時止めは便利でいいなあ
時が止まった。なんで、時が止まった事を理解できているのか。俺以外の時が止まったからな。なるほどな、時が止まるのってこういう感じなんだな。
初めて感触に感心。どうやら、やったのはルドウィンらしい。プライドが高かったのか、俺の代わりにいつでも倒せる発言が気に入らなかったのだろう。
俺の方へと近づいてくる。ちなみに、俺は止まっているフリをしているぞ。なんか、面白そうだったし。ある程度の距離まで近づいた所で、目だけ動かしてみた。
「ば、馬鹿な!? この、時を止めた空間で動けるなんて……」
「……」
俺は目だけ動かし続ける。どうやら、きちんとネストには効いているようで動かないな。この状態でイタズラしたらばれなさそう。
ヴァイオレットの方は、なんとか抗っている様子だ。流石は時の魔術を使う賢者。ただ、そこから動くのは辛そうだ。止められないので、精一杯って所だな。
「しかし、動かせるのは目だけのようだな。やはり、賢者も止める我が力の前では救世主も無力」
「いや、別に全身動けるぞ」
「馬鹿な!?」
思った通り勘違いしてくれた。もうね、余裕で動けますよ。ルドウィンの時を止める魔術を食らって理解したんだが、これも魔力を使って止めている。
魔力を使って干渉してきている以上。俺以上の魔力を持っていないと止められないぞ。結果、俺は止められなかったわけだ。ひえー、止められていたら怖かったなあ。
なんてな。止められていたとしても負けはしなったと思う。ただ、その後が面倒になるだけだ。
俺は横目でヴァイオレットを見た。目が合う。しゃあないな。ちょっとの間だけ、ルドウィンと遊んでやるか。
「時を止められてさえいれば」
「その言い方だと、時が止められたら俺に勝てるみたいな言い草だな。じゃあ、止まっていてやろうか?」
「はっ!?」
「いやなに、これじゃあ可哀想だと思ってな。せっかくだし、お前が出せる最強の攻撃をしてもいいぞ。俺は待っていてやるからさ」
別に余裕を出しているわけじゃない。現実的に考えて、時のルドウィンの攻撃が俺に届くと思えないからだ。今までの六魔将や四魔卿は、全員名前に得意技がついていた。
こいつの名前には『時』がついている。つまり、得意なのは時を止める事。これが破られたら、これ以上の得意技は存在しないって事だ。受けても問題はない。
「馬鹿にしやがって!!」
彼が取り出したのは短剣だった。なるほど、武器で使って戦うわけか。まあ、時を止められるのなら殺す方法はいくらでもある。ちんけな短剣でもいいわけだ。
「こいつは魔力破壊の力がある短剣だ。こいつで刺されれば、魔力のある生き物は死ぬ事になる。どうだ、これを聞いてまだ刺される勇気があるのか?」
「ごたごたうるせえよ。さっさと、自慢の短小武器で刺してみたらどうだ?」
「後悔するなよ」
後悔なんてしねえよ。ずっと、後悔するような生き方してねえしな。
ルドウィンはご自慢の短剣を俺に突き刺した。だが、短剣は簡単に砕け散ってしまう。誤解がないように言っておくが、俺は特に何もしていない。
そう、何もしていないのだ。勝手にルドウィンが刺してきて、勝手に短剣が砕け散った。俺はただそれを見ていただけだ。
「ば、馬鹿な!?」
「お前は今日、何回馬鹿なって言うつもりだ」
俺としては予想通りとしか言えない。こうなると思っていた。
「お前も自分自身で言ってたよな。刺さればってな。俺は優しいから答えを教えてやろう。俺には刺さらなかった。はいっ、これでこの話はおしまいな」
そもそも、女神イリステラと同化したおかげで肉体的に強化を受けている。この世界の生物の限界は超えていると言ってもいいだろう。普通の攻撃は受け付けないと考えてもいい。
魔力での特殊攻撃はイリステラと同等ぐらいないとな。オーランは結構やばかった。攻撃が俺に通っていたからな。
「それで、お前はどうするつもりなんだ?」
俺はルドウィンに聞いた。すると、ルドウィンは狙いを変える。おおっ、俺に勝てないと悟って、俺と仲良さそうにしていたネストを人質にでもするつもりかな。
でも、ネストは人質にはならないんだよ。二重の意味でな。
「やめておけ、その女は刺しても死なないんだ。俺の言葉の意味が信じられないなら、やってみるといい。それと、仮に死ぬとしてもネストは俺に対しての人質の価値は全くないぞ。俺は無視してお前を始末する」
そいつとは協力関係なだけだからな。お互いに不利になったら間違いなく見捨てるだろうな。俺もそうだし、ネスト側もそうだろう。
俺は死んだらこの世界の崩壊だ。今は自分の命が最優先にしとかないとな。それに、俺達はお互いに目的の為に動いている。一番の目標は自分の目的なんだよ。
「どう考えても理を逸脱している。お前達はなんなんだ!?」
「俺は女神イリステラと同じ存在。しかも、完全体の状態。この女は知らん。俺が聞きたいくらいだ」
律儀に答えてあげたのに無視されてしまった。まあ、絶対に勝てないって絶望感は消えないわな。かと言って、負けてやるわけにはいかねえから。
運が悪かったと思って諦めるんだな。
「まあまあ、そんなに焦るなって。さっきも言っただろ。俺はヴァイオレットとお前の戦いが終わるまでは手出ししない。ここでゆっくり座って待っていてやるから、さっさと元の位置に戻ってくれ」
ここで、俺の言葉を理解したのだろうか。ルドウィンは焦りの表情で時止めを解いた。俺は地面にあぐらをかいて座る。はぁ、だるいな。




