1.3話 神泉
前回の話 : ブラックアウト!!
ゆらゆらとした浮遊感が、心地いい。
じんわりと身体に何かが――流れ込んでくる。
ふわふわ……漂って……
ぷかぷか……浮かんで……
ぶくぶく……沈んで……
ゆらーりゆらーり……
気持ちいい……
ゴボゴボ……
「ブハッ!」
なんっだこれ?!
池? 泉?
沈んでたわ! 危ねー!
「あ! ボスー! おきた!」
泉の辺にルビィが居た。
飛び掛って来るかなと思ったけど、
「じいちゃんよんでくるねー!」
と、直ぐ様元気良く走って行った。
ルビィよ。居たなら引き上げておくれよ。危うく溺死するとこだよ。
あと、オレ、ビタビタになってるよ。紛れも無くズブ濡れだよ。
風邪とかひいたりしないかな? 大丈夫かな?
神族は丈夫なんだっけ? 病気とかしない感じ?
だとしたら問題無いのか?
まぁ水温も、そんなに低くもなさそうというか、むしろ心地良さまであるくらいだしな。
とはいえ、ビタビタはちょっとな……。
タオル……とかあるのかな? この世界。
などと呟きながらその場に立ってみると、泉は足が着く。
……腰までくらいの深さだった。
少し落ちついて周囲を見渡してみる。
洞窟内は、ブルーグリーンの淡く光る壁面だったが、ここは壁面の輝きが入口より強いように思える。
それと、水底からも淡い光が漂っている。
前世でいうと、青の洞窟みたいなイメージだろうか?
いや、反射光でだけではなく、水底自体が淡く発光している分、揺らめき躍る光が生み出す景色は、もっと幻想的な風景だな。
全身ズブ濡れなのも忘れるくらいの衝撃的な感動がある。
ナイトプールみたいな人工物では無い、超自然的な美しさ。
例えるなら、養殖物と天然物、どっちがいい? という感じか。
……ちょっと違うか。
……それにしても、この世界は絶景だらけなのか?
それとも、前世の記憶に引っ張られて、そういう気分になってるだけなんだろうか。
この世界がどんな所なのか、まだまだ分からない事だらけだが、ルビィと再会出来た事と、絶景を見れた事だけでも、来た甲斐があった、気がする。
「あ」
水面にぼんやりと映る自分の姿を見た。
前世とちょっと違う気がするが、水面はゆらゆらと煌めき、はっきりとは分からなかった。
ただ――髪色は明るくなってるような気がした。
「お目覚めになられましたか。」
ルビィに呼ばれて、シンザーリルがやってきた。
「此処が、我等の護る聖なる泉。神泉と呼ばれておる、神力が宿った泉にございまする。
世界各地に、神族の遺したこのような場所が多数ありましてな……」
シンザーリルの話では、力を使い果たしたオレを回復させる為に、神力溜まりである泉に浸けていたらしい。
まぁ、それは普通に有難い話なんだが……。
溺れないようにしといて欲しかった。
あの状態だと、寝起きドッキリじゃないか。
ワザとか? ワザとなのか? そういうプレイが好きな感じなのか……?
それはそうと、神力溜まりか。
誰の仕業か知らないが、ソールフレイヤの弁では、神族は基本的に自由気ままな暮らしをしているというしな。
さもありなん。
あ!
そうだ。
あれから負傷者達はどうなったんだろう。
ブラックアウトしてしまったから、経過が分からんな。
「で、皆元気になったかい?」
シンザーリルの方に向き直ると、目に入らんばかりに水が滴り落ちる。
まだそんなに濡れてたのか。と、少し鬱陶しさを覚え、髪を掻き上げた。
多分、オールバックみたいになってるだろう。
「ええ。それは勿論、元通りに。
いえ、老兵に至っては、若返っておりましたぞ。あれは一体……
御身のお力は、単純な治癒という訳ではないのですかな?」
能力かぁ。詳しく話していいものなんだろうか?
うーん。
いや、まぁ、今はやめとこう。
切札は隠すものだよな。
能力バトル物だと、大体そんな感じだよな。
能力バトル、するのか知らんけど。
「そんな事より、負傷者の経緯を教えてくれないかな?
何で怪我しちゃった――とかさ。普通に治らない、っておかしな話だよね。」
強引に話題を変えた事で、シンザーリルは何かを察した顔をした。
理解が早くて助かります。
「ふむ……。大猪族の一党が、どうも攻めてきておる様でしてな。
奴等はここより北、チョモラ山を根城としておるはずが、近頃この神泉の森で遭遇する様になったのです。
負傷した者の話では、奴等は会話も出来ぬ程、興奮状態だったと……。何故傷の治りが遅かったのかも分かりませぬ。」
狩りに出掛けていた大狼の一団が、何故か神泉の森に居た大猪族の一団に、たまたま出会した所、問答無用で争いになったらしい。
「あー、だから見廻り当番……。なるほど。」
ルビィったら、ちゃんと状況理解してたのかな?
あんまり説明してくれなかったけど。
「東のクコの森に、我等が友誼を結んでおる神狐の民がおりましてな。どうやら、そちらにも攻め入っておるようですな。
山向こうの事は、我等には噂すら分かりませぬが……」
……要約すると、山から大きな猪が下りて来て、森で暴れてる。
それに狼と狐がやられた、他は密な交流も無いから分からない、自然治癒力が落ちた原因も分からない、という事かな。
ふーむ。山に行くか、森に行くか、どうしようか。
「よし。先ずは神狐の民に話を聞いてみよう。シンザーリルさん。ルビィを借りてもいいかい?」
こういう時は、まず情報収集でしょ!ゲームでも、知らないウチに無茶すると、すぐ死んじゃうしな。
転生早々いきなり死ぬのは勘弁して欲しいからな。冥界行きは御免だぜ。慎重にいかなくては。
「勿論。聞けば、縁深き間柄との事。
ルビィは、我等一族では一番の実力者。きっとお役に立ちましょう。レイリィ様に、託しましょうぞ。」
「有難い。
てか、ルビィって、本当に強いんだなー。」
「そうですな。大猪の長にも引けは取らぬかと。」
大猪の長ってのが、どんなのか知らないけど、デカ過ぎる狼のルビィとタメを張るレベルなら、推して知るべしだな。恐ろしあって感じ。
「それと、こちらを。」
スっとシンザーリルが何か差し出してきた。
簡素な袋に入れられたそれは、仄かに光る拳大の石と、少し黄色味がかった鈍銀の塊だった。
「これは?」
「神泉の洞窟の一部とでも言いますかな。稀に剥がれ落ちるのです。
希少な物でしてな。欲する者もおりましょう。お持ちになれば、何かのお役に立つ事もありましょう。」
……お金代わり? かな? それとも素材的な?
「綺麗だし、いいね! これ! ありがとう。」
普通に綺麗な石だぞ。ふふふ……いい物貰った! 結構嬉しい。
タオルは出して貰えんかったけど、こっちの方がいいな!
「何の。負傷者を治して頂いた事に比せば、些少ですがな。」
「そんな事無いよー。普通に嬉しいよ、これ!
あ、そうそう。忘れるとこだった。」
話も纏まったところで、懐から神スマホを取り出す。
旅立つ前に、この風景――撮っとこう。
お読みいただけまして、ありがとうございました!
今回のお話はいかがでしたか?
並行連載作品がある都合上、不定期連載となっている現状です。ぜひページ左上にございますブックマーク機能をご活用ください!
また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!
ご意見ご要望もお待ちしておりますので、お気軽にご感想コメントをいただけますと幸いです!