2.10 話 傭兵団
前回のお話:全裸にされた
――ガンガンガンガン!!
金属を乱暴に打ち鳴らす音が、雑踏を切り分けるかのように響く。
「注目!ちゅうもーく!!我ら、デッシュ傭兵団!団長はデッシュ様だ!」
お立ち台の上には、ケバケバしく着飾ったチョビ髭の男がふんぞり返っている。どうやらデッシュというらしい。
そのお立ち台の前で大声を張り上げる甲冑姿の大柄な男。
兜は脱いでおり、厳つい顔に幾つもの傷痕を貼り付けていて、歴戦である事を暗にアピールしているようだ。
「此度は!デッシュ傭兵団!人員募集である!
この百戦錬磨のデッシュ様の元、武勲を上げたい勇者は居らぬか!」
アーサの広場は、朝からごった返していた。
中央には、いつ枯れたのかも分からない朽ちた噴水跡があり、その周りをぞろぞろと人の群れが回遊魚の様に行き交っている。
屋台も幾つか建ち並んでいて、買い物客も居るようだ。
屋台への客引きも目立つ。
他には、荷を載せたロバのような動物を引く行商人らしき者、壊れた甲冑を身に付けている者、大量の……おそらくは奴隷を引き連れている者までいる。
傭兵団の勧誘演説は、デッシュ傭兵団だけでは無い。
そこかしこで人集りが出来ている。
その人集りを作っているのは、その殆どがみすぼらしい風体の男達だった。
「ああ……もう。朝から酷い目にあったぜー。」
「いや……あれは……!うう……ごめん。」
「まぁ、いいけどさぁ……。何とか誤魔化したし。」
ニケと寝てた、のはいいんだ。
問題は、そう。二人とも裸だったんだよ。
ニケは自分で脱いだんだが、オレは脱がされてた。
しかも、女体化してたんだ、オレは。
「ダンナ!朝食でさぁ!」
と、宿屋のオヤジが来たもんだから、ついそのままベッドから出ちゃったんだよなぁー。
失敗だった。
「だ……ダンナ……じゃなかったのか?!嬢ちゃんだったのか!!」
ってな感じで驚かれたから、一分前からやり直してもらった。
朝っぱらから神力無駄遣いしちゃったよ。
なんかこの世界、神力の回復遅いような気がするんだよな。
あんまり疲れがとれてないというか。
あの酷いメシのせいだろうか。
例の如く、朝飯も酷い感じ……というか、夜と同じだったから、ニケに全部あげた。
オレはどうせ食わなくても平気だしな。
むしろ食ったら具合い悪くなりそうだし。
ん。まぁ、それはいい。
そんな事より、情報と活動資金ゲットしなきゃだわ。
「で、ニケさんや。傭兵団、どれがいいのさ?あのど真ん中で目立ってるのはどうなの?」
「うーん。アタシは戦奴隷だったから、傭兵団については詳しくはないんだけど……
傭兵団は、団ごとに方針が違うとかで。」
「方針?」
「雇い主が居ての傭兵団だから。玉砕覚悟のところもあれば、団員優先のところもあるって。」
「へー。」
「あの、デッシュ傭兵団?は、団長が随分着飾ってるから、団長や幹部だけが儲かればいいって方針なんじゃないかな。」
「なるほどなぁー。ニケ、結構賢いんだなぁ。」
「うぇ?!ど、どういう意味?!」
「いや、普通に感心しただけ。」
実際、奴隷ってものを知らないが、あまり学はないんじゃないかというイメージだった。
が、ニケの話は中々に分かりやすいし、分析も的を得ている気がした。
「そうだなぁ……。じゃあ金は置いといて、情報がたくさんありそうな傭兵団とか無いかな?」
ニケは、顎に手を当てて、考え込んだ。
「ん〜……。アズリア神族の加護を受けてるとか言ってた傭兵団があったかも。」
「ソレだ!で、どれ?」
「うーん……。噂で聞いたくらいだから、この街にいるかどうかは……。」
「そ……そうかぁ……。」
まぁ、そんなに都合良くは行くまい。
ニケも、知識量としては多分あまり無いからな。
集団に所属してみるのも一つの手だ。
とりあえず、広場を見て回ろう。
「じゃあまぁ、順番に見て行こうか。」
「うん。」
あらヤダ、ニケさんったら。さり気なく腕を組んでくるじゃないですか。
まぁ、混んでるしね。はぐれるよりはいいか。
オレ達は、そのまま一通り広場中の傭兵団を見て回った。
何とまあ七つも団員募集をしていた。
まぁ、ニケが居た戦場も、人がゴミのようだったしなぁ……。
常に人手不足なんだろう。
いつだったかに騙されて参加したマルチのセミナーの台詞みたいだったなぁ。
ブラック企業の兵士はいくらでも替えがきく、だっけ。
ふーむ。
この世界、地球で暮らしてた時の環境より遥かに酷いな!
今のとこ、良い部分全く見てないぞ。
早いとこ脱出したい。マジで。
しかし、どっか傭兵団に所属するにしても……色々なタイプの団長が居たなぁ。
なんというか、見本市みたいだった。
ケバい奴、ゴツい奴、胡散臭い奴、怪しい奴、腹黒そうな奴、お高そうなイケメン、あと、団長自ら演説してるところもあったな。
どれにするかなぁ……?
「ニケ。どの傭兵団がいいと思う?」
オレは多分、どこに入ろうが生き残れはするし、どいつが情報を持っていそうかも見ただけでは分からなかった。
ここは是非、先輩の意見も聞きたいところである。
「うーん。弱そうだけど、分け前が良さそうなのは、オグマ傭兵団かな?」
「あー、団長が演説してたところか。」
「うん。」
まぁ、確かに弱そうだった。
団長もだが、団員も弱そうだったな。
だがまぁ、それもいいだろう。
あんまり上から理不尽な命令とかされたら嫌だしな。
話の通じない奴は苦手なんだよな。
「よし。オグマ傭兵団にすっか。」
「うん。」
――
広場に戻ると、雑踏は少し落ち着き、演説を行っていた傭兵団達もちらほらと撤収の準備を始めていた。
目当てのオグマ傭兵団はというと……
「我等オグマ傭兵団は!適正な分け前と!公平な出世チャンスを約束する!手柄に見合った――」
まだ演説をしていた。
取り巻きであろう甲冑姿の男に声を掛ける。
「なぁ、アンタ、オグマ傭兵団の人かい?」
「お?そうだが、どうしたボウズ?」
「傭兵団に入りたいんだが。オレと、もう一人。」
「おお!ホントか?!
って言いたいところだが……ガキんちょ二人じゃねぇかよ。入ったところで、すぐおっ死んで終わりだぜ?悪ぃこたぁ言わねぇから、止めときな。」
その男は、オレ達二人を見て、そんな事を言った。
ふーむ。中々良い奴そうだな。
「まぁまぁ。そこら辺は自己責任って事でいいからさ。な?頼むよ。」
「はぁー?知らねぇぞ?まぁ、もう直に募集演説も終わるから、団長と話してみるこったな。」
「おうよ!ありがとな!」
さてさて。久々の面接試験ですなぁ。
ありがとうございました!
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