2.20話 巨人族の里
前回のお話:デッ……………
フェニヤに揺られて辿り着いたその場所は、この星に転移させられて以来、初めて見た光景だった。
「おお……。ニケ!起きろ!ほら、樹が!草が!生えてるぞ!」
灰色の空と、ひたすらに広がる茶色い荒野しか見て来なかった、アースガルズの風景。
そんな中で、やっと!やっと!緑の風景だ!
どうやら円形に広がる草原と、所々に生えている木々。
そりゃもちろんテイルヘイムの豊かな自然とは比べるべくもない。
だが……まさに砂漠のオアシスだ!
なんなら湖?池?っぽいのも遠くに見える。
興奮のあまり、オレはニケを無理矢理起こした。
「……う〜ん……。え……あ……、はっ?!巨人?!」
ニケはバッと飛び起きると、こちらを向く。
まだ少し呆けているようだ。
だが、ニケだってあんな風景見た事無いはずだからなー。
驚くぞー?くくく……
「ほら!ニケ!あれが樹だぞ!」
「え?!樹?なに?巨人は?」
「フェニヤなら、今乗せてくれてるぞ。」
「乗せてくれてる……?って……なに?」
状況を把握出来ずに、キョロキョロと辺りを見回すニケ。
「え?え……?て……手ェ?」
フェニアの手の上にいる事に驚いてしまったようだ。
……孫悟空かよー。
「そーだよ?フェニアに乗せてもらってんだ。中々出来ない経験だろ?はははっ!」
「え?……ああ、うん。レイの……いつものだね……。」
冷静になったのか、繰り出されるニケのジト目。
いやいや、だからそんな趣味ないんだってー。
フリじゃないよ?目覚めないよ?そんな趣味ないんだからねっ!?
「いつものってか、ほら、樹だって!樹!」
「えー……なに?あ……わぁ……!?何あれ?!緑……」
荒廃した大地の貧しい村から、戦奴隷となったニケだ。 綺麗な風景なんて初めてだろうさ!感動したらしく口元を両手で押さえているニケは、少女らしくて実にイイネ!
草原の池らしきものの北側には山がある。
それなりの大きさのようだな。
山は上の方は岩肌のようだが、麓の裾野辺りには、緑が広がっている。
その山裾辺り、湖の畔。その辺をフェニヤが指差した。
「あのへんがアタイらの住処さ。」
――
先に結論から言えば、"巨人族の里"は、無かった。
「おぉーい!メニヤ!ちぃと訳ありでな、番代わってくれよ!」
フェニヤが、"住処"と指差した辺りに着くと、デッカイ草むらの辺りに向かって、そんな事を言った。
――ゴゴゴゴゴ
「なんだいフェニヤ!またアンタサボりかい?アタシにばっかり押し付けんじゃないよ!」
地響きとともに女巨人が起き上がった。
そう、またしても普通に地面に寝てやがったのだ。
え、この星がベッドですってか?
そんなとこまでスケールデッカイんですねぇ。
住処って言うから、里の感じ想像しちゃったじゃないか!
これ野宿だろ!テントも無しでさ!
灰色空ホームレスってか?
自由でいいですねって言ってあげたらいいのかよ?!
「いや、違うって!ほんとに訳ありなんだ!ほら、こいつ!」
そう言って、フェニヤはオレたちをメニヤの目の前に差し出した。
姉妹か?名前も似てるが、顔も似てるな。
あと、そんな近くに持ってくなよ!逆に見え難くないのかよ?
「あ、オレ、レイリィ。アズ神族、ソールフレイヤのニルヴァ。よろしくね?」
ちゃんと見えてるかは知らんが、ニッコリと挨拶してやったぜ。
大人だからな!子供スマイルだがな!
「「はぁ?!」」
女巨人は二人してハモった。
ここはカラオケBARじゃないぜ?灰色空デュエットだな。
「ソールフレイヤって、創造の女神かい?!」
フェニヤが驚いてそんな事を言う。
「あー、そこまで話してなかったっけ。すまんすまん。」
女巨人2人は、しばらくそのデッカイ口をぽっかりと開けていた。
人間1人くらい住めそうな感じだなぁ、アレ。
「……な?メニヤ。訳ありだろ?そんな訳でな、長の所に連れてくんだよ。」
気を取り直したらしいフェニヤがそんな説明をした。
「あ、あぁ。分かったよ。交代してやるよ。」
メニヤは、ドスンドスンと爆音を上げながら、地面を揺らして歩いて行った。暴走族も真っ青だね。
――
「長ー!長ー!大変なんだよ、ほら、これ。」
「なんじゃ、フェニヤ。騒々しい。」
その巨大な爺さんは、巨人の背丈程もありそうな巨木に凭れ掛かって座っていた。
その場にはそぐわない、一本だけやたら発育のいい樹である。
自身の膝に頬杖をついて、片目だけ開けてこっちを見ていた。
例の如く、巨爺の目の前に差し出されるオレたち。
「あ、どうも。レイリィ&ニケです!オレがレイリィで神族、ニケは人間。よろしくね!」
「ちょ、ちょっと!レイ!?またそれやるの?オグマさんじゃないんだよ?!」
てへぺろ感をそこはかとなく出したオレにツッコむニケ。
ニケさんや、そこは、お笑い芸人かーい!って言うとこー。
ワタワタしちゃってー。可愛らしいじゃないのー。
「ほう……。神族とは。珍しい来客じゃて。儂はここの巨人たちの長老、ガングじゃ。して、こんな場所まで、何用で来なすったかね?」
「ああ、ルーキスナウロスって言う怪しい神族とやり合ってさ。うっかりこの星に飛ばされたんだよね。だから帰りたくてさ。マールズに聞いたらビヴロストに行けって言われてさ。」
「ルーキスナウロス……。」
「ん?なんか知ってるのか?」
「いや……。ビヴロストを使うにはな、儂を納得させてもらわんとならんのじゃがな。ふむ……ちょうどよいな、あれでよいか。」
そう言うと、
――ゴゴゴゴゴ
と地鳴りを伴い立ち上がった。
もうさ、いいんだよそれ!
そんな演出要らないっての!
いちいちうるさいし、揺れるんだよ!
「あの山にはな、元々その湖に流れ込む川があったのじゃが……少し前から、川の水が流れて来ぬようになった。」
巨爺ガングは、山の中腹辺りを指差す。
「あの辺に、化物がおるようでな。水を堰き止めでもしておるのじゃろう。退治してきてくれ。さすれば、ビヴロストを渡れるように用意しよう。」
あらあら?お使いクエストじゃないんですかコレ?
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