2.13話 スルーズ砦攻略
前回のお話:それは作戦とは言わねぇ
スルーズ砦は、元々はアーシア側の砦で、その領内にあるが、現在エネーアに攻略され占領されてしまっていた。
アーサの街からも徒歩三時間程度の距離で、エネーアの攻撃拠点として押さえられてしまっている今、アーシアにとっては脅威以外の何物でもない。
エネーアが本気でアーサを攻めるつもりなら、手薄にする筈がないだろう場所だ。
オグマ傭兵団の今回の任務は、その奪還だった。
「ニケ先輩よー。ちょっと聞きたいんだけどさぁ……。」
「なに?……先輩じゃないけど。」
「聞いてる感じ、あの砦、重要拠点なんだろ?」
「そうみたいだね。」
「だったら何で、たった100人の弱小傭兵団に任せるんだろね?」
「……だからじゃないかな。」
だから……?ってのは、アレか。
オグマ団長が言ってた玉砕特攻作戦か。
要は捨て石なのね、傭兵団も。
扱い的には戦奴隷と変わらないのな。
一人一殺で、後は本隊にお任せなのか、とにかく後続部隊に任せて逝けと……。
むー。
なんつーか、人死にを狙ってる感すらあるな。
アーシアの正規軍ってのがどんなモンか知らないが……
ロクなモンじゃ無さそうだ。
まぁいいさ。上の思惑なんざ。サクッと片付けよう。
砂塵の舞う荒野に、石造りの壁に囲まれたそこそこ立派な砦がドンと構えていた。
オレとニケは、予定通り白旗を振りながら近付いて行く。
時折、キラッと光が反射しているようだ。
多分、望遠鏡か何かで見てるんだろう。
門前までは、攻撃される事も無く辿り着く事が出来た。
砦の門は、アーサの街の門くらいのサイズで、あまり大きくは無かった。
堀も無いので、跳ね橋でもない。開き戸って感じ。
イメージ的には、堀くらいあった方が防衛し易そうなんだがな。
まぁいい。
ちゃちゃっと仕事を終わらせて、給料貰わないとだぜ。
――ドンドンドン!!
門をノック。
というか、デカい音が立つように叩いた。
「ちゃーす!みか〇やでーす!」
「えっ?!レイ、何言ってるの?!」
「御用聞きだ。」
「……え???」
うむ。
通じる訳は無いのは分かってるさ!ちょっとやってみたかっただけだ!
……しばらく待ってみたが、反応が無い。
どうやらスベったみたいだ。
むう。ピザの方が良かったか?いや、今はウーバーかな?
はっ!まさか、デリ……
――カチャ
「何者だ?」
再び門を叩こうかと悩んでいたら、横の小窓が開いた。
そっちかよ。
「なんだ、いるじゃないっすかー!誰も居ないのかと思いましたよー!」
ヘラヘラとした感じで話しかけると、冷たい返答があった。
でも気にしない。だっておとこのこだもん。
「何者だと聞いている。」
「ああ、傭兵団の使いの者ですよ。兵力補充の提案に来ましてね。こちらの代表の方とお話出来ませんかね?」
小窓に向かい、手を差し出す。
中にはもちろん小銭を握り込んでいる。
男ならば一度は憧れる、バニーの谷間にチップ攻撃だ!
……どう見てもオッサンですが。ホントウニアリガトウゴザイマシタ。
番兵は、小銭を受け取ると、
「チッ。少ねぇな。まぁいい。傭兵団の使いだったな。待ってろ。」
と、再び小窓を閉めた。
「レイ。」
「ん?」
「大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。いざとなったら、アイギスと勝利の剣を展開して、タラリアで逃げな。」
「レイはどうするの?」
「いや、オレは大丈夫だからさ。気にしなくていいよ。最悪、この規模の砦なら、砂に出来るだろうし。まぁ、怒られそうだから、やらないけど。」
そんな事を話していたら、通用門が開いた。
「大将がお会いになるそうだ。入れ。」
「お、そりゃありがたいっすね!」
――
案内された部屋は、砦最上階の最奥の部屋だった。
下手な事しても逃がしまへんえーってやつですかね。
こちとらお金が必要なのでね、逃がしまへんえ?
「傭兵団の使いだったな。売り込みか?」
大将とか言われてた男は、山賊風味が漂うモサくて下卑た感じの悪党面だった。
その瞳はドロッと濁り、光も無い。
声も声で、低く嗄れてドスが効いている。
中々の迫力である。
まぁ、そらそうか。普通に殺人鬼だもんな。
その迫力に気圧されたのか、ニケは隣でカタカタと、小刻みにアイギスを鳴らしている。
「はい。傭兵団の使いです。レイリィといいます。」
「そうか、レイリィ。俺ァはボッズだ。要件を聞かせろ。」
「これはご丁寧に。ボッズさん。今回の要件は――」
ボッズまでの距離は僅か2m。
流石に砦を取り仕切る立場にあるだけあって、胴体部分はフルプレートの甲冑を着込んでいる。
だが、ただの鉄など、神力で身体強化したオレには、精々が厚紙って感じだ。
一足飛びに飛び掛って羽交い締めにする。
「な……何をしやがる……!?」
「いやぁ、この砦の全面降伏を求めようかなーとね。素直に従ってくれた方が、この砦の全員幸福だと思うよ?」
「な……何者だ……?!」
「何者って……あぁ、オグマ傭兵団だよ。オグマ傭兵団の使い。」
「オグマ傭兵団だと……?聞いた事もねぇ……。」
あら。弱小傭兵団は、やっぱり無名だったらしい。
「で、お願い……聞いてくれるかな?!」
「チッ……な……何がお願い……だ……!」
あらぁ……いいともー!って言ってくんないや。
「殺るなら殺れ……!軍神ティーウ様に!魂を捧ぐ!」
「え、それ、この砦全員そう?」
「当然だ!」
うーむ。なんだか頑固だな。仕方ない。
どれどれ……
神力を込めて、思考を探る。
こういう思想というか、精神的な事は、肉体的な情報を探るよりも難しいのだが……
んんんー……
お!この辺りだろうという所を発見。
宗教的思想っぽい記憶。これが今の価値観作ってんだろ。
というワケで、まるっとリセット。
……どうだ?
「うぐああァー!!」
ボッズは何だか苦しそうに呻いた。
むう。やり過ぎたかな?
しばらくすると、ボッズは呆けたようになったが、ぶるぶると頭を振り、正気を取り戻した。
「レイリィと言ったか?……アンタ、一体……俺に何したんだ?!」
「まぁ、何したとかはいいじゃん。で、この砦全員降伏、どうすんの?お互い……その方が楽だと思うんだけどな?」
パキッと、ボッズの甲冑の胸部分をへし折って剥がす。
大した抵抗感も無く、まるで障子紙に穴を開けるかのようだ。
うーむ……。オーガにでもなった気分だな。
「ひっ……!わ、わかった……。あ、アンタに降るよ……!」
「いや、オレじゃなくってさ、オグマ傭兵団にな。」
「ああ……ああ……!言う通りにする……!頼む!離してくれ!」
あ、しまった。神力出し過ぎてたかな。
ボッズがすっかりチワワみたいになってるな……。
「んじゃ、ボッズ。すぐに全員に通達して、出迎えの準備な。一人オグマ傭兵団本隊に伝令も頼むな。」
「は……はいぃ……!」
ボッズは怯え切った様子で、椅子やテーブル、はたまた壁にも散々ぶつかりながら、ガチャガチャと音を立てて廊下に消えて行った。
「ねぇ、レイ。」
「ん?」
「本当に……何したの?
あんな怖そうな人が……」
「何って……降伏勧告だな。作戦通りだろ?」
ニケに向かってドヤ顔で親指を立てる。
ニケは、そんなオレに、
「人質作戦じゃなかったのー?」
と、ツッコミを入れて笑った。
そうそう。
こんな地獄みたいな世界だけど、少女は笑ってナンボだよ。
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