世界が僕を求めている! その瞬間を君と迎えたい
口説き文句で、これ以上の口説き文句はない。そんな口説かれ方をしたあとなのに、なんで、そうなるの?
六本木の星条旗通りからタクシーに乗り込んだカップル。
「飯倉片町まで」
と、超近い。星条旗通りから外苑西通りに出て西麻布の交差点から六本木通りに入り、六本木の交差点を右に。相変わらず、大渋滞。男性。
「世界が僕を必要としていると、今感じている。これは、現実のものになる。その瞬間を君と一緒に迎えたいんだ」
すばらしい口説き文句だ。こんな口説き文句を聞いたことはない。ましてや、想像したこともない。男として、最高の口説き文句じゃないか。当然、タクシーという密室ですから、口説き文句のあとはキスです。
そんな熱い口説かれ方をしたあとなのに、相手の女性が、
「運転手さん、混んでるわね。私だったら、すぐに六本木ヒルズの方へ右折して、赤羽根橋方面に出て、飯倉片町に出るのに」
と、冷ややかな声。対して男性は、
「運転手さんも、気を使ってくれているんだよ、僕たちのために」
と、すばらしいフォロー。
“この男性なら確かに、世界が待ってくれるでしょう”
と密かにタクシードライバーは感動。
一方、女性を一人で降ろした男性は、
「○○ホテルへ」
と、すぐ側のホテルの名称。“ホテルで一人暮らしなら、連れ込めば良いのに”と思うのは、下世話な考え。そうしない所が、さすがに、“世界が求めている男”なんだなと、タクシードライバーが一人で納得した夜でした。