わずかな違い
男と女が出会うと、永久の幸せを願いながらも、いつか別れがやってくる。“二人は感情で結ばれ、理屈で別れる”と、いわれるけれど……。
タクシーのドアが閉まり動き出すと、力なく彼女は言った。
「もう、生きるのに疲れちゃった」
女性の年齢は24、5歳。タクシードライバーは言った。
「よろしかったら、お聞きしますけど?」
彼女は何のためらいもなく、初めて会った彼に言った。
「フラれたの……」
「彼氏に? どっちが悪いの?」
「うーん、いつの間にか連絡が来なくなって」
「それは寂しいね。思い当たる節はあるの?」
「彼、ホストなの」
「それは難しいね。仕事だからね……、擬似恋愛は」
「……」
「私と付き合ってみませんか?」
「うーん、私、面食いだから」
というと彼女は、先程までの深刻な雰囲気から一転して、ケラケラと笑った。
「そっか」
そういえば一月ほど前の深夜の話だが、男がタクシーに乗ってくるなり初めて出会ったタクシードライバーに、男は涙ながらに、こう言った。
「話、聞いてくれますか?」
「どうなさったんですか?」
「僕、たった今、フラれたんです!」
「原因は?」
泣きじゃくる男に、タクシードライバーは聞いた。
「僕の浮気」
「うーん、私と付き合ってみませんか?」