2.17話 目指せ!ビヴロスト
今更ながら、続きを書いてみました。
「な、なんだって?!ちょ、ちょっと待ってくれ!」
うん。まぁ、こうなるだろうとは予想していた。
愕然とした様子の眼前の男は、その容姿には似つかわしくなく、力無い瞳を崩して、立ち尽くしている。
わなわなと震えるその両手は、掌が上向きに開かれ、何かを掴むかの如く、時折わきわきと動く。
そのぎこちなさを見るに、どうやら中々の力が込められているみたいだ。
でもな、空気は掴めないんだぜ?
「お前達、二人とも……辞めるだと?!」
目の前の男……オグマ団長は、オレの言葉を受け、お顔真っ赤という言葉がぴったりな感じで、聞き返してくる。
その表情は驚きのあまり、もう目が飛び出しそうである。
うん。こんなオモチャ、あったかも。
懐かしいやら面白いやら。
なんというか、ドラマやら映画やらの中くらいでしか見ないような顔だな。
こういうのを、狼狽とでもいうのだろう。
そんな感想を抱いている間に、団長の顔色は、赤から青へ。
すごいなぁ。人ってこんなカメレオンみたいになるもんなんだ?
オレも色々あったけど、こんなんだったんだろうか……?うーん。
「何が不満なんだ?!報奨金も、かなり稼いでいただろう?!」
「うん。おかげで、路銀には事足りるよ。」
「ろ、路銀……?どこか行くのか?!」
「ビヴロストってとこ。」
「な、なんだって?!」
その名前を聞いて、オグマ団長は顔色を白くした。
三段変化である。イルミネーションも真っ青だな。
「あんな危険地域に何をしに行くんだ?!」
「何って……」
んん?今、危険地帯とか言ったか?
……有名スポットなんだろうか?
マールズの金野郎はそんな事は何も言って無かったが……。
まぁ、どの道そこに行かないと、帰るに帰れないんだしな。
危なかろうが何だろうが、我は往く!
こんなメシマズ星、出てってやるんだからねっ!!
「帰るんだよ。」
「帰る?!ビヴロストにか?!」
あー……。
オグマ団長には、オレの素性については一切説明してなかったな。そういえば。
そりゃまぁ、納得もし難いというものか。
話して良いものかどうか、よく分からんけど……。
んー。しばらく世話になった訳だしな、ちゃんと説明しますかね。
「いや――」
それから数分。
オグマ団長に、オレの素性を説明した。
……うん。失敗だったかも知れない。
最早この男、向こう側が透けそうな勢いだ。
そんな酷い色をしながら、両膝を地に付けてしまっていた。
「し……知らぬ事とはいえ……!か、か、か、数々の無礼……な、な、なな何卒!何卒……!」
拝むな拝むな!だから言いたく無かったのに。
その土下座っぽい格好、万国?共通なんですかね……。
「オグマ団長。ひとつ良い事を教えてあげよう。」
「……はっ?」
「神に祈るのって、無駄なんだぜ?」
前世でも今生でも、それは本当にそう思う。
この世界は特に。
――
オグマ団長……というか、傭兵団の皆に別れを告げた後。
宿屋のオヤジにも挨拶をして、街を出た。
そして、オレとニケはひたすらに歩を進めていた。
目指せ!ビヴロスト!
ってな感じでテンションを上げたいのだが……ちょっと難しい。
何故ならば、風景もつまらない荒野だからだ。
こんな場所は、急ぐに限る。
「ねえ、レイ。」
「ん?」
黙々と歩くのにも飽きたのか、ニケが不意に口を開く。
「傭兵団の皆、大丈夫かな?」
「あー……。まぁ、大丈夫さ。置き土産もしたしな。」
おそらく、今生の別れとなるであろう傭兵団の面々。
なんやかんやと世話にもなったと思う。
さすがに、あっさり死んで欲しくは無かった。
そんなワケで、団長の鎧と剣は、神具にしてきた。
「クーレンマトン?と、サテンカーリィ?だっけ。」
「そうそう。わりと雑に名付けたけど……結構立派な感じだったよなぁ、アレ。」
「うん。強そうな感じだったというか、あ!前見た派手な人のより立派な感じ!」
この星に飛ばされて、通話が使えなくなった神スマホ。
でも、何故か検索やら翻訳やらの機能は生きていた。
よくよく考えれば、電波的なもので繋がっているかも怪しいのだが……まぁそれはいい。
とにかくオフライン的に使用出来た機能でポチッとな!
して付けただけの名前。
とはいえ、ニケの装備程では無いが、人間相手には負けないだろう性能はありそうだった。
……オグマ団長は、考え無しに突っ込むからなぁ。
それくらいの装備をしてないと、すぐ神々のエサになりそうなんだよなぁ。それはなんとも忍びない。
殺し合いを推奨するつもりは更々無いが、彼らには少しでも長生きして欲しいのだ。
この世界――アースガルズでは、余程の位に居ないと、老衰では死ねないそうだ。
生活水準も低ければ、環境も劣悪。
治安って何?って感じだし、そもそも毎日が血みどろの戦争だ。
教育と呼べるものなんて無いし、唯一ある神の教は、"戦って死ね"だ。
神か……。
オレは、ちょっと前に神族になった。
それは、やはり特別な存在らしかった。
だが、オレとしては……
前世で抱いていた神という存在のイメージからは、想像も出来ないくらいに、無力感が凄い。
ルーキスナウロスに負けた事とか、この世界に来てからだとか……。色々思うところがあるな。
まぁ、この世界を救うだとか変えるだとか――そんな大それた想いは無いけどさ。
なんだかなぁ。
茶色と灰色しかない暗い景色には、やはり辟易とするものだ。
そんな中を徒歩で長距離移動だと、どうしても気分は鬱々としてきてしまう。
体力的にはどうという事は無いのだが……。
でも、そんな時に物思いに耽ると、あまりいい考えは浮かばない。
振り返っても、アーサの街は影も形もとっくに見えない。遥かに映る光景は、砂塵か黒雲か。
こんな環境下。
オレは平気でも、ニケはそういうわけにもいかないだろう。
「ニケ。そろそろ休憩するか。お腹空いたろ?」
「あ、うん。」
そう言いながら辺りを見渡すと、少し小高い岩山がいくつかある。
その中に二つ、何だかいい感じに円形のベンチのような……謎の人工物?らしきものがある。
その円形の岩は中央がまた一段高くなっていて、背もたれのようにも使えそうだ。
よし。あれにしよう。
「よっ……と。」
軽いクライミングを経て岩のベンチに腰掛けると、小高くなっているだけあって、中々に見晴らしが良い。
しかしながら生憎、素晴らしい景色とは言い難い風景しか映らないが。
さてさて。
今日のメニューは、カッチカチのしょっぱい干し肉を萎びた野菜っぽいモノとスープにして~……
はぁ……。
傭兵団ではそこそこ稼いでたんだけどなぁ。
こんな食材でもまだマシな部類なんだよなぁ。
ロクな食材が無いからテンションは低目。
鼻唄も出ないぜ……。
手際良く石組みをして薪を組み、煉華を抜く。
サッと一振、楽々着火!鍋には雪月花で水を貯め……
――ゴゴゴゴゴ
突然の地響き。
「え?なに?揺れてる?」
ニケが慌てる。
オレはまぁ元日本人だからね。
これぐらいの地震なんてさ……って、転生してからは初めてだな?
珍しい事なんだろうか?
まぁいいや。料理の続きをだな……??
「あ゙ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛っちぃいい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!」
という、とんでもない爆音と共に、オレとニケは空を飛んだ。
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