2.6話 宿屋といえば、風呂だよね。
前回のお話:道を歩けば襲われる
案内された部屋は、このボロ宿では一番広くて上等な部屋らしい。
一応、スイートルームという事になるのかな。
まぁ、確かに……ベッドっぽいものは、ダブルベッドサイズくらいだし、椅子二脚とテーブルもあるし、脱いだ装備や衣服を置ける棚なんかもある。
空間自体も広目だな。
とはいえ、ボロボロなのだ。
でも当面は自由に使える。
と、くればだ。直してしまえばいいのさー。
「よし、リセット完了っと。ニケ、入っていいぞー」
リセットをする迄の間、ニケには廊下で待ってもらっていた。
まぁ、もう既に特に意味は無いかも知れんけど。
なんたって素性バレてるしな。
「わっ?広いし、やたら綺麗な部屋だね?」
部屋の中の様子を見渡し、ニケは目を輝かせている。
まぁ、あんまりいい暮らしはしてなかったんだろうから、そうなのかもなぁ。
「な、良かったな!でも、風呂が無いのがなぁー」
「風呂って?」
「なっ!?ブルータス!お、お前もかっ……!」
「ブルータスってだれよ?アタシ、ニケだけど。」
当然ながら、地球ネタは通じず、ニケには怪訝な顔をされる。
まさかこの世界にも風呂の文化ないのかな。
いやいや、人間の世界だろ?まさかねぇ……
ニケは奴隷だったらしいから知らないだけなのでは?
「いやー、まさか風呂を知らんとは……」
――コンコン
「ダンナ!サービスです!」
「ん?どした?」
ギイッとドアを開けて、宿屋のオヤジが入って来た。
「大桶と、拭布を……おぉぉぉおぉぉ?!なんじゃこりゃぁ?!新築みたいじゃねぇか?!な、何があったんでぇ?!」
オヤジは、部屋の現状を見て、腰を抜かしていた。
「あ、そうだ。飯とかあんの?あとさ、風呂欲しいんだけど。」
「は……め……飯ですか。ま、まぁそりゃ有りますが……。
風呂ですかい?この桶が代わりですが……
欲しいとは、作れという事で?」
「んじゃ、飯は後で二人前、持ってきてもらえる?」
「そりゃもちろん。」
「んん~……。風呂の代わり、コレかぁ……まぁ、無いもんは仕方無いかぁ……って、中身空だな?」
大桶は、一応子供一人座れそうなくらいの大きさだった。
だが、中身は空だ。
何をどうしろというのか。
あれか?天井から落としてぶつけるのか?
「水は、裏に井戸がありますでな。そっから運んでくだせぇ。ダンナからは金は取りませんで。」
「裏庭が……あんの?広い?」
「へ?まぁ、ざっとこの部屋二つ分くらいですかい」
「分かった。まぁ、もしかしたらまた現地を見てからちょっと提案するかも。そん時はよろしく!」
「へ……へい。……ダンナは不思議な人だ。部屋も一瞬で綺麗に直ってるしな……。贔屓にさせてもらいまっさ。
飯の準備の間にでも、身綺麗にしといてくんなせぇ」
オヤジは、そう言い残して部屋を後にした。
ニケはそれを見届けると、アイギスとタラリアを外して、棚に置いた。
オレも装備たちを外しますかねぇ。
刀帯を外し、刀達を棚に置く。
服も、扇子に戻して、隣に並べた。
「えっ?レイ、いま何したの?」
「ああ、オレの服というか、羽織、神具だからさ。扇子になる……というか、扇子が服になるんだよ。まぁ、ニケのアイギスみたいなもんだな。」
「へー。」
ニケのアイギスは、変形する。
盾だったり、甲冑だったり、姿を変える神具になったのだ。
まぁ、そんな伝説をイメージしてたんでね。
「ねぇ、コレ、見てもいい?」
ニケは、我が愛刀たちに興味津々の様子だった。
まぁな、かっこいいからな。見たくなっちゃうだろ?
うんうん。仕方ない。後で見せてあげるとも。ふはは。
でも先にキレイキレイしないとね。
「いいけど……身体拭いてから……あ!」
そういえば、井戸がどうとか言ってたな。
装備オフするの早かったわ。
「えっ?どうしたの?」
「いや、お湯を用意するの忘れてたからさ。」
「お湯?」
ニケは、きょとんとした。
オレは、扇子を開いて、再び和装に。
そして雪月花を抜き、桶にお湯を貯めた。
「えぇっ?!なにそれ?!」
「何って……お湯を貯めた。神具の力だ!」
「す……すごいけど……ちょっと地味だね。」
はっはっは。何を仰いますかお嬢様。
お湯をぱっと何も無い所から出せるとか、チートも過ぎるぞ?
めちゃくちゃ便利だかんなぁー。
「さて。小さいが、ギリ入れるだろ。ニケ、入ってみるか?ミニ風呂。」
「は、裸になれって事?ちょ……ちょっと恥ずかしいかな……。」
ニケは、頬を赤らめながら、少し俯いて呟いた。
あっ!そうだわ。
普通はそうだわ!獣族+アマネに慣れ過ぎて忘れてたわ!
いつの間にかオレも人間辞めてたらしい。
いや、まぁ人間じゃないんだけどな。
「すまんすまん。オレは外出て……」
「ん……レイ……だったら、いい……かな。」
そう言うなり、ニケはするすると衣服を取り去り、全裸になった。
……やはり、ガリガリである。可哀想に。
うーむ。ちゃんと食わせてやらないとだな。
「よし、じゃあ、背中拭いてやるよ。」
「え、うん。ありがと。」
背中も背中で、骨が目立つ。
何ともやり切れない気分になるな。
まぁ、ニケが独りで生きられるようになるまでは、保護した方がいいのかもなぁ。
帰る手段を探す旅にも、アイギスとかもあるし、連れてってもいいだろ。
この世界に、安全で平和な場所があるとも思えないしなぁ……。
「よし、背中終わり!残りは自分でやりな?」
「あ、そ、そっか。ありがと。」
――
ニケが身体を拭き終わり、オレの番。
ミニ風呂にどっぷりと浸かり込み……
つっても、さすがにめっちゃハミ出てるんだがな。
もうなんか半身浴にすらなってないな。
四半身浴って感じだ。
――コンコン
「ダンナ!飯お持ちしましたぜ。」
「お、ありがとう!」
再びオヤジはギイッと入って来た。
その手には籠が下げられていた。
「……ダンナ、その桶はそう使うんじゃありませんぜ?」
オヤジは部屋に入るなり、残念な子を見るような目でそんな事を言う。ヒドイッ。ヒドイわッ。
「まぁまぁ。風呂代わりなんだろ?だからそうしてんだよ。」
「……ダンナ。しばらくウチにいるんなら、風呂桶、何とか用意しますぜ。代わりに……」
「宿中綺麗にしようか?」
「ま、まさか!ダンナは心が読めるんで?!」
「いや、そんな事は出来んよ。たまたま一致しただけだろ。じゃあまぁ、近い内にやっとくよ。客の居ない所からな。」
「そりゃありがてぇ!よろしく頼んまさぁ!」
オヤジは、スキップするんじゃないかってくらい上機嫌な様子で部屋を出て行った。
ありがとうございました!
少しでもご興味いただけた、ちょっとは応援してやってもいいかなというお優しい皆様!☆評価☆やブクマ、是非よろしくお願いします!