人猿」
いや、誰がどう見てもお前の性格は終わっている。だが、そこまで悲観しなくてもいいぞ。今この空間にいる人間は大体性格がどうかしてるからな。
「その必要はないようだ。下もどうやら戦いが終わったみたいだよ」
なんか静かだなと思っていたネスト。どうやら、下の様子を確認していたようだ。ネストが俺達に下の様子を見せてくれた。
そこにはリュカ、アリシア、エクレアが魔族達を蹴散らした様子が映し出さされていた。リュカは完全に復活している様子だ。
ただ、リュカの持っている聖剣がちょっとね。その、なんて言えばいいかな。禍々しいんだよな。聖剣というよりかは魔剣って感じがするんだよ。
暗黒のオーラまとってるもん。でも、それ以外は元気そうな様子だ。勇者完全復活って所か。
「んじゃ、これで四魔卿も倒した事だし。後は魔王の所に向かって進むだけだな」
「そうだね。それじゃあ、僕が地上まで移動させてあげよう」
「待ってください。少しだけ話をしてもいいですか?」
地上に移動しようとする俺をヴァイオレットが止める。
「どうした?」
「残りの魔王との最終決戦。出来るだけ戦力を集めますよね?」
「まあ、どうなるかまだ考えてねえが。連れて行けるだけ連れて行くつもりだ」
そもそも、魔王がどこにいるのかとか知らない。場所を知っても、どうやってそこまで行くのかもわからないからな。ただ、出せる戦力は当然出すつもりではいる。
「当然、魔術師最強の私は連れて行くつもりですよね」
「さも当然みたいな言い方がムカつくけど、来てくれると助かるな。だが、その言い方だと来てくれないって事だろう?」
「そうですね。ちょっと、水の大地の面倒事を片付けたいと思っていますので」
「面倒事ね。そいつは、残り一人の賢者の話だっけな」
魔王と戦った後、ヴァイオレットと別れる時に言っていた最後の賢者の話だな。
「ええ、そいつは現状は魔族の迎撃をしてくれています。しかし、魔族が水の大地から退けば絶対に大賢者の座を狙ってくると考えています。私はそれを阻止したいのです」
「まっ、いいんじゃね。お前がしたい事をすればいいさ。でも、それだけじゃねえだろ」
「もちろん。次に会う時は私が大賢者ヴァイオレット・クロノスになってますよ」
「そいつは是非見てみたもんだな。んじゃ、俺も頑張って魔王を倒すとしますかね」
俺はネストが作った空間の裂け目に入って行く。
「さようなら、アリマ」
なんだよ、名前ちゃんと覚えてんじゃねえか。ヴァイオレットが、俺の名前を類人猿と覚えていなかった新事実を知りつつ、俺は進む。
なんだかんだで、終わりが見えて来たな。待ってろよ、魔王!!




