2.16話 軍神マールズ
前回のお話: 金閣寺より金
煌びやか……というか、悪趣味というか……な、廊下の突き当たり。
これまた悪趣味な彫刻の施された巨大な扉があった。
わざわざギラギラと光るように角度調整された小さな模様に囲まれた、よく分からんマッチョマンだ。
その扉の前で戦乙女は、ピタリと足を止めた。
「マールズ様。来客でございます。」
「おお、そうか。入れ。」
戦乙女が、壁のボタンを押すと、
『ゴゴゴゴゴ……』
と、重そうな音を立てて扉が開いた。
自動扉とは、やるじゃないか。
何で動かしてんだ?お得意の神力かな?
まぁ多分そうだろ。
「どうも。レイリィ&ニケです!失礼しまーす!」
「ほう。お前が……む?」
扉の中に居た男は、人の様な見た目ではあるが、存在感がだいぶ濃い。
そして、顔も濃い。
金髪金眼、黄金の鎧を身に纏い、腰には剣……柄は金色だ。
どんだけ金が好きなんだ。金太郎って呼ぶぞ。
肌には金粉塗らなくていいのか?
なんなら金箔貼るくらいでもいいぞ。
「お前、人ではないな?」
「あれ?何故バレた。」
軍神マールズは、値踏みする様に上から下まで見回している。いやん。そんなに見ないでぇー。
「神気が漏れているぞ。見ない顔だ。アズ神族か?」
「……まぁ、そうっすね。」
目の前の金尽くしは、オレの冗談はきっと通用しないんだろうという、ピリついた空気感を出してくる。
敵対勢力なのか??
「何故、アースガルズに居る?協定に反するだろう?」
「協定??」
協定とは?なんかあんの?そーゆーの。
つーか、アースガルズっていうのか、ここ。ふーん。
やっと星の名前判明だなぁ。長かった。
「我らアズリア神族とアズ神族は、深く関わらぬ、住み分けるという協定であろうが。」
「あー、オレ、生まれて半年経って無いくらいで。あんまりこの世界の事知らんのですよ。
つーか、ここに居るのは、ルーキスナウロスっていう怪しい神族に飛ばされたというか。転移させられてね……。不可抗力ってやつです。
だからまぁ、早く帰りたい訳ですよ!」
「転移……?そうか。まぁ、それはいい。
その人間は、なんだ?アースガルズの者だろう?」
軍神マールズは、ニケを顎で指す。
ニケは、小さく悲鳴を上げていた。
まぁ、このオッサン迫力あるよね。
「なんだ、とは?」
迫力に気圧されないように、精一杯低い声を出す。
どうにも子供ボイスは、迫力を出しにくい。
「どういうつもりで連れているのだ?其れは我々の贄だろう?」
「贄?」
「なんだ、そんな事すら知らんのか……。
アースガルズはな、アズリア神族の支配する星だ。
我々は他の星に手出しをしない。だからここでのみ、自給自足をしている。人間の魂、経験を神食に変えてな。この世界の物は、全てが我らの贄だ。勝手に持ち出す事は許されんぞ。」
こいつ……ニケの前で何言っちゃってんのよ?!
ああ、ほら!ニケがすっかり青い顔してるじゃないの!
少しは言い方ってもんがあるだろ!
オレも得意じゃねーけどさ!ちっとは考えたらどうだっての。
金太郎め。
「あのさ。このニケには、世話になってるんだよ。知らない世界に飛ばされて、ワケも分からず途方に暮れてた時からな。だから、その恩を返す為に一緒にいる。何の為にってんなら、そういう事だ。贄だか何だか知らんが、ニケを死なすつもりは無い。」
ずいっと一歩前に出る。
気持ち的にはいつでも抜刀オーケーだ。
こいつがどんな神能持ってんだか知らんがな。
即死しなけりゃどうとでもなる!
「なんだ?アズ神族の一員ともあろう者が、贄などにご執心か?その神気……、我と争う心算か?」
軍神マールズの眼光が鋭く射掛かる。
たが、気圧される訳にはいかない。
精一杯の気合いを込めて跳ね返す。
こいつが話し合いの出来ない相手なら、やるしかない。
「必要ならな。」
刀の柄に手を触れると、マールズは、込めた力をふと緩めた。
「ふはははは!贄の一つや二つでこの宮殿を壊されては適わん。土産に暮れてやろう。」
「そっか。」
物扱いは気に食わんけど、まぁ戦わずに済むならいいか。
オレはこの世界をなんとかするためにここにいるんじゃない。
この世界から出るためにいるんだしな。
「ああ。アースガルズから出たくば、ビヴロストを目指せ。」
「ビヴロスト?」
「虹の橋だ。」
「え、虹?の……橋?!」
何それ?!渡れるの?!落ちるんちゃうの?!
あー……
なんか、そんなような話、神話かなんかにあったっけなぁ……。
「ああ。渡るには番の者の許可がいるがな。」
「番?」
「そうだ。アズ神族など、この星にこれ以上関わらせる訳にはいかぬ。早く行くがいい。」
いや、オレも普通にさっさと出たいよ?こんなとこ。
お前らの常識、理解不能だもんよ!言われるまでもねーよ!
「で、そのビヴロストって何処にあんの?」
「アーシアからは、東だ。行けば分かる。」
マールズは、蝿でも追い払うかのように、手をヒラヒラと振る。
余程オレと関わりたくないようだな。
まぁ、同感だ。同感だよ。
オレもこれ以上関わりたくもない。
とはいえ、情報がざっくりでふんわりだなぁ……。
そこまで親切にはしてくれないわな。
敵対というか、アズとアズリアは距離を置いているらしいからなぁ。
仕方ないね。
「邪魔したね。早々に出てくよ。」
「ああ。是非ともそうして欲しいものだ。」
終始一貫して和やかムード……にはなれず、部屋を後にした。
まぁ、分かり合えないなんて、普通にあるわな。
――
「レイ……、アタシ……迷惑だった?」
宮殿から出ると、ニケは非常に落ち込んだ様子だった。
「迷惑とは?」
「アタシのせいで、マールズ様が……」
「いやいや、そんな事より、アズ神族が嫌われてる感じなんじゃない?あれ。
まぁ、オレだって別に好き好んでアズ神族やってるわけじゃないけどさ。なっちまったモンは仕方ないよなー。」
差別というか、人種間や国家間の争いや悪感情なんて、前世だっていくらでもあった話だ。
多分、意志を持ってる生き物は、そんなもんなんだろうな。
仲間意識や、防衛本能みたいなものが、そんな風に働くんだろうなぁ。
「あ……。ん……。」
そんな事を考えながら、無意識的にしょぼくれたニケの頭を撫でていた。
いかんなぁ、つい。ルビィみたいに扱ってしまう。
遠い昔、家族が居た頃……妹や息子にもこんな感覚だったかも知れん。
人間に対する感情が、だいぶドライになった気がするけど……この辺りは、人間だった頃とあんまり変わってないのかな。
今生こそは、幸せな生活ってのを創り上げたいんだが、こういう変化って、プラスになるのかマイナスになるのか、分からんな。
まぁ、とりあえず。
ビヴロストとやらを目指しますかね!
ありがとうございました!
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転職による環境の変化で、執筆が遅れます。
ご承知置き頂けると幸いです。




