良い事をした日は気分がいいぜ
盗賊達は近くの洞穴を根城としていたようだ、中に入って行くと盗賊達がまだいたので、全員エクレアが救済してあげた。流石は聖女様と言った所か。反省した盗賊達が俺達をもてなしてくれた。
俺は盗賊達アジトを物色した。狙いは当然、貯めこんでいるであろうお金だ。俺が漁ると出てくるわ出てくるわ、宝石やら金塊やらがたくさん出て来た。俺は全部根こそぎ奪うつもりで袋に詰め込んで行く。
「兄貴っ、許して下せえ!! それ全部持ってかれると俺達の生活がぁ!!」
「黙れ!! 人から盗んだものなんだろどうせ、また盗めばいいだろうが!! いいか、次からは誰に喧嘩を売っていいかを考えるんだな。そういう見極めができねえからこういう事になるんだよ。馬鹿のことしてねえで働け!!」
「そんなぁ……」
そもそも、盗賊が安定した生活を望んでんじゃねえよ。奪い奪われが基本だろうが。他人から奪った金で生活して恥ずかしくないんか。まあ、俺はお前らから盗ったお金でしばらく生活しますけどね。
エクレアの食費が丁度良く稼げてよかったわ。これから、盗賊は全部ぶっ倒していこうぜ!!
「それで、貴方達は何故盗賊を?」
「さっき、楽してとか言ってたろ」
エクレアは純粋だから、彼らが何らかの理由で盗賊という悪の道に走ったと考えているようだ。さっき、楽して金が稼げるみたいな事を言ってたのが絶対に本音だぞ。
「姉御、よくぞ聞いてくれました。確かに俺達はお金が簡単に稼げそうだしって事で、盗賊をしてましたが……そもそも、魔物とかいうののせいでまともに働き口が無くなったんすよ。それが、原因で……」
「うぅ……可哀想です」
「なに、騙されてんだよ。こいつら、人から物を奪ってんだぞ、人さらいみたいな事も言ってたし救いようがない典型的なクズだ」
「でも、どんな人でも一度はもう一度やり直す機会が必要だと思いませんか?」
「無理無理、どうせ俺達がここを離れたら盗賊稼業よ……」
いいか、悪いことしてた奴が更生したみたいな話があるが、そいつはどうしようもなくて仕方なく悪い事をする事でしか生きていけない奴だからだ。つまり、元々は善人ってわけだ。
こいつらは自分の意思で悪人なったんだよ、更生もくそもねえよ。まあ、俺はその生き方を否定しねえけどな。好きにすればと思うし。
「兄貴、そりゃねえっすよ。俺達だって、ちゃんとした働き口がありゃあ働きますって。近くの村だって、言葉を話せる魔物が現れて、支配されたって聞きますし」
「近くの村に喋る魔物ね……」
世界的に魔物という存在がいままでこの世界に存在していなかった。その為、対応に出遅れるのは仕方がない事だ。こういうしわ寄せが来るのは、大きな国や都市よりも狙われやすい小さな村だろうしな。
でも、君達はあんまり余計な事言わないでくれるかな。隣のエクレアが助けに行きたくてうずうずしだしたじゃねえか。
「うーん、どうにか彼らに仕事を与えられないでしょうか。仕事があれば、彼らも悪い事をしなくなるのではないでしょうか。どうにかなりませんかアリマ?」
「どうにかなりませんか、つったってなあ……」
俺は求人サイトの窓口係じゃねえんだよなあ。安定した仕事ねえ。つまり、住み込みである程度給料が約束されているって事だろ。
そんな、都合のいい所あるわけねえだろ。そう思っていると、俺の脳内はハーゲンの言っていた事を思い出した。
「兵士の数も少なくなってしまったし、これから新しい兵士を募集しなくてはな。しかし、みんな辞めて行ってしまうのだ。どうにかならないか、アリマ」
「知るか!! 相談する相手を間違えてっぞ。でも、なんでやめてくんだ。城の兵士なんてエリートだろ」
「いや、危険な仕事だし辛くてやめていく者も多いんだ」
「ふーん」
とその時は心底どうでもよかったので適当に流したのだが、なるほどこれはいい案かもしれないな。ハーゲンはやる気があって、急に兵士の仕事をやめなければいいと言っていたからな。
条件としてはいいのではないだろうか、王様になったハーゲンに恩を売っておくのも悪くはねえしな。
「お前ら、仕事紹介してやってもいいが絶対にやめないって約束できるか。できんなら、城の兵士の仕事を紹介してやるぞ」
「マジっすか!! いや、流石兄貴っす。是非お願いします!!」
これから、魔物との戦いがある分兵士の消耗は早いだろうしな。こいつらでも鉄砲玉くらいにはなるんじゃねえかな。
俺は盗賊のアジトに置いてあった紙とペンを使って、簡単にハーゲンに向けての紹介状を書いた。それを、盗賊達に持たせる。
「これ持って、王都セイクリアの城の兵士にでも渡せ。もし、逃げたりして紹介した俺の顔に泥を塗るような事があれば、地の果てまで追ってでも救済しに行くからな!!」
「おっす!!」
もう、エクレアの救済には懲りたのだろう。盗賊達は元気のいい返事をした。俺とエクレアは王都セイクリアへと向かっていく盗賊達を見送ったのだった。
「アリマもたまにはいい事するんですね」
「たまには余計だろうが」
「それで、あの紹介状には何を書いたんですか?」
「別に普通の内容だよ」
紹介状にはこう書いておいた。『そいつら、元々盗賊だった奴らです。王都セイクリアの為に働きたいと言っているので、最低賃金で働かせてやってください』ってな。
逃げたら、救済なので彼らは逃げることが出来ないだろう。仕事の紹介もしてやるって、俺ってすげーいい奴だよな。
「いやー、いい事した後は気分がいいぜ」
「アリマもようやく更生したんですね、私嬉しいです。では、魔物に支配された村に向かいましょう!!」
「ふざけんな、行くわけねえだろ。俺達の目標は魔王を倒す事だぞ、村一つぐらいはもうしょうがないんじゃねえか。諦めて、さっさと魔導都市に向かおうぜ」
魔導都市に向かう事は魔王の事と全く関係ねえけどな。とにかく、これ以上の時間のロスは勘弁してもらいたい。
喋る魔物ってのも気がかりではあるが、喋れるという事はその分知能があるという事だ。現状、何も分からない状態で行くのは危険な気がする。
「……アリマは私に言いましたよね。私はきっと、今助けられないとこれから後悔しつづけます」
わかってる。エクレアという女性の事を少しは理解したつもりだ。きっと、これからも人を救い続けるだろう。
ここで、エクレアが行かないのはエクレアという一人の人間が失われることを意味するだろう。本当に馬鹿みてぇに、人助けが好きなんだな。
「はぁ……わかったよ。ただし、危険だと判断したら村を見捨ててでも逃げるからな。俺の言う事に従わないなら罰を与えるぞ。いいな!!」
「……はい、わかりました」
こうして、俺とエクレアは寄り道の寄り道である。近くの小さな村へと向かう事になったのだった。




