俺の夢を聞くんじゃないんかい
アステリオンから離れた俺とエクレアはジークに教えてもらった通りに進む。目指すのは豊穣の土地ユラシャだ。ジークから聞いた前情報では作物や森で自然豊かと聞いている。
アステリオンはどちらかというと土地としては荒地の方が多い印象だった。
ユラシャが豊穣の土地と呼ばれているのは、ひとえに土の宝玉の力だとジークは言っていた。宝玉にはそんな力があるとはな。女神イリステラは自分の力の残りカスとか言っていた気がする。
「それで、ユラシャでは一体どんな食べ物が美味しいのですか!?」
一方のエクレアは熱心にどんな作物が美味しいのかを聞いていた。エクレアにとっては宝玉よりも食べ物の方が大事な様子。
まあ、アステリオンではお互いに縛られて生活していたわけだし、俺もここいらではめを外したいと思っていたから丁度いいかもしれねえ。
ユラシャに着いたら少しゆっくりするのもいいだろう。
いやー最初にライアンに聞いていた感じだと、アステリオンと争い土の宝玉を守れると聞いたからな。どんな修羅の国だよと思っていた。
ジークに聞いた感じじゃあ、比較的穏やかな土地だとの事だ。歩く足元も緑が多くなり、周りも自然が豊かになってきた。
どうやら、俺達は無事に何事もなく国境は超えたみてえだな。
「ユラシャでは新鮮なお野菜が特産物のようですよ。とっても楽しみです」
「お前ほんとそればっかだな。せっかく、新しい国に来たんだしなんか感慨深いもんでもねえのか?」
「そうは言われましても辺りはにはまだ何も見えませんからね」
エクレアの言う通りであった。一面緑が多くなってきてはいたが、人とはまだ一人も出会っていない。これは、アステリオンとは対照的な感じだ。
あっちは町の外でも割と人を見かけたんだがな。これは歩いているだけの暇な時間が続きそうだ。
「そう言えばですね。私達ってなったじゃありませんか……」
「まあ、そのなんだ。恋人ってやつな」
やけに嬉しそうじゃねえか。俺が適当に流さなかったのがそんなに嬉しいか? まあ、確かに俺からこういう事を言うのは珍しいかもしれねえな。
でも、なったもんはなったし流石の俺もちゃんと言うよ。
「アリマの夢をちゃんと聞いておこうかと思いまして」
「夢?」
そう言えば、俺ってこの世界に転生してから夢とか未来への渇望を女神イリステラには話したような気がするが、ほとんど心の中で思っていただけだったな。
もちろん、俺の夢は魔王を倒して楽々異世界生活だぞ。最初から何も変わってねえから。
「実は私には夢があるんですよ」
「お前俺の夢を聞いて来たのに自分の夢を語り始めるんか?」
さては、この話を切り出した時には自分の夢を語りたくてうずうずしていただけだったな。
「いいではありませんか。それで、私の夢はですね。ずばり!! 王都に帰ってアリマの言っていたギルドを立ち上げある事です」
「へえ、エクレアってそういう夢もちゃんとあったんだな。てっきり、全世界の美味しい物食べ歩き三昧みたいな感じかと思ってたわ」
本人に行ったら怒られそうなので言わねえけど、俺はエクレアがちゃんと今後の事を考えている事に驚きだよ。そういう脳味噌がついていたんだな。
「なんですか、その子供を褒めるような顔は!!」
どうやら、そんな顔をしていたらしい。実際にそんな気持ちだったので無理もないのかもしれない。
「それで、ギルドを作りたいって何か理由があるのか?」
「よくぞ聞いてくれましたね。やはり、魔王の件で特定の人物が強い力を持っているよりも、多くの人間が抗う力を持っていた方がいいと私は考えました。そこで、賢者アリシアさんがくれたこのカードを使って王都でギルドを作ろうというわけなのです」
「お前にしてはよく考えてるじゃねえか。ちょっと見直したぞ」
カードってのは魔導都市エンデュミオンのリューネが解析していた奴な。魔術の術式を入れておくことで、魔力があれば誰でも簡単に魔術師ごっこが出来る優れ物だ。
賢者アリシアから必要ないと言われて俺がもらっていたのをエクレアが欲しいと言っていたからあげたのだが、そんな事を考えていたとはな。
魔力さえあれば魔術の面倒な工程をすっとばせる。魔物が外をはびこっている昨今では、一般人でも対抗策を持つ事に越したことはねえ。
ギルドで一般人が戦えるようになれば、人々は勇者や大賢者だけに頼らなくてもよい世界になるかもしれねえな。今の世界だと強い奴の負担がでかすぎるんだよなぁ。
それは俺も思っていた。
「ふふん。ギルドの事はアリマが教えてくれたではありませんか。魔王を倒して無事に旅を終えたら、もちろんギルドの立ち上げをアリマも手伝ってくださいね」
「えっ、嫌だけど」
エクレアが俺の言葉を聞いて動きを止めてしまった。心地よい草原の風だけが辺りを包みこんでいる。
「今、なんて言いましたか? 私の聞き間違えかもしれませんね。いや、そうに決まっています。もう一度お聞きしますね。アリマは私と王都でギルドの立ち上げをしてくれますよね?」
「えっ、嫌だけど」
何度言われようが絶対に嫌なんだが。
てか、凄いな。そんな事はあり得ないみたいな絶望の表情をしてるし。エクレアの頭の中には断られるという概念が存在していなかったみたいだな。
聞き方も手伝ってくださいねから、くれますよねってちょっと強制みたいな感じになってるしよ。どうしても俺に手伝わせてえみてえだな。
だが、断る。
「理由をお聞きしても……?」
「いや、だって俺の夢と全くと言っていい程そぐわねえし」
俺の夢は魔王を倒した後は女神イリステラから一つだけ願いを叶えてもらえる約束だ。その約束を使って、誰もいない俺だけの小さな島でも作って貰って、死ぬまで悠々自適に過ごすつもりなんだが。
ただでさえ魔王を倒すとか面倒な事してんだぞ。何で魔王倒した後にギルドの立ち上げなんていう面倒な事までせないかんのや。
魔王倒した後の事なんざ俺にはもう関係ねえだろ。後は世界の人々が好きなようにやってくれよ。




