2.26話 虹の舟に乗って
化物もとい、元女神フルーデルを無に帰したオレは、その結果報告として、クエスト発注元である巨人翁ガングのところに戻ってきていた。
「いやぁ、ガングさん。中々酷い目に遭ったよ。」
「ほっほっ。そのわりには随分と早い帰還じゃな。」
「早い……のか?」
「そうじゃな。儂らでは対処もしきれなんだやもしれぬしのう。助かったわい。ほっほっ。」
ガング老は中々にご機嫌な様子だった。
「ほれ、泉を見てみい。」
「ん?」
「水が戻り、虹が架かっておるじゃろ。」
ガング老は物凄く目線が高いワケなんだが……
まぁ言われた通りに目を凝らしてみると……
「お……ほんとだ。綺麗だなー。ニケ、見えるか?」
本当に虹が出来ていた。かなりハッキリした色である。
「うん。あれが虹? 不思議な色……」
どうやらニケは虹も見た事がないようだった。
むしろ何ならあんだよ。どんな悲惨な生活だったんよ。ちょっと悲しくなってきたぞ。
まぁなぁー。
荒廃しきったまま2000年を超えてるとかいう、このアースガルズになんか、何にも期待出来ないわなぁ。
ましてや元奴隷で、その前は寒村暮らしだろ?
代わり映えのしないところでしか、生きてこれなかったんだろうしさ。
まぁ他の星へ一緒に行くわけだが……本当にいいんだろうか?
んー。まぁ……いいんだろうなー。
聞いてもまた何か凄い事言われそうだからやめとこ。
「んで、ガングさん。ビヴロストの件だけど……」
「ほっほっ。忘れておらぬとも。まぁしばし待つのじゃ。段々虹が濃くなってきておろうが。」
「虹?」
「そうじゃ。虹の橋、ビヴロストじゃ。」
「え……まさか……?」
「ほっほっほっ。」
いやいや……まてまて。ほっほっほっじゃないわ!
え? なにかい? 化物が棲みついたから退治してくれって依頼、ビヴロストの修理的な話だったのかよ!
なーんか試練が〜番人に〜みたいな言い方してたけどさぁ……
そもそも通れなかったんじゃねーか! もったいぶってさぁー。
んー……まぁアレか?
虹の橋を直さないと渡れないって言い方だと、行きたい奴は必死になるからか?
試練だって事にして、やる気試しちゃった系?
ま、なんでもいいか。どっちにしろ、やるはやる必要あったんだしさ。
「で、ガングさん。オレたちは待ってたらいいわけ?」
「おお、そうじゃな。"虹を渡る舟"は儂らが用意しようとも。おーい! メニヤ!」
「あいよー!」
「泉に舟を出しとくれ!」
「あー? ……ったく。はいはい。わっかりましたよー!」
――ゴゴゴゴゴ……! と、地響きがする。
どうやらメニヤは寝ていたようだな。
起き上がるだけで地響きってなんなんだ。
ドガンドガンと足音が聞こえなくてもいいけど、嫌でも響いてくる。
あーもー! 巨人ってやつはよー!
もうちょっと小さめ種族に配慮してくれんかなぁー。
オレなんて軽いからイチイチちょっと浮くんだよ! お子様ボディがうらめし……い時もあるけど、便利な時もあんだよなぁ。
まぁ何事も一長一短ってな。
「あ、そうそう。ニケさぁ、この世界とはおさらばなワケだけどさ、思い残すようなことある?」
「え? んー………………? アタシは別に……というか、レイに助けられなかったら、死んでたわけだし……家族もいないし……特にないかなぁ。」
「そうかぁー。」
まぁ……そうなんだろうな。
「レイは、よかったね! やっと帰れそうでさ!」
「ああ。わりとかかったよなー。ニケには世話になったよ。」
「だからー! それは助けてもらったからだって言ってるじゃん!」
「HAHAHA」
「もー! はははじゃないってぇ……。いつもレイはそんな感じだよねー。もー。」
口を尖らせるニケを見ていて……
ひとつ、ふと思い付いてしまったんだが。
ニケは人間なんだよな。
このまま元気でいたとしても、そのうち老衰で死んでしまうんだよな。
オレは、それを見なきゃなんだよなぁ……。
前世で散々経験したけど、キツイんだよなぁー。
妹が死んだ時も、ルビィが死んだ時も、両親が死んだ時も……
他にも色々あったけど、とにかくキツかったもんなぁ……。
まぁ、神生始まってルビィに会えたのは素直に嬉しかったけどさ。
でもなぁー。よりにもよって、オレは長寿種族……
というか、多分寿命って概念無いよな、神族ってさ……。
何の因果なんすかねぇ……。
あー……
もしかして、そういう事か? 神族が他種族にドライな感じなの。
そう考えると、わりと納得だな。
なんつーか、自分に対して起こる問題なら、 どうとでも処理するけどさぁ。
そーゆー身内の寿命だとかそんな話は、中々割り切れないんだよなぁ。
「おーい! 長ぁー! 舟出しといたから!」
どうやらメニヤの作業? が終わったようだった。
「おおー! そうかぁー。ご苦労じゃったー!」
ガングは大声で答えていたが……
いや、そんなデカくなくても聞こえるんじゃない?
遠くから叫んでるハズのメニヤの声ですら、人が耳元で叫んでるくらいには聞こえるからね?!
近くにいるガングの大声なんつったらさぁ?!
わかるよね?!
音圧だよ音圧!
ソレ、指向性高めたらウィトの呀音みたいなモンだからな?
虫とか粉々になるやつだからな?
「う……レ……レイ……」
「ああ、うん。」
ニケは何とかアイギスの防御力的なモノで耐えれてはいるが……
キツそうだったから、治癒の神能かけといた。
「さて、では行こうかのう。乗るかね?」
ガング老は、オレたちの前に手を出した。
まぁ、巨人の掌の上に乗って〜とか、そうそう無いからさ? 乗りますよ? 乗りますともよ!
たださ、もっと加減ってモンをだなぁー!
……まぁもうオレは出てく身だからさ、言わないけどな!
ズシンズシンと爆音を奏でる、ガング老。
行けー! 巨大ロボ発進だー!
……ん?
いや、巨大ロボよりデカイわ、コイツら。
実物大ガンダ〇より全然デカイわ。
昔、お台場行った時に見たけど……比較にならんなぁ。
むしろコイツらには、アレがイイ感じのオモチャだな……。
「さぁこれじゃわい。」
ガング老は一歩がデカイので、当たり前だがすぐ着く。
「おお……? 舟……舟かぁ……。」
なんというか……
船頭船尾がやたらと反り返ったデザインの、随分レトロな舟らしき物体が、泉に浮いていた。
「ねぇ、レイ……あれ、どうなってるの?」
「……さぁ? ニケのタラリアみたいなモンじゃない?」
そう、舟は本当に浮いていたのだ。
水面ではなく、空中に。
「さぁ乗りなされ。」
「ああ、ありがとうな!」
「あ……ありがとうございます……」
ガングは掌を舟の横に着けてくれた。
ピョイっと舟に飛び移るも……
うーん。ぜんっぜん大丈夫。揺れない。
浮いてんのに不思議だぜ。中々しっかりした安定感である。
どーせこれも神族絡みのブツなんだろなぁー。
「うむ。では儂も……」
ん? 儂も……? とは?
――バッシャーン!!




