ダメ男、3番目の“B”
二人の女性がタクシーに乗り込むなり、話し始めた。「最近私、ダメなの……」「そうだね」と慰める女友達。そして、車中の会話は、思わぬ方向へ展開……。
「私、最近、全然、だめでしょ」
「そうだね。そういう日もあるよ」
「どうしたら、この状態から抜け出せるんだろ?」
「そうだね。どうしたら、いいんだろうねえ」
「あいつ、あいつ! 全部あいつが悪いのよ!」
「ホント ホント!」
「あいつに、“飲みに行こう?” って、メール送ったの」
「うんうん」
「そしたら、帰ってきたメールが意味不明。“今日は誕生日だから、前田も来るし、10時過ぎには行くよ!”。これって、意味不明!」
「ホント!」
「ただ、飲みに行こうって、メール送っただけなのに。“前田”って誰? “誕生日”って、誰の? なんで“10時に行く”のよ? だから、あいつに“メール、意味不明!”って、送ったの。そしたらメール、返って来ない……」
「意味不明……」
「私、知ってんだ。あいつ、私の友達とシチャッタこと」
「ええっ? どうして、わかったの」
「回りまわって、私の耳に入ったの。なんで、あの子なのよ。そりゃあ、酔っ払って、そうなったらしいけど。でも、あの子には彼氏がいるんだよ。それなのに……」
「酔った上でのことね」
「でもね。その後、ふたりで洋服を見に行ったりとかしてるのを、目撃されてるの」
「……」
「それだったら、どうして、その相手が私じゃないのよ。酔っ払って、私を誘って欲しかった!」
「はあっっっ……」
「先輩が言ってたんだけど、“ダメな男、3大B”って言うのがあるらしいの」
「ふむふむ」
「ひとつ目の“B”は、“美容師”。二つ目の“B”は、“ベーシスト”」
「ふむふむ。私は、“ベーシスト”に限らず“バンド・マン”でもいいと思うけど。で、3番目の“B”は?」
「わからない。先輩が、忘れちゃったの」
「なんだろうね、ダメ男の3番目の“B”って……」
タクシー・ドラバーの記憶は、そのポイントで機能停止状態に陥ってしまった。そこから、二人の会話の細かなディーテールは欠落している。ただひとつ、“ダメ男、3つ目のB”だけが、記憶装置の中でリピートされ、そこから進まない。
ついに“掟”を破って、タクシー・ドライバーが二人の女性に声を掛けた。
「すみません。もうすぐ、目的地なんですけど……」
「はい?」
二人の乗客は、声をそろえて、返事をして来た。
「ダメ男の三番目の“B”は、何なんでしょうか? 今晩、気になって眠れなくなりそうで……」
友達の女性が加勢してくれた。
「そうですよね。気になっちゃいますよね」
言った本人は、
「先輩が忘れちゃったもので、わからないんです。わかったら、お伝えします」
「そうですか。よろしくお願いいたします。もし、再び出会えたら」
「はい!」
と、返事は再び同時だった。
まもなくして、二人は目的地で、
「確かに、気になりますよね。また会えたら……。それまでに調べておきます」
「よろしくお願いいたします。私も、努力してみます」
といって、その場はお互いに別れたのだが……。