夢の続きを、ご一緒に
タクシーは、新宿から二人の男女を乗せた。男は途中で車を降りた。すると女は、タクシー・ドライバーを相手に、話始めた。夢の続きは、ご一緒に……。
靖国通り、新宿の大ガードから「中野方面に」といって、乗り込んできた男女二人。乗り込むなり二人はすぐに話し始め、仕事の人間関係の話に花が咲いていた。
「田所さんは人間的に問題があるんですよ、どう見ても」
女は40歳代半ばに思われる。こぎれいにしている。
「山田さんは2、3年前に生理があがったといってた。どうやらそれがもとで、精神的に崩れやすくなったんじゃないかな。やはり、生理があがるといろいろと支障が出てくるんだろう。君は、いつごろ生理があがったの」
50歳代半ばと思われる男の質問に、それまで快活に話をしていた女は黙った。
「運転手さん、中野坂上で一人降りて、そのあと中野通りの南台へ」
女は話題を変えるように、行き先を告げてきた。程なくして車は、中野坂上の交差点についた。男が降りて行った。車が動き出すと、女は話始めた。
「新宿で、歯医者の事務をしているんですけれどね」
「歯医者なら、この不景気は関係ないでしょ」
「そんなことないんです。多少の痛いのは、不景気でみなさん我慢するんでしょうね。患者は激減してます」
「そうですか」
「しかも、歯医者が馬鹿だから……」
「そうなんですか」
「どうせ、わたしは派遣だから、いいのよ」
「大変ですね。実は、私は小説家になりたくて。1年前まではライターの仕事をしていたんですが、不景気で食えなくなって。しかし、書くことは続けてるんです」
「頑張ってください。続けていれば、きっと夢が叶う時が来ますよ」
程なくして、車は南台に着いた。料金を払って車から降りるとき、私は女性の顔を見た。彼女も私の顔を確認するように、笑みを浮かべながら私の目を見た。ルームライトのオレンジ色の光に照らし出された彼女は40歳代半ばとはいえ、きれいな人だった。