アクティブな女とイケ面
ちょっと小悪魔っぽい彼女の誘いを男は静かにかわしながら、綺麗に自分の泊まっているホテルへと帰って行った。
「ねえ、泊まってるホテルに帰らないと、ダメ?」
「まあ……」
「荷物とか置いてあるから?」
「うーん」
「ちょっとだけでも、寄ってかない? 大丈夫よ。最悪、明日の朝イチでホテルに戻ればいいんだし」
「そう……」
時間は、深夜の1時をまわっていた。会社の懇親会で知り合った二人のようだが。
「君ほどアクティブな女に出会ったのは、久しぶりかも……」
男は、なかなかのイケ面で、仕事もできそうだ。女はというと、ちょっと小悪魔っぽくて、男をそそる。普通なら、「ねえ、ちょっと寄っていかない?」と女の方から声を掛けられたら、男は多少の問題は乗り越えて、とっとと女の誘いに乗ってしまうものなのだが、このイケ面は違った。
結局、女は根負けして、一人でタクシーを降りた。
タクシードライバーは、ノドまで出かかっているコトバを必死にこらえた。
『どうして、彼女の誘いに乗らなかったんですか。据え膳食わぬは男のなんとやらで』
男は静かに、自分のホテルの前でタクシーを降りた。なんら、動揺らしきものは感じられなかった。ただ、タクシーを降りるとき、
「あっ、領収書ください!」
と。動揺したのは、その瞬間だけだった。