2.12話 初仕事
前回のお話:オグマ傭兵団に加入
「よし!集まったな!」
オグマ団長は、馬に跨って、団員達を満足そうに頷きながら見渡している。
「では、本日からの任務の説明を開始する!
先ずは――」
総勢100名。オグマ傭兵団、出陣である!
って感じなんだろうけどさ。
少なくない?ねぇ、これ少なくない?
ニケが居た戦場……100人くらい、二秒くらいで肉塊になってたよ?
戦場に赴くにしては、100人は少ない気がするが、さすがに傭兵団の拠点には入り切らないので、広場での集合、そして整列させられてる訳なんだが。
なんというか……見送りの人とかも全く居ない。
傭兵って、そんな感じなの?
千羽鶴とか、たくさん針の刺さった布とか、渡されたりとかしないの?
駅のホームで、見送る家族や恋人は居ないのぉー?
まぁ駅とか無いんですがね。鉄道無いっぽいし。
ってか、馬はいるんだな。
団長と副長しか乗って無いけど。
ふーむ。
馬かぁー。馬、カッコいいよなぁー!って言ったら、ルビィやアマネに怒られそうだが、馬はカッコいい。
赤兎馬とか、黒王〇とか、松風とかに乗ってみたい。
てか、角生えた馬とか翼生えた馬とか居そうだよな、この世界。そんなのでもいいな!
まぁ、ちゃんと乗馬出来る気はしないがな!そんな技術は持ってない!
てなわけで。
今日オレは足軽気分で歩兵をするのだ。
隣にはニケ。
昨日買った剣は、宿に帰ってから即神改造しておいた。
魔改造では無い。神改造。
その名も"勝利の剣"!
伝説通りに働いてくれるなら、中々の性能だと思われる。昨日チェックした時は、まぁ大丈夫そうだった。
「ねぇ、レイ。」
「ん?」
「アタシたち、ちょっと……浮いてない?」
「いや、ニケ。今飛んでは無いぞ?ちゃんと地に足着いてる。」
「いや……そうじゃなくてさ!装備、派手過ぎない?!」
えー……?そうかなぁ……?
チラリと自分の格好を見る。
派手……というか、まぁ、和装だな。
腰には立派な意匠の大小を、背にはこれまた素晴らしい意匠の野太刀が。
まぁ、刀三本持ち歩いてるのは珍しいかもなぁ。
確かに今のところ、こんな格好してる奴に会った事は無いかも。
前世なら……まぁ、それっぽい人は見た事あるけど。
ニケはというと……
昨日お立ち台に登ってた派手な奴よりは、ギラギラはしてないけど、薄青銀色のアイギスは、貧乏そうな装備ばっかりの傭兵団にあるまじきものではあるなぁ。
何だか綺麗な感じだ。
んー。思い返せば、ニケも初期装備は酷かったもんなぁ。
ボロボロの頼りない感じの甲冑だった。
この傭兵団の誰よりも酷かっただろう。
まぁ、奴隷だってんだから、そらそうかって話だけどさ。
ん。まぁ、大丈夫だ。ちょっと個性的なだけだ。
身を守る装備は良いに越したことはない。
「ニケ。大丈夫だ!似合ってるぞ。」
「うぇ……?!ち、ちが、そうじゃなくて……!」
ワタワタと焦るニケは中々良いね。
見てるとちょっとニヤニヤしてしまうな。うむ。良き!
ま、冗談はさておき、安全第一だよな。
態々少女がだよ?あんな地獄みたいな戦場に行くってんだから。死なない装備は要るだろ。
なんてバカバカしいやり取りをしていたら、いつの間にかオグマ団長の話は終わっていた。
ふっ……。聞いて無かったぜ。
どこ行くんだろなー。ま、ついてったらいいよね。
「オグマ傭兵団、出発!」
オグマ団長は、傭兵団全員に向け気合いを入れるように声を張り上げた。
馬を駆り、先頭を進み、南門を抜けていく。
その姿は、中々に堂に入ったものだ。
だが、所詮は傭兵団。
後に続く兵達は、士気も低ければ、隊列すら守れない者すら見受けられた。
そのまま南へ三時間程進むと、オグマ団長は馬を止めた。
「皆、あの砦が見えるか。あれがスルーズ砦だ。我々100名で落とさねばならん。敵方は300人程が篭っているようだ。」
おっと?
100人で砦を攻めるんじゃなくて、落とすの?
え?無理だろ。半兵衛だって無理だぞ、多分。
「団長。ちょっといいかな?」
「む。レイリィか。どうした?」
一応他の団員に聞かれないように、少し離れる。
手招きをすると、オグマ団長も馬を降り、こちらにやってきた。
「や、作戦とかあるの?」
「おお、あるぞ。」
オグマ団長は、自信満々といった様子で頷いた。
「あるんだ?どんな?」
「正面突破だ!騎兵と足の速い者を先頭に配置して、門を打ち破り突入する!」
……ハァ?
馬 鹿 な の ?
それは作戦じゃねぇんだわ!
それを作戦とは言わねぇんだわ!
え?!マジで言ってんのかな?オレからかわれてる?!あ、そうかそうか。
からかわれてたんだなーそうだよねーそうかそうかー。
うんうん、それなら納得……
「どうだ?お前も中々やりそうだし、稼ぎたいなら先頭に立つか?」
出来ねぇわ!おかしいだろ!
いやさ、そりゃオレは平気だよ?神力MAXで行けば余裕さ!そりゃな!
でも、ここにいる大体の奴等は死ぬぞ?
まさか……平原の戦場って、こんな感じのノリだったのか……?
行けー!突っ込めー!
ワー!ワー!どーん!
死ーん。
だったわけ?!
いやいやいやいや……はぁ?!
「団長……。」
「ん?」
「それは……ちょっと難しいんじゃないかい?」
「そうか?普通だろ。」
あぁぁ……カルチャーギャップ?!萌えないやつキタコレ?来なくていいよォー!!いらねぇよー!!
「団長。それじゃ死傷者多過ぎて、また補充大変だろうよ。もっとさぁ、死傷者減らす事考えた方が良くない?」
「ふむ。確かに、募集は大変だな。
……何か良い案でもあるのか?」
丸投げキタコレ。ブラック上司かよ。
散々そんな目には合わされたから慣れてるけどさァ……。
とはいえだ。
戦争だとか、殺し合いだとかは未体験ゾーンなんだよ!
んー。まぁ、ちょっと考えるか。
……。
…………。
………………よし!
「使者を立てよう。」
「使者?」
「うん。オグマ傭兵団を雇ってくれよーって。」
「雇……ってだと?もう依頼主は居るが?」
「いや、良いんだよ。敵の頭に会ったら、捕まえてだな、降伏させたら良いだろ。」
「な、何だと?!そんな卑怯な真似……」
「正面衝突して、敵味方めちゃくちゃ死ぬよりは良いだろ。」
「名誉ある死を迎えねば、神の元に行けんでは無いか!」
「え?!そんなルールあるの?!」
「軍神マールズ様はお認めにならんだろうな。」
えぇ……?てか、この世界は、死んだ時のルールが違うのか?
うーむ。よく分からんな……。
まぁ、今はいいや。
「んじゃ、オレが使者役やるから良いよ。使者の旗とか目印とか無いの?」
「うーむ……。敵方に伝令を送るような事は無いからな。雇用の交渉も、戦場に赴く事はしないな。」
「降伏の目印は?」
「それなら、白旗だな。」
「んじゃ、それでいいよ。持ってく。」
「な?!ま、待て!」
オグマ団長は、焦ったように肩を掴もうとしてきた。
オレはこの世界の常識は知らん。
知らんが、あんな地獄絵図みたいに人が死にまくる光景は普通に嫌だわ。
だから、なるべく死人が出ない方向で動く。
砦を落とせば良いんだろ?
「待たねぇよ。寧ろ、団長。アンタ達が待ってろよ。」
少しだけ神力を解放して凄んでみたら、団長は大人しくなった。
白旗をバッと引っ掴んで、砦に向かう。
ちゃちゃっと終わらせて来てやろーじゃないの。
いざ参らん!
と、思ったら、ニケが走ってきた。
「レイ!どこ行くの?」
「どこって、砦だよ。」
「えっ?!一人で?!」
「まぁ、使者のフリだし。」
「えっ?どういう事?!」
何やら物凄く知りたそうだったので、仕方が無いので歩きながら教えてあげた。
「――って事。だからまぁ、ニケは皆と待ってたら良いよ。」
「……アタシも行く!」
なんでやねん!?
「いや、別に戦いに行くワケじゃないよ?」
「いいの!行くの!大体、10歳のレイ一人だけとか、怪しいでしょ!」
む、そうだった。オレ見た感じガキんちょだったわ。
とはいえ、ニケも背格好そんなに変わらないよねぇ……。
うーん。
ま、いいか。
新装備……神装備?あるし、ニケも死にはしないだろ。
「んじゃまぁ、一緒に行きますか。」
「うん!」
そんな感じで、オレ達は初仕事に向かった。
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