小泉今日子と愛人と、カミさん
2年前に肺がんで亡くなったカミさんが、夢枕に立った。「これは、申し訳ありません」と、つい謝ってしまった私は……。
今日、夢を見た。死んだカミさんの夢だ。この半年で、2度目だったか3度目だったか。最近見るようになった。もしかしたら、もっと見ているのかもしれない。でも、この半年の間だ。
カミさんはマンションの部屋で、出かける仕度をしていた。
「あれ、どこに行くんだっけ」
仕度をしているカミさんに、声を掛けた。
「何言ってるのよ。いつもの透析でしょ!」
といった。「いつもの透析?」と私は、オーム返しに答えた。
「あの病院よ!」
そういわれれば、私は昨日も、その前の日も、透析の終わった彼女を迎えに行ったような、記憶が蘇って来たような気がした。
そこへ、「迎えに来ました」と、左足が不自由で、白いストライプの入った紺色のジャージ姿の男性が、カミさんを迎えに来た。カミさんは身支度を整えて、部屋を出た。マンションの玄関を出た先の茶色いレンガの塀の角を、カミさんは急ぎ足で回った。クリーム色のゆったりとした上着とスカートの上下。上着はフリースの素材のようだ。私は、その姿をベランダ越しにながめながら、
「何を悲しんでいたんだろう。カミさんは、いるじゃないか」
と、安心したところで我に帰り、目が覚めた。
カミさんは2年前の春先に、肺がんで他界していた。亡くなってから最近までずっと、夢になんて姿を現したことのなかったカミさんは、本当の“お別れ”を言いに来たのかもしれない。あわただしくお出かけの準備を済ませて。私は、そんな風に思うと、カミさんが夢に現れた意味を、なんとなく納得できた……。
本当のことを言うとその夜、カミさんの夢の前に、元アイドルで女優の、小泉今日子の夢を見ていた。
“なんで、こんなところに小泉今日子がいるんだよ”
と思いながら、笑顔で僕の方を見る彼女の隣りで、ニヤケた顔で添い寝をしていた。さらにそこへ、別れた昔の愛人も現れた。
「こんなところで、何やってんのよ。私という女がいながら」
そういって、私と小泉今日子の間に割り込んできた。そのあと場面が変わって、カミさんが姿を現したのだった。浮気性の私を一人、この世に残して。やっぱり、気がかりだったのかもしれない。
そんな心配性の彼女が、最後に、いつもの笑顔を見せに来てくれた……。ありがとう。