1.5話 何その謎仕様
前回の話 : 魚うまっ
美味い魚にありついて、いい感じにお腹も満たされたぜ!
てことで、そろそろ出立しようかと思い、歩きだしたところだったのだが……。
「ボスー、ルビィ、なんかあついー。」
「えっ?」
ルビィが何か言い出した。
えっ? もう火の始末はしましたが?!
そのルビィの方を見ると、何だか様子がおかしい。
全体的に……薄ら光っている。
えぇ……なんなの……?
暑い? 熱い? 何? 何?! 急に!?
何光ってんの?!!
どゆこと?!
暑いと光るの?! 光ると熱いの?!
いやいやいやいや、そもそも何で狼が光るんだ?!
全くもって意味は分からないが、異常事態の様だった。
どうしていいものか、手をこまねいている内に、薄かった光は、次第に光量が増していく……
そして、ついには目も眩む閃光が、ルビィから放たれた。
真夏の太陽のような光に、思わず目を閉じる。
「おい、ルビィ! 大丈夫か?」
次の瞬間……
トサッという、軽い何かが柔らかい草むらにでも落ちたような音がした。
「ボスー。」
「ルビィ、大丈夫なのか?」
「うんー。でもー、ちょっとこまったー。」
え? 困ったって、何が……。
何とか眩んだ目を開けてみると……
ボヤけた視界の中に、全裸の美少女が……居た。
……はい?! どゆこと?
眩んだ目を擦り、再度確認してみる。
瑞々しく透明感に溢れた肌は雪のようで、陽に照らされて眩く輝き――
躍動感の溢れる、鍛えられているのであろう肢体は、程よく引き締り、健康的な曲線美を描きだしているが、そこに秘めらている可能性は、無限大にはち切れんばかり。
毛先に少しクセのあるミディアムヘアは白髪で、陽光に透けてクリスタルのように煌めいている。その光景は幻想的で、そして芸術的でもあった。
年の頃は14、5歳といったところだろうか。
まだあどけなさの残る顔立ちに、儚さと強靭さを宿している、赤と青のオッドアイの……美少女……が、やっぱりそこにいる……が……?
……よくよく見れば、ピンと立った三角の犬耳らしきものが……
尻の辺りからも、ふわっとしてそうな、上向きの大きなしっぽも生えている……
……
…………
「……え? ルビィ?」
耳だとか、尻尾だとか、オッドアイだとか……。
見覚えのある特徴が、有り過ぎる。
そして、やはり、そうらしかった。
「うんー。」
「え、ルビィ、変身とかするんだ?」
「んー。わかんない。」
「そうかー。わかんないかー。」
本人に分からんものが、オレに分かるわけがない。
一体何が起こったというのか……。
デカい狼だったルビィが、何故突然美少女に……?
てか、ルビィは美犬だった気がしてたけど、やっぱそうだったんだな。うんうん。あ、今は狼なんだっけ。
いやいや!そんな場合じゃない。
森の中で全裸美少女と二人きりとか、前世だったら逮捕事案だぞ。早く何とかせねば。
よし、困った時の、母神様頼りだな。
神スマホを取り出して、通話アプリ的なものをポチッとな。
「はいはい。どうしました?」
お、出た。いきなりだな。これ、呼び出し音とか無いのね。
てか、心做しか嬉しそうだな。声が弾んでる気がする。
暇だったのかな?
それとも、純粋にスマホ使いたかったのかな?
こっちは大惨事……いや、珍事が発生してる最中だというのに……。
「あー、全部話すと長くなるので、手短に。
大狼族って、変身とかするんですか?」
「大狼族ですか。大狼族は、成長すると、狼人……二足歩行になりますね。大体、生後30年くらいでしょうか。」
30年……だとすると、それじゃなさそうだな。
それに、単純な二足歩行になったって話じゃない気がする。
そもそも、シンザーリルとかもこんなんじゃ無かった。
もっと狼寄りだった。
今のルビィは、人寄りな姿をしている。
それに、性別がどうのって事でも無いだろう。
あの時治した負傷者の中には、女性も居たからな。
その女性も、狼寄りの姿だった。
てゆーか、普通に二足歩行の狼だった。
……どうしてこうなった!
「ルビィさんに、神食を与えたのですよね。」
こ、こいつ……! な、何故知っている……。
「彼女は、大狼族として随一です。将来的に、大狼の王となるべき個体でした。潜在能力が高かったのですね。
そのような彼女に、神食を与えた事で、神化し、神狼となりました。
神族の姿に近くなったでしょう?」
ええ……? そんな仕様なの?
「あぁ、はい。そう……ですね。
で、この姿のままなんですか?」
「神力の扱いに慣れれば、自在に姿を変えられるようになりますよ。
ちょうど神狐の民に会いに行くのでしょう?」
だから……何故知っているのだ……。
「神狐の民は、姿を変える事が出来る者がいます。
教えを乞うのもいいかも知れませんね。
ちなみに、あなたの神能での解決は、おすすめしません。折角の成長……いえ、神化ですからね。」
ふむふむ。リセット案件では無い、と。
むしろ、修行パートってやつっぽいな。
まぁ、それはそれで、有りといえば有りだな。
ルビィが強くなったりしたら、心強いしな。
「なるほど。ありがとうございます。」
「ふふ。ちゃんと見守っていますよ。」
通話終了ポチッとな。
……何か、最後不穏な事を言ってた気がするけど、まぁ今はいいや。
しかしまぁ、神化か。そういう事もあるのね。
何その謎仕様。よく分からん世界だなぁ……。
ふーむ。
付喪神的な感じなんだろうか。
んー……違うか?
ま、今はいいや。追々覚えますかねぇ。
「というわけでだ、ルビィ。」
上衣を脱ぐ。
「これを着るといい。」
簡素な布切れといったものだが、無いより多少はマシだろう。
きっと、おまわりさんも見逃してくれる筈。いないけど。
「きる? ルビィ、おおかみだから、ふくきないよ?」
おおん? なんですと? タイーホ待ったナシ?
いやいやいやいや……
「ルビィ、よく見てみな。
人……じゃないのか。神族っぽくなってるだろ?」
「なってる」
「神族はな、服着るんだぞ。」
「ええー! でも、ルビィわかんない!」
あ、着方、わかんないのか。
前世は犬、今世は狼だもんな。そりゃそうか。
大狼族も誰も服着てなかったしなぁ。毛皮だとそうなるか。
仕方ない。今日のところは着せてやるか。
今度練習だな。
「よし、こっちきてみな」
「はーい」
子育てを思い出して、ちょっとほっこりした。