俺と勇者の出会い
最初に俺の意識が生まれたのはちゃんと言葉が喋れるぐらいになってからだ。
どうやら火の大地にある名もない小さな村の村長の子供として育てられたみたい。
名前はそのままアリマ。俺の育て親である村長のムラナガが言うには、女神イリステラの信託でそう決まったらしい。
信託もなにも元から俺はアリマって名前なんだよ。
どうやら、森で捨てられていた赤子の俺を不憫に思ったムラナガが育ててくれたようだよ。
なあ、これって運が悪かったら俺の意識が戻る前に死んでたんじゃねえか。いや、絶対そうだよな。普通はさ、赤子に転生した奴を森の中に放り出さねえよ。
俺が死んだらどうするつもりだったんだ。
一言文句を言ってやろうと、女神から渡されていたスマホを使って通話してみる事にした。これって、ちゃんと使えるのかの実験も兼ねてだ。
『貴方の女神イリステラよ。もー、どんなけ待たせるわけ。意識戻るの遅すぎ、暇すぎて待ちくたびれちゃったじゃない』
「よくも意識のねえ俺を森に叩き落としてくれたな」
『生きてるんだから別にいいでしょ』
少しも詫びねえなこいつ。あー、目の前に居たらピンク色のクレイジーな髪の毛を、一本ずつむしり取ってやるのにな。
心の中で中指を立てておいた。
『それよりも勇者の位置を特定したから接触しなさい。スマホに送るからね』
「そう言えば俺って勇者の幼馴染として転生したんだよな? そんな記憶がねえんだけどさ」
今までの俺の意識がなかった時の記憶もきちんと引き継いでいるようだ。だからわかるんだが、勇者の幼馴染として生を受けたはずなのに記憶に少しもない。
これっておかしいよな。俺の記憶違いじゃなきゃ、幼馴染って話だったはずだ。
『アタシの話を聞いてた? 今から勇者のいる位置をアンタのスマホに送るからって言ったでしょ』
「えっ、じゃあ俺は勇者になる奴にまだ会ってもいないって事なのか?」
『そういう事よ。どうにかして幼馴染になって、勇者への道に誘うのがまずアンタの第一の仕事ってわけ』
「はぁ!? こういうのって最初から幼馴染の状態からスタートするんじゃねえのかよ!! こんなの俺に全部丸投げじゃねえか!!」
どういう事なの。この女神クソ程何もしないんだが。せっかく転生したのに、一番最初にする事がガキと友達になる事とか。
悲しすぎるわ。
『じゃ、そういう事だから。あっ、毎日夜に進歩報告だけはしてちょうだいね』
「あっ、おい待て。くそっ、言いたい事だけ言って切りやがった」
怒りでどうにかなりそうだが、まずは状況を整理しよう。俺はこの世界にアリマという名前で女神の信徒として生を受けた。
今の歳は前世で言う所の小学生ぐらいか。まだまだガキだな。
俺の意識が戻る前の記憶を必死に思い出す。どうやら、元の俺の取りそうな行動そのままで動いていたらしい。
こりゃ、かなりのやんちゃなクソガキって感じだ。
ずいぶんと育て親であるムラナガの手を煩らわせていたみたいだ。うん、記憶の中の俺は大分忠実に俺として動いているな。
そこの精度だけは凄い。
まあ、俺の意識が戻った時に辻褄が合わねえのが一番困る事だしな。そこら辺は俺が気にしなくてもよさそうだ。
「ここで、うだうだしてても仕方がねえ。未来の勇者様にさっさと会いに行くか」
とにかく、俺の異世界で楽々生活の為にもまずは、未来の勇者となる人物に会いに行かなくちゃな。
俺はスマホに送られてきたわかりにくい画像を頼りに探す。
すると、一つの大きな家の前にたどり着いた。
俺の記憶に残っているな。ここはこの土地の領主の館だ。つまり、勇者は領主の息子って事になるんだな。
うわぁ、領主の息子とか絶対に性格悪い奴じゃん。会う前にわかっちまうよ。
だけど、門の扉は固く閉ざされていて入れねえ。子供の体じゃ塀をよじ登る事もできやしねえし、とりあえず周りをぐるりとまわってみるか。
という事で、ゆっくり歩いていると何やら声が聞こえて来た。声の主を探すと川の近くで何やら三人の子供が、一人を寄ってたかっていじめていた。
「おいっ、弱虫。仲間に入れて欲しいのなら川に飛び込んでみろよ」
「そうだそうだ」
「そうだぞ」
リーダーっぽいふくよかな奴が、子分を従えてなよなよしているガキをいじめている。
うわー、異世界でもこういうのあるんすね。
「ねえ、やめようよ。川に飛び込むなんて危ないよぉ」
いじめられている奴の服装を見ると、明らかに裕福そうな服を着ていた。もしかして、あいつが勇者になる予定の領主の息子かな。
スマホの位置的にもここだし、そうなんだろう。
それにしても、すげえなよなよした奴だな。俺個人としては、勇者の事がなかったら絶対に関わらんと思うわ。
「なんだよ。お前が仲間に入れて欲しいって言うから度胸試しをさせてやってんだろ」
「さっさと飛び込め」
「やっぱ。弱虫には無理だろ」
あのさ、普通に川の流れ急だし危ないんだよ。お互いに子供だし、そういうのがわかってねえんだろうけどさ。
さて、領主の息子はどうするつもりなのか。
俺が様子を見ていると飛びもしないし、文句をつける様子もない。結局、もじもじしていて時間だけが過ぎていく。
カーっ、嫌なら断れよ。かと言ってここで飛び込ませるのは普通に危険だ。
仕方ねえ、本当は助けたくねえんだけどさ。今回だけだぞ。
まあ、いじめる奴が一番悪いからな。俺は子供達の集団に近づいて行く。
「楽しそうなことしてんな。俺も混ぜろよ!!」
俺はふくよなガキの顔を掴んで川に叩きつけた。ガボガボとなんか言ってるけど、言葉喋ってくれねえとわかんねえよ。
あんまりすると死んでしまうので適度な所で離してやった。
「ゲッ、アリマだ!!」
「逃げろ!! ぶっとばされるぞ!!」
「待ってくれよー」
三人のガキは逃げて行った。
俺って、とんでもねえ悪ガキ扱いなんだなってあの反応からわかったよ。まあ、他人からの評価なんざどうでもいいけどな。
「あの、助けてくれてありがとう」
「お前のためにやったわけじゃねえから感謝しなくていい。お前、名前は?」
「僕はリュカ・ブレイブって言います」
「俺はアリマ。お前もさ、嫌な事されたらガツンと言ってやんねえと駄目だぞ。ああいうのは、お前がやり返さねえからつけあがっていくんだよ」
「で、でも、喧嘩はよくないし。それに、仲間に入れて欲しいって言ったのは僕だから……」
いい子ちゃんすぎる。あまりにも平和主義者だ。俺とは意見が合わなさそうだな。
しかし、こいつが勇者である以上は付き合っていかなくてはならない。
はぁ、川に飛び込めなんて言ってくるような奴と友達になんてなれるわけがねえだろ。
どうせ、いじめっ子の方も飛び込む勇気ねえよ。
「友達は選べ。しょうがねえから、俺が友達になってやるよ」
「えっ、嬉しい。同年代の友達ってはじめてなんだ」
なんて悲しい発言をするんだ。
よぉし、俺がここからビシバシと教育して、魔王を殺す勇者として鍛え上げてやるからな。覚悟しろよリュカ。
こうして、俺とリュカが出会ったわけ。
ここからは毎日のようにリュカと遊んだ。幼馴染になる為には毎日通わねえといけねえからな。
その中で、少しだけリュカの事が分かった事があった。
どうやら、リュカの母は既に他界しており、父は領主として忙しい日々を送っているらしい。
領主の息子として周りの子供からはねたまれており、いじめられていたようだ。
でも、まことに残念なお知らせがある。この村での一番のいじめっ子はどうやら俺らしいので、リュカに対するいじめは次第に無くなっていった。
ただ、リュカは相変わらずなよなよしたままだった。
「お前は勇者になる男なんだぞ。そんな状態でどうするんだ!!」
「僕には勇者なんて無理だよ。怖がりだもん」
俺は毎日のようにリュカが勇者になると言いまくっていた。とりあえず、催眠するかのように毎日言い続けていればその内やるきになるだろうとの考えだ。
あんまり、効果が出る事はなさそうだ。
リュカは俺と知り合ってから、俺の尻を追いかけているだけだ。兄貴のように慕ってくれるのは嬉しいし、仲良くはなったと思う。
だが、リュカは自分の意思はほとんど出さない。よく言えば優しい奴。悪く言ったら、遠慮がちで自分の意思を隠す。
このままじゃ駄目だ。リュカが勇者を目指すきっかけ欲しいな。ちゃんと、勇気が出せるようなそんなきっかけがな。