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フェーズ2

 発動したとヴァイオレットは言っている。俺の感覚としては、なんか変わった事でもあったのか? って感じなんだが。確かに最初は凄い魔力を感じた。だが、発動が終わると感じなくなった。


「それで、僕は魔力という物を感じる事さえできないんだ。アリマ君としてはどうなんだい。なんか、凄い感じがするのかい?」


「さあ、俺としてもよーわからん。けど、変な時計が出現してるから。なにかは起きたんじゃねえか」


 あの、ヴァイオレットの後ろに出現した時計も何の意味があるかわからねえ。今は静かに、ヴァイオレットの後ろ稼働している。


 一応、ルドウィンの方を見ると彼もわかっていない様子。つまり、この状況をちゃんと理解しているのはヴァイオレットのみとなる。なので、必然的に俺達全員の視線は彼女に集まるわけだが。


 肝心の彼女は、やけに疲弊していた。どうやら、発動するだけでも大変だった様子。肩で息をしているのが俺の方からでもわかる。


「お前、その状態で動けるのか?」


「う、動けますけど、手の指先ぐらいなら……」


「人はそれを動かないって言うんだぞ。おいおい、そんなので大丈夫かよ」


「いえ、これだけは断言できます。不格好でも発動しました。そして、その不格好な状態が今はいい味を出しているんです。黙って見ていてください」


 ああ、若干ハイになっているな。もう、どうにでもなれって感じの顔をしている。まあ、様子を見てやるとしよう。駄目なら、俺がなんとかすればいい。


「その大きな物体で何をするかわかりませんが。時止めに対抗できるかどうかの話でしょう?」


「なら、試してみればいいんじゃないでしょうか。もう、そんな話の次元はとうに超えていますよ」


 やけに自信満々のヴァイオレット。挑発するような姿勢さえ見せてくる。


「なら、お望みどおりにしてやろう」


 時が止まった。そして、今度はヴァイオレットも完全に停止した。いや、駄目じゃね? さっきまでは微かに抵抗で来ていたのに、今は完全に停止してしまっている。


 さっきよりも悪くなっている気がするのは気のせいだろうか。こっから、どうにか反撃することが出来るって事でいいんですよね。水の大地の賢者様。


 ルドウィンがさっき俺に突き立ててきた短剣を持っているけど、絶対に大丈夫なんだよな。あれは刺さると即死するんだけど、このまま俺は何もしなくていいんだよね。信じていいよな、俺は動かないからな。


 俺はただ見ていると、ルドウィンの魔力を破壊する短剣はヴァイオレットに刺さった。血は出ない、時が止まっているから。だが、それは深々と刺さっているように見える。こっから入れる保険があるのかは知らないが、ヴァイオレットのあれ程の自信だ。


 きっと大丈夫だろ。


「よし、刺さった。これで、終わりだ!!」


 ルドウィンは確認をする。それから、時止めを解除した。さあ、どうなるかって話なんだが。時が動き出したヴァイオレットは血を吐き出してそのまま倒れた。


 おかしいな。目の錯覚かもしれない。目をこする。ヴァイオレットは生気の抜けた顔で倒れいている。


「僕の目には急に血を吐いて倒れたようにしか見えないんだけど、あれも策略の内ってやつでいいのかい?」


「……ヴァイオレットの魔力を感じなくなった。完全に命が尽きている」


 つまり、死んだって事だ。エクレアは言っていたよな。死んだ人間は元には戻らないって。いや、あんなけ自信満々だったのにこれで終わりってことか? あれは、ハッタリだったって事か。


「どうやら、魔術の神髄とやらは発動せずだったようですね!!」


 勝ち誇った様子のルドウィン。その時、音が鳴った。ゴーンという鈍い音だ。俺達はどこからその音が鳴っているのか目で探す。


 その音の発信源はすぐに見つかった。音はヴァイオレットが生み出した大きな時計からのようだ。大きな時計は主人が死んでいても動いている様子。


 魔力供給が無くなるのに動いている事自体がおかしい。次の瞬間。目の前の景色が変わる。どう変わったのか説明は難しいが、空間がねじれて眩しい光を放つ。一瞬、目をつぶってしまった。


 目を開ける。すると、そこには驚きの光景が広がっていた。


「えっ、なっ……!?」


 ルドウィンも驚いている。そこには、先程まで確かに死んでいたはずの賢者ヴァイオレットが立っていた。憎たらしい笑みを浮かべて、ルドウィンを見ている。


 俺は彼女の体を観察する。刺されていた場所はまるでなかった事になっていた。服が元に戻っているからそれは確かだろう。


「いい夢は見れましたか? 私を殺せる夢なんて、そうそう見れる物じゃないですよ」


 いや、夢と言っているがそんなちゃちな話じゃない。大きな時計を見る。針はヴァイオレットが魔術を発動した時間に戻っている。


 俺は一つの仮説にたどり着いた。間違いない、時が戻っているんだ。だから、刺されたり、死んだりしたヴァイオレットはなかった事になったわけ。


 これは、魔術と呼んでいい物なのだろうか。ヴァイオレットがフェーズ二と言った理由もわかるかもしれん。確かに、今までの魔術とは別物だ。次元が違うと言ってもいい。


「僕はこの世界の魔術を知っているつもりだ。それは、世界が再生した時に見ていたからだ。こんな物は僕は存じあげていないね。見た事がない領域に行ってしまったようだよ」


 ネストは一度滅んでいるこの世界を知っている。だから、あり大抵のこの世界の出来事を先読みする事が出来た。だが、そんな彼女でもこの魔術は知らないようだ。


 ヴァイオレットは誰も知らない領域まで進んでしまったみたい。


「ネストの知らない未来か。いいんじゃねえか、お前が知っている未来だと、魔王に勝つのは到底難しかったんだろう? 一つぐらいは、知らない未来があってもいいじゃねえか」


「そうだね。やっぱり、いなかった人物を絡ませると未来は変わるものなんだね。勉強になったよ」


 俺とネストは座ってゆっくりと観戦する事にした。この後、このフェーズ二の魔術でどうなるのかを見る為だ。きっと、ヴァイオレットが説明してくれるだろう。


「ふふっ、誰もわからないようなので教えてあげましょう。私の講義の料金は高いんですよ? なんせ、魔術師ならお金を払ってでも私の話を聞きたいのですから」


「ど、どうなっている。確かにお前を殺したはずだ」


「そう、焦らないで。簡単な理屈ですよ。この魔術の名前は『|たった一つの冴えた結論ラグナロックレクイエム』。名前に答えが現れています」


「い、意味がわからん。どういう事だ。説明しろ!!」


「せっかちな人は嫌いです。簡単に言ってしまえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 いや、その説明では誰もわからないだろう。どうやら、よっぽど自分の話が邪魔されたのが嫌だった様子。らしいと言えばらしい。


「もう、これ以上説明するつもりはありません。後はご自分で試してみてはいかがですか? 魔術の解明をするのも、魔術師戦の面白い所ですよね」


 意地悪な笑みを浮かべ続けている。


 それから、ルドウィンは俺達の前で様々な事を試した。簡単に言えば、様々な方法でヴァイオレットを殺していた。首を絞めたり、刺したり、体を二つに分けたりしてな。


 だが、数秒立つと何事もなかったかのようになってしまう。立っているのヴァイオレットは意地の悪い笑みを浮かべているだけだ。それが、腹立たしさに繋がるのだろう。


 俺は第三者視点で見ていたからわかったのだが。どうやら、あの大きな時計がリスポーン地点みたいな役割をしているようだ。


 ヴァイオレットの望まぬ結論にたどり着くと戻る。みたいな感じなんじゃないかな。じゃあ、望む結論とは一体なんなのかって話になるんだが。


 そこまでは俺にもわからない。だが、もし、何でも設定できるなら。俺だったら、とある条件を選ぶがな。ヴァイオレットがその条件にしているかは知らない。そもそも、その条件を設定できるのかもわからないからな。


「さて、そろそろ貴方も仕組みはわかってきたでしょう。では、ここで優しいヴァイオレットちゃんが設定した結末を教えてあげましょう」


 ゆっくりとルドウィンを指差した。


「それは貴方の死です。お疲れさまでした。貴方が死ぬまでこのループは続きます。断言してもいいですよ、抜け出す方法はありません。だから言ったのです。発動したら私の勝ちだと」


 だよな、俺だってそう設定する。俺が思いつく事をヴァイオレットがやらないはずがない。つまり、あの大きな時計を出した時点でヴァイオレットは勝っていたわけだ。

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