ジャニーズA+B'=天職(二部構成“上の巻”)
タクシードライバーは、ふと思った。“この話は、前夜のあれとは立場は違うけれども……”。世の中、不思議なもので、同じ話題が2夜続いた。一夜目の女性の話、そして、2夜目の二人目の女性の話。(“上下”の二部構成)
深夜、繁華街から外れた場所で、一人でタクシーに乗り込んで来た女性。いつの間にか問わず語りで会社の愚痴を言い始めた。それが一段落すると突然、ポツリと言った。
「天職って、ないですよね」
タクシードライバーは、その独り言に答えた。
「いやっ、あると思います! 私、タクシーの前は週刊誌の記者をしてました。その頃、自分で“週刊誌の記者は天職だ!”と、思ってました」
すると、それまで愚痴ってばかりだった女性が一転して、嬉しそうに言った。
「私、学生時代。女優だったんです。テレビドラマにも出てましたし、CMにも出てたんです。それにギャラも、CM一本出演すると、その頃、60万円もらってました」
「それはすごいですね。でも、天職だとは思わなかったんですか?」
女性は一瞬、間を置いてから言った。
「その頃、学生だったんですけど、“この仕事は、一生続ける仕事じゃない!”と、思ったんです。それに、その頃付き合っていた男性がいて……」
女性の言葉が、沈みがちになった。
「男性が、仕事をやめろと迫ったとか……」
「相手からは言われなかったんですが、事務所がいろいろと……」
「そうですよね。事務所って当時はまだ、管理が厳しい時代でしたでしょうしねぇ」
「その頃付き合っていた男性って、ジャニーズの人だったんです」
元週刊誌記者のタクシー・ドライバーが、色めき立った。
「そっ、それって、誰ですか!?」
「いえません!」
「ヒント? 頭文字だけでも? お客さんの年齢から見て、相手はK・Tとか、K・Sとか?」
「ダメです。でも、芸能界にいたということが功を奏して、女優をやめた後、ある会社の秘書に採用されて。結構、いい思いもしましたし」
「そうですか」
「今度、近々、タワーマンションに引っ越すんです」
「そりゃあ、すごいですねぇ」
目的地に到着してタクシーを降りるとき、振り向いた彼女は小顔のスレンダーなボディーライン。化粧っけのない彼女だったが、まさに往時を偲ばせるに十分なスタイルだった。