酒豪の女の、かわいい言い訳
“酒豪”と呼ばれ、酒付き合いのいい女性。会社では、何かと重宝されますが、たまにはプライベートで「酔っちゃったみたい…‥」と言わせてみたいような、怖いような…‥。
2回ほど乗せたことのある女性が乗ってきた。たまたま共通の知り合いから、その人の癖を聞いていた。好奇心から、つい、声をかけてしまったタクシー・ドライバー。
「つかぬ事をお聞きしますが、斎藤さんは酒豪なんですって?」
「あっ、はっはっはっ!」
「山田さんから聞いたんですけど」
笑顔で応えた酒豪の斎藤さんは、アラサー。
「本当は、弱いんです」
「ええ? 弱いんですか?」
「ただ…、酔うんですけど、楽しくて。それでいて、気持ち悪くならないので、ついつい飲んじゃうんですよ」
「ええっ? それを酒豪というんじゃないんですか?」
二人で、大笑いになった。
「でも、翌朝は気持ち悪くて。そのときは、“もう、お酒はやめよう”って思うんですけど」
と、斎藤さん。
「でも、夕方になると元気になってきて、今朝のことなんか忘れて」
そこでよせばいいのに、タクシードライバーの一言。
「そうそう。そうなると、“どこのお店に行こうか? 誰を誘おうか”、と。それってまるで、オヤジですよね、斎藤さん!」
斎藤さんは笑って応えてくれたが、“これって、ともするとセクハラ?”と、タクシー・ドライバーは、会話にブレーキをかけた。
「斎藤さん。酒豪もいいけど、ときには、“お酒に弱い女”を演じなくちゃ。酔ったふりして、お目当ての男性の膝の上にヨロッと、行かなくちゃ」
と指南したつもりが、よけいにセクハラ?
「アッ、ハッハッハッ……」
と笑った後、斎藤さんは静かになった。“地雷を踏んだかな”と思ったが、後の祭りだった。