人と接するときに大事なのは誠意です
俺とエクレアの旅は順調とはとてもじゃないが言いにくかった。魔導都市エンデュミオンに向けて、ゆっくりだが進んでいた。ゆっくりというのは俺は早く進みたかったのだが、とにかくエクレアが足を止めるのだ。
例えばだが、道端で困っている人がいると問答無用で助けようとするし、魔物に襲われている人がいればその魔物を倒しに向かう。つまり、エクレアが問題事に自分から突っ込んでいくので、俺はそれに合わせて動くしかない。
本来なら、もう魔導都市エンデュミオンについてもおかしくないような距離だったが半分も進んでいなかった。
「エクレア……人助けするのはいいんだが、まったく魔導都市に近づいている気がしないんだがどうなってるんだ。俺達は幻術でもくらってるのか?」
「でも、困ってる人がいると助けたくなりませんか。アリマも泣いてる子供がいたら、手を差し伸べるでしょう」
「悪いんだけど、俺はそんなにいい人じゃねえんだよ。子供が泣いていても当然スルーするし、今までエクレアが助けた人も俺だったら気にせず無視してたよ」
自分を捨てて誰かを助けたいと思うのは、そいつの勝手だからいいが、俺は少なくとも別に助けたいとは思わない。
メリットがあるなら、助けるのはやぶさかでもないのだがな。つまり、エクレアといると余計な時間が消費されていくのだ。
「俺達、ここで別れるか……」
「そんな、付き合って時間が経ったカップルみたいな言い方しないでください!!」
「じゃあ、人助けをするなとは言わんが見た目でやばそうな奴以外はやめてくれや、知らん奴の落とし物を探すのに一日使ってたら一生進まねえよ」
「私らしく生きていいと言ったのはアリマじゃないですか」
俺は確かに、もう少し自由に生きてもいいんじゃね的な事を言ったが、俺を巻き込んでいいとは一言も言ってねえぞ。
まあ、リュカとかエクレアは人を助ける事が好きな奴らだからな。だが、俺とは正反対で一生分かり合う事はないと確信が持てる。
「まあ、千歩ぐらい譲って人助けはしてもいいがな。俺達は金がねえんだ、何故かわかるか?」
「えっ、何故でしょうか……」
「その無駄にでかい乳に手を当てて考えろや。待て!! 俺がちょっと何か言ったら、アイアンクローの構えを取るのは卑怯じゃないかいエクレアさん!!」
最近は暴力訴えれば、俺が何でも言う事聞くと思っていやがる。俺にも慈悲の心をくれや、聖女の名が泣くぞ。最近では、エクレアは聖女から解放されたからか、好きなだけご飯をいっぱい食べるし、好きなだけ人助けをするようになってしまった。
俺達の収入源はまったくないので、お金は減る一方である。エクレア自身が消費するばかりで金を稼ぐ事を考えていないのだ。お金を稼ぐって事をしてこなかった弊害かな、信者がお布施をくれてたからだろうな。
「なら、私の前でセクハラじみた言葉を使うのはやめればいいじゃないですか」
「セクハラした覚えはねえ。とりあえず、お前の飯の量を半分にしたらいいんじゃないか?」
「ご飯の量を半分に!?」
今まで見た事ないぐらいの絶望的な表情してて、なんか面白かった。だが、実際にこの後の事を考えるなら、お金はいくらか持っていた方がいい。
今はエクレアがあいつ一人で十分みたいな状態だが、エクレアが倒せない敵と遭遇する可能性だって十分にあり得るだろう。そうなれば、俺の奥の手である職業ガチャの出番である。
まあ、金の消費が早すぎて現在の懐事情だと五万エンを下回ってるから引けないんですけどね。
「てか、いつも思うんだけどお前の体のどこに栄養がいってるんだ? 絶対に太るぞ」
「だ、大丈夫ですよ。私運動してますし、それに聖女は太らないんです!!」
「すまん、今からお前を持ち上げるわ」
「セクハラ!!!!」
昔のアイドルみたいな事を言い出したよ、こいつ。まあ、楽しい旅にしてやりたいという気持ちも俺にはあるので、文句言わずに金を払い続けてた俺にも問題はあるかもしれん。
だが、エクレアが食べ過ぎている以外にもそもそも収入源がないというのは問題だ。使う一方だから減るのだ。何らかの方法で金を稼ぐ方法を探さないといけねえな。
俺達がいつのように軽口を叩きながら進んで行くと、一人の男が倒れていた。
「人が倒れていますよ!! すぐに助けましょう!!」
エクレアがすぐに男の元へと駆け寄った。俺は少し離れて周りの様子を見る。倒れているしてはやけに服が奇麗すぎる気がするな。ほんとに苦しんでいるのだろうか。
倒れている場所も隠れられそうな草木が大量にある場所であり、人の気配した。今まで、したくもねえが倒れている人をエクレアと救出していたが苦しそうな態度をしていた。倒れている男性にそれがない気がしたのだ。
「大丈夫ですか!? 傷の手当をしますね」
「エクレア多分だが、助けない方がいいぞ」
「見損ないましたよ。苦しんでいる人がいるのに助けないなんて!!」
「いや、そいつ苦しんでねえと思うんだが……」
俺がそう言った瞬間だった。草木の陰から、五人の男達が飛び出してきた。いかにも、盗賊と言った風貌の男達。
やっぱりな、罠だったわけだ。反応が遅れたエクレアは盗賊達に襲われて、縄で縛られてしまった。縛られたエクレアは何が起きたのかわからずにキョトンとした顔をしている。
「兄貴!! この女中々の上玉ですぜ、売れるんじゃないっすか」
「ゲヘヘ、俺達のアジトで楽しんでからだな。さて、そこの男、お前の持っている物を置いて行きな。そしたら、お前は見逃してやるよって……距離、離れすぎだろ!!」
盗賊達は俺のいる場所に驚いているようだな。俺は盗賊が現れた瞬間に、全速力で離れたからな。
もちろんだが、盗賊が少しでも近づいてきたら全速力で逃げるぜ。エクレア、知らねえよそんなの!! 俺はちゃんと忠告したからな。
「お、おい、仲間を助けようとか思わねえのか!?!?」
「思わねえ!!!!」
「なんて、薄情な奴なんだ!! 信じられねえ!!」
うるせえ、盗賊とかいう蛮族やってる犯罪者共にどうこう言われる筋合いはねえ。ナイフ一本で俺が男六人に勝てるわけねえだろ。いいかげんにしろ。
「アリマこれってどういう事なんです?」
未だに自分が捕まったと理解していないエクレアさんは目をぱちくりさせている。
「お前はマヌケだから騙されただよ。つまり、傷ついている奴はいなかったってわけよ」
「よかった、苦しんでいる人はいなかったんですね……」
慈母のような表情を浮かべて安堵しているエクレア。お前は自分がピンチを心配しろ。エクレアらしいと言えばエクレアらしいのだが。
「おいおい、お嬢ちゃんとあそこの薄情な男の性格が正反対すぎるだろ……」
「アリマは薄情なんかじゃありません!! ちょっと、心がすさんでいるだけなんです!!」
「フォローしてるつもりか? 別に何でもいいんだけど、さっさと脱出してくれよ」
俺の発言に盗賊達は笑う。
「こいつが見えねえのか、ここまで縄で縛りつけりゃ、女の力で脱出なんてできっこねえぜ!!」
「おっ、そうだな」
そいつが普通の女だったら、とっくの昔に俺は逃げてるんだよな。エクレアは静かにフンッと力を入れたようだ。すると、縄はブチブチと音を立てて、引きちぎれてしまった。盗賊達も呆然。
「きっと、アリマと同じで何らかの理由で心が荒んでしまったんですね。女神イリステラの信徒である私が救済してあげます!!」
「いや、金が簡単に稼げるから盗賊してるだ……ごべばっ!!!!」
「全員、心を入れ替えて反省するまで許しません!!」
エクレアの容赦のない拳の一撃に次々と倒れていく盗賊達。救済という名前の暴力を見ながら、俺はエクレアが勝ちそうなのを見て、倒れている盗賊達に近づいて行く。
「見たか!! うちの聖女舐めてんじゃねーぞ!! おらっ、正座しろ、正座!!」
「この男、何もしてねえのに生き生きしてやがる!!」
エクレアが転がした、盗賊達を片っ端から正座させていく。エクレアの救済拳を受けて、もう逃げられない事を悟った盗賊達はぶるぶると震えていた。
「へへっ、兄貴許してくださいよ。ちょっとした出来心だったんですよ」
「ちょっとした出来心で盗賊になるんじゃねーよ。反省してるなら誠意を見せて貰わねえとな」
「誠意……?」
盗賊達は顔を見合わせる。かっーーーー、俺の貴重な時間をとったんだから、誠意と言えば金しかねえだろ。それぐらいは理解してくれよな。
「エクレア、こいつら全然反省してねえよ。もう少しお前の救済が必要だぞ、これ」
「任せてください!!」
そう言って、エクレアの拳は音を置き去りにした。その様子を見て、盗賊達は震えあがる。彼らは急いで今持っているであろう金を出してきた。
「そうそう、最初からこうしてりゃ俺もなんも言わないわけよ」
「これで、許していただけるんですか!!」
「おうっ、考えてやるよ」
許してやるとは言ってない。
「へへっ、じゃあ俺達はこれで……」
「おい、待てよ。お前らアジトがあるんだってなあ、そこまで案内してくれよ」
「いや、ちょっとそれは……」
「おいおい、俺に口答えする気か? エクレア、こいつら反省してないぞ」
「兄貴!! 是非、アジトまで案内させてください!!」
ということで、盗賊達が自らの意思で誠意を見せてくれるらしいので、喜んで俺とエクレアは盗賊達のアジトに案内してもらった。エクレアも私の気持ちが通じたようですねと大喜びである。よかったね。




