最近は確認を取らないとセクハラと言われますから
エクレアの方を見るとまだ縛られたままであった。俺がギリギリの所で救出したので、服がはだけそうになっていた。
「お前、そんな拘束ぐらい持ち前の馬鹿力で破壊できるだろ? いつまで、囚われたふりしてんだよ」
「違いますよ。あいつに噛まれてから不思議と力が出ないんです。私だって、脱出できるならとっくに脱出してますよ」
「ああ、そう。そんなけ口が動けば元気そうだな。とりあえず拘束外してやるよ」
と言っても鍵と持ってるわけでもないので、力づくだがな。なんと、今の俺はパラディンの力を持っているので鎖ぐらい斬って破壊する事が可能だ。俺は剣で鎖を切断した。
「ほらっ、これで動けるだろ」
「ありがとうございます」
立ちあがろうとしたエクレアだが、噛まれて力が出ないのは本当のようで立つ事もままならず倒れそうになったので、俺は支えた。首筋を見ると噛まれた後が見える。
今はパラディン状態なのでわかるのだが、本来ドラキュラに噛まれると眷属にされてしまう所をエクレアが持っている聖なる力が防御したのだろう。
そのせいで、本来の力が出せなくなってしまったと推測できる。職業の力は知識にも使えるからすげーや。
「本来はドラキュラになりそうだったのが、ちょっと力が入らないぐらいですんでよかったじゃねえか」
「でも、結局アリマに迷惑をかけてしまいました。本当は私一人でどうにかしようと思っていたのです。ですが、思ったよりも敵が強くて」
「村の奴らを人質にとられたしな」
あの手にやり方は俺みたいなのが相手だったら効かないけど、リュカやエクレアには効果抜群だろうしな。
二人は自分を犠牲にしてでも人々を守ろうとするだろうしな。そうじゃなきゃ、偽物だろうしなそいつら。フラフラで無理矢理立とうとしたエクレアをベッドに座らせた。
「俺から言いたい事はあるんだが、とりあえず前が見えそうだからこう……直してくんね」
俺ができるだけ今のエクレアを直視しないようにしてた最大の理由であった。こう、何とも言えない状態で保持されているのだ。具体的に言うなら、ギリギリ胸の部分が見えるか見えないかと言った所だ。
俺の指摘にようやく自分の状態を確認したエクレアは顔を赤くして直そうとするのだが、どうやら力が入らないご様子だ。
「す、すいません。上手く力が入らなくて、直してくれませんか?」
「わかったよ」
真正面からは無理なので、後ろに回るが服を上にあげるような感じでいいのだろうか。悲しき童貞の魂のせいで女性の服なんて触れた事は一度もねえ。しかも花嫁衣装ときたもんだ。どうやったら、ええんやこれ。
「あの、私の指示通りに」
「そうしてくれると非常に助かる」
という事でエクレアの指示に従って、エクレアの服のはだけ具合を直す事になった。服に触る前に俺はふと思った。
「これって、後でセクハラだって訴えられないよな?」
「私がお願いしてるのに言いませんよ!!」
という事で、俺は指示通りに服のはだけ具合を直した。うんうん、元通りだ。だが、なんかエクレアの表情が暗い。
「何だよ。どうした、なんか不満な事あんのか?」
「いえ、アリマの言う通りだったなと思って。私が一人したい事して、それでアリマにも迷惑かけてしまって。結局、助けてくれたのはアリマですし」
はぁ、こいつまだそんな事言ってんのかよ。自信に満ち溢れて、勝手に人助けする。いつもの元気な感じが失われてしまっていた。なんか、お前がしおらしいと俺も調子狂うんだが。
「あーーーーー、わかったよ。俺が悪かった。迷惑って言って悪かったよ。お前がそうやって人助けをするのを知ってて連れてきたもんな」
キョトンとした顔をしている。まるで、お前が謝るのかみたいな顔である。くそ、俺だって悪いと思ったらちゃんと謝るつーの。
「だけどさ、俺はあのはぐれの村の奴らを助けたいとは死んでも思わねえ」
俺の中ではぐれの村はマリカとコボと子供達以外はどうでもいい奴らといった扱いだ。これは、心からの本心である。
「私は多分きっと同じ場面に出くわしても助けます」
「そうだろうな!! そうじゃなきゃ、エクレアじゃねえもんな。だけどさ、俺はエクレアは助けたいなって思う。だから、お前が助けたいって思うお前を俺が助けてやるよ」
エクレアやリュカみたいな奴らだけは助けたいと思う。俺はいいやつじゃねえから、自分が助ける命は平気で選ぶし、捨てもするけど。救いたい奴は救うって決めてんだよ。
「それにさ、よく考えてくれ。迷惑だって思ってるやつとはここまで一緒に旅してこないつーの。お前がいいってのなら、俺と一緒に旅をするか?」
「はいっ!!」
急に元気になって抱きついてきやがって、何だよ。笑顔で泣いてのはどういう気持ちなんだよ。俺みたいなやつが女の涙の種類の違いなんてわかるわけないだろ。
まあ、笑顔だし嬉しいってやつでいいのかね。俺はそのままエクレアを持ち上げる。王都と合わせて二度目のお姫様抱っこだ。
「んじゃ、はぐれの村に帰りますか。みんながお前の帰りを待ってるよ」
「服を、私の服を一緒に持って帰ってください。後で体力が戻ったら着替えますから」
俺はエクレアの指示通りもう見慣れてしまったミニスカ衣装を背負った。俺はそのまま帰りの道を歩く。
「花嫁衣装って、結婚の時以外で着ると婚期が遅れるんだってよ。せっかくだから、お前を欲しがってた物好きなドラキュラに貰われた方がよかったんじゃねえか?」
「誰が、あんなエロ怪物になんか、お断りですよ。それにいいんですよ。私の恋人は人助けですから」
なんだよ、その仕事が恋人ですって言ってる現代社会のキャリアウーマンみたいな発言。お前みたいなのが婚期を逃すんだぞ。
「それにもし婚期逃したら、アリマが責任とってくださいね」
なぜ、俺なんだ。まあ、お前みたいな見た目が超絶美少女で性格がいいんだから貰い手なんて本来は引くて数多だろう。俺が心配するまでもねえだろうしな。
「はいはい、もしそうなったら貰ってやるよ」
「い、今の発言嘘じゃないですよね!!」
「もしそうなったらな」
今度は押し黙りやがった。なんか、嬉しそうに笑顔だしな。何がそんない嬉しいんだか知らねえけどさ。
しかし、今の俺はパラディンで通常状態の俺よりも力があるはずなのだが。前にエクレアを持ち上げた時よりも重い気がすんのは何故だ。
「あっ、エクレアお前太ったろ。グハッ!!」
「デリカシー!!!!」
お前、何も今の回避不能の状態で顔面殴る事ねえだろうが。まあ、今の俺はパラディンだから、効かないんですけどね。
「アリマは女性の扱いを覚えた方がいいですよ」
「扱いもなにも、今もこの状態でお前の尻とか腰とか触ってんだし気にすんなよな」
お姫様抱っこなんて、めっちゃ触ってるやろがい。今更、扱いの話でギャーギャー言うんじゃねえよ。
「降ります!! 今すぐ降ろして!!」
「ちょ、暴れんなよ。どうせ降りても歩けねえんだから我慢しろや」
不思議な事なんだが、俺はこれでようやく安心感があった。何故かって? 俺とエクレアはようやくいつもの調子に戻った気がしたからだ。これぐらいの距離感が俺らには丁度いい。




