聞きたい言葉はすぐに出てこねえもんだ
俺はさっきのドラキュラの部下以外の通り道にいた魔物は全て避けて移動する。当然だが、見つかったら命懸けのチェイスの開始である。魔物も俺を探しているわけではないので、隙をつく事で視界に入らないように移動する。
そして、何より頭の上にいるコボが的確に敵がいる位置を俺に教えてくれたおかげで、俺は何とかドラキュラがいるであろう古城に着いた。俺は頭の上のコボをゆっくりと地面に降ろした。
「ここまで、サンキューなコボ。こっからは俺一人で行く」
「そんな、僕も聖女様を助ける為に一緒に行くよ。だって、アリマは一人で謝れないでしょ。僕がいなくちゃ!!」
すごい憎たらしい事言ってくれちゃって。だが、職業ガチャのない俺がドラキュラとまともに戦って生き残れる確率の方が低いのはわかっている。
帰り道に魔物がいるが、ここに一緒に入るよりは生き残れるだろう。コボには古城の道案内もしてもらった、もう十分だ。命を捨ててくれとは言えない。
「バーカ、ちゃんと連れて帰ってくるから心配すんなって、お前は帰り道に危ない目に遭わないかだけ考えてろって」
「うん、わかった。約束だよアリマ、絶対に帰ってきてね!!」
コボは指切りの姿勢になった。こんな事しても口約束なんて、破る為に存在しているのだがな。だが、これでコボが安心して帰ってくれるなら安いもんか。俺はコボと目線を合わせる為にしゃがんで指切りをした。
「ああ、約束だ!!」
「うん!!」
俺は帰って行くコボの背中を見送った。さて、この湖上に魔物がいるのが一番最悪だな。狭い廊下とかにいられるともう逃げようがねえからな。注意して、進むか。俺は古城に足を踏み入れた。
中は暗くて、人間の視界では上手く奥を見通す事ができない。手探りで廊下に進んで行く。ここで、あわよくば金目の物が手に入ればいいんだがな。どっかに五万エン置いておいてくれねえかな。RPGの宝箱みたいにさ。
「んっ、今なんか音がしたような?」
俺の足元でカチリと音がしたような気がした。俺は何となくで何を踏んだのか、気になったのでしゃがんだ。すると頭の上を何かが高速で通過した。一瞬で冷や汗が出た。顔を上げると、弓矢が壁に刺さっていた。
「あ、あっぶねー。エクレアのとこに着く前に罠の弓矢で死にましたなんて、だせえ事したくねえぞ」
だが、俺は周りは暗がりである。どこに罠が仕掛けられているかなんてわかるわけがない。
「ズルくね? 攻略者に優しくないダンジョンとかさ。やる方のみになってくれよな」
俺は誰に向けてかわからない文句を言うのだった。文句ばかり言っていても話が進まないので、前に進んで行くその後も無事に罠に引っかかりまくったとさ。
へへっ、自分でも何で生きているのかわからんくらいボロボロだぜ。コボ連れてこんでマジでよかったよ。何とか上の階に上がる事で光が差しこんで、周りが見えるようになった。
よく見ると、見るからに私は罠ですというような出っ張りがある。
「俺はこんなしょうもない罠に引っかかり続けて、疲弊したのか……」
ちょっとショックを受けながらも明らかにこの奥にドラキュラのいそうな大きな扉へと着いた。着いてしまったんだが、仮にこの中にドラキュラがいるとしてさ。
俺はどうやって戦えばいいと思う? ここから入れる保険はあるんか? 俺は扉が少し開いていたので、とりあえず中を息を殺して覗き込んだ。
そこには、またもやガッチリと手錠などで拘束されている、エクレアさんの姿があった。ベッドで仰向けで拘束されている。あいつはこの短期間で何回拘束されれば気が済むねん。
ただ、姿がいつものミニスカシスター服ではなく。純白の花嫁姿であった。あれかな、ドラキュラの趣味か。エクレアを花嫁にするとか言ってたしな。
様子を伺うと、拘束された状態でも強気な表情のエクレアとドラキュラが何やら話しているようだ。声だけ聞けそうなので盗み聞きをさせて貰うとしよう。
「ちょっ、なにかってに私に触ろうとしてるんですか!! エロ魔物、触んないでください!! 誰が触れていいと言いましたか!?」
「ふふっ、照れているのか花嫁よ……痛い、痛い、痛い、思ったよりも力が強いな!! お転婆という奴か!!」
足の拘束がされていなかったので、エクレアが思い切りドラキュラの顔面を蹴飛ばしたのだ。お転婆で済ます、ドラキュラは優しいのではないかと錯覚するほどいい一撃が顎に入ったが、傷は治っていく。
「わ、私はここに来るとは言いましたが、貴方の物になるなんて一言も言っていませんよ!!」
「ふむ、顔からは信じられない程の強気な意志。あの男が助けに来ると思っているのか?」
あの男って誰だ。俺の事か、俺が助けに来るかどうかなんてエクレアが一番知っているはずだ。普通なら来ないな。なんか、来ちゃったけど。
「来ませんよ……今回は先に約束を破ったのは私です。アリマは私の事嫌いなようですし……」
根に持たれている。迷惑って言った事が俺が思ったよりもエクレアの心に刺さっている。悲しそうな表情を浮かべるエクレア。
「ふみ、その表情。さてはその男に惚れているな?」
エクレアがキョトンとした顔をする。一瞬、時が止まったようだったが、ドンドンと顔が真っ赤に染まっていく。俺にエクレアが被れてるだと、ドラキュラ君エクレアにも男を選ぶ権利があるよ。
俺みたいなクズと聖女は釣り合わないんだ。後、俺はもう少しお淑やかな女性が好きなんだよ。エクレアと付き合うと俺の自由が根こそぎ奪われる気がするんだ。俺にだって、選ぶ権利ぐらいあるだろ?
「な、な、な、何を言ってるんですか!?!?」
「ごはぁ!!」
ほらっ、そんな失礼な事言うからエクレアさんが顔真っ赤にして怒ってるじゃんか。またも蹴り飛ばされたな。
「わ、私がアリマの事……す、すひなんてぇ……ありえないです!! だって、アリマは私にセクハラするし、性格はひん曲がってますし、自分勝手だし……それから……」
俺の悪口が無限に出てくるわ、出てくるわ。そこまで言わなくてもいいだろ。俺だって、大抵のことはスルーできるけど、一応心はあるんだぜ。これ以上は俺のライフが持たないからやめてくれ。
「で、でも、ちょっとだけかっこいい時が……あったりなかったり、ちょーーーーーーーーーとだけですよ。百回に一回ぐらいの割合で、たまーーーーーーーにいい事するんですよ。たまにね!!」
ここら辺からエクレアの声が小さくなったりして聞こえにくくなったが、悪口を言ってる事が推測できます。よくもまあ、あんなに俺の悪口がポンポン出てくる。俺頑張ってここまで助けに来たのにな。
「ふっ、だがその男はお前を助けに来ないのだろう。ならっ、諦めて私の物になるがいい聖女よ!!」
「そ、それとこれとは話が別です。私は魔物の物になんかぜーーーーーったいなりませんから!!」
「ふふっ、力づくで手籠にするのも一興か……」
ドラキュラはエクレアの胸元に手をかける。エクレアも何かを察したのだろうか、さっきまでとは打って変わって弱気な態度になる。強気な態度は怖さの裏返しか。
「い、いや……助けてアリマ……」
たくっ、その言葉ははぐれの村で聞きたかったな。素直にそう言ってくれよ。まあ、可愛い所もあるんじゃないかね。俺は扉から飛び出した。




