ガールズ・トーク2 ファイル名=「猿」
クリスマスの“イブ・イブの夜”。職場は同じでも、三人三様の人生を歩んでいる女性が、同じタクシーに乗り合わせた。
クリスマスの、“イブ・イブ”の夜、繁華街で3人の女性がタクシーに乗った。
「私って、身持ちの硬い人じゃない」
入り口のドア側に座った、3人の中で一番酔いが廻っている女性が言った。
「そうなの?」
中央に座った遊び人風の女性が“あなたのプライベートは、よくわからないけど”という雰囲気で、答えた。
「そうそう。だからそれを、開けてみて」
もう一人の、タクシー・ドライバーの後ろに座った女性は、流れて行く車外のビルの明かりに視線を泳がせながら、携帯電話に向かって、なにやら指示を出している。込み入った話のようだ。
「その私がよ、身持ちの硬い私が……。キスしちゃったの!」
「ふーん。そう。誰と?」
“よくある話じゃない。珍しくもなんともない”といった口ぶりで、遊び人風の女性が答えた。
「だから、その窓の中にファイルがあるでしょ。Nコンサルっていう……!」
携帯電話に指示出しをしている女性の口調が、だんだんと激しくなってきた。一方、そんなこともどこ吹く風の“身持ちの硬い”女性が続ける。
「彼がね、酔った勢いで、私にキスを迫ってきたの!」
「よかったじゃない」
否定的な遊び人風の女性。
「だから、“Nコンサル”のファイルを、とにかく開けてみて! “猿”じゃないって、Nコンサル。どこに“猿”っていうファイルがあるのよ。本当に!」
「彼が、オデコにキスを迫ってきたから、私、それを受けちゃったの!」
「彼のキスを受けたの、オデコで」
「そうじゃないって。唇で受けたの」
「そりゃそうでしょ。彼の唇が迫ってきたわけよね」
「そうじゃなくって。私のオデコにキスをしようとした彼の唇を、私の唇で受けたの」
「間違えて、唇で受けちゃったの」
「ううん。そうじゃなくて、私の方から」
「はあ?」
「“猿のファイル”なんてあるわけないじゃない。だからさっきから言ってるでしょ! “猿”はないって!」
「はぁーん? あなたの方から、オデコで受けたわけでしょ?」
「違うの。この身持ちの硬い私が、私の唇で、私のオデコに迫ってきた彼のキスを、積極的に、私の唇で受けに行ったの!」
「ふーん。よかったじゃない。間違えちゃったわけね……」
「この身持ちの硬い私が、何たる不覚! この身持ちの硬い私がよ!」
「だから、“Nコンサル”で、“社内の猿のファイル”じゃないって、いってるでしょ。もう!」
そんな3人に向かってタクシードライバーが、冷ややかな口調で言った。
「お客様。渋谷ですけれども、交差点の先にしますか、手前にしますか?」
遊び人風の女性が言った。
「交差点の手前でいいです」
もう、一人の“身持ちの硬い女性”が酔った勢いで言った。
「彼の家!」
もう一人の女性は、携帯電話に向かって、言った。
「猿の家!」